第七十一話 大切だと思ったから……
俺とケンジはそのままリンダさんに応接室に案内された。
「まぁ、立ち話もなんですから気を楽にして座ってください」
俺たちは黒革で出来たソファーに腰を降ろす。俺の前に室長さんが座り、その傍でリンダさんは立つ。
「じゃ、ケンジ君。これに手をかざしてくれないかい?」
室長さんはスクリーンのような画面を出し、ケンジの前にそれを見せる。ケンジがそれに手をかざすと『冒険家として登録完了しました』とスクリーンから音声とこの世界の文字が浮かび上がった。
「これでケンジ君の冒険家として登録は終わりだよ。晴れて本日から君は冒険家ギルドの一員だ。おめでとう、ケンジ君」
「ありがとうございます!」
にっこりと笑う室長さんに無事に冒険家ギルドに入れたことに喜ぶケンジ。俺もその姿を見て思わず顔が綻んでしまう。
聖霊王祭……色々大変だったけど、頑張ったかいがあったな。
でもこの和やかな雰囲気の中、一人だけまだ浮かなそうな顔をしている者がいた。リンダさんであった。
「すまないね。普段、リンダ君は冷静沈着でこんなにムキにならないクールな子なんだがねぇ」
「……すいません」
室長さんはそう言うと困った風に横に立つリンダさんを見つめる。
「リンダ君の物言いは少し冷たいような印象にも聞こえるが彼女はケンジ君の身を案じてあえて厳しく突き放したんだ。リンダ君もプロの冒険家ゆえ冒険は楽しいことだけではなく、如何に危険なことかも重々知っているのだよ。全てはケンジ君のためを思ってこそ言った発言。どうかリンダ君のことを許してやってほしい」
「い、いえ……!気にしてないんで」
「そうだな。その、リンダさんの……言うことも正しかったしな」
「そうかい?そう言ってくれると助かるよ。良かったね、リンダ君」
「はい……」
ケンジと俺の言葉を聞き安心そうにする室長さんに対し、やはりまだ何処か浮かない顔をするリンダさん。そもそもなんでリンダさんはこんなにケンジの加入を頑なに拒んだのだろう?
「実はね、リンダ君にはケンジ君と同じ年の弟がいるんだ。それはもうとても可愛がっていて……」
「室長、それって個人情報ですよね?」
「いたたた!リンダ君、頭が痛いよ」
UFOキャッチャーのアームの如く見事、片手で室長さんの頭を鷲づかみにするリンダさん。うわぁー、手にめっちゃ力入ってるー。
「はぁ……もう室長がお決めになったことなら私はそれに従います……。ていうか第一、私がどれだけ言っても室長が意見を曲げたことなど、今の今まで一度もないじゃないですか」
「ははは、流石はリンダ君。私のことをよくわかってくれていて、嬉しいよ」
リンダさんの手から解放された頭を擦りながら、呑気にそう喋る室長さん。このおじさん、なよっとしたイメージもあるが見かけによらず結構な頑固者らしい。
「あっ、そうだ!忘れるところだった!」
「ん?どうされましたか?」
危ねぇ危ねぇ……。すっかりケンジの冒険家ギルドに加入出来たことが嬉しくて忘れていたが、俺は解体屋のじいさんから頼まれ事をされていたのを思い出した。
「すいません、このギルドに『ダルクス』って人いますか?解体屋のアレックスさんに手紙を渡すよう頼まれたんですが……」
「おや?それならきっと私のことですな」
「え」
「このギルドにダルクスと言う名を持つのは私しかおりませんので」
ダルクスさんはそう言うと俺から手紙を受け取り、封筒を開けた。




