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第五十一話 (閑話)勝負にカツ!

 俺たちは明日に備え、近くに宿をとって泊まることにした。だが、ここでも失念したことが一つだけあった。それは…。


 「……まずぃ」


 ここは二階は宿屋だが、一階には飲食できるスペースがあった。夜ご飯でもと思ってケンジと共に夕飯を頂きにきたのだが…。如何せん、ここの世界の料理は俺の舌とは少し合わないんだよなぁ。


 「うぅっ……。まじゅぃ」


 ケンジもうっすらと目尻に涙を浮かべながら、ご飯を食べている。

 いかん、俺の料理を食べてすっかり舌肥えてしまったケンジにも被害が!

 このままでは明日の試合にも影響が出そうだなと本気で考えた俺は仕方ないと厨房の方へと向かう。


 「あのー、すんません」

 「はい、なんですか?お客さん」


 厨房に立つのはここの宿屋を経営している40代ぐらいの夫婦。どうやら料理もこの二人で作っているらしい。旦那さんの方が俺を見る。


 「突然で悪いんですけど、少しだけ厨房をお借りしてもいいですか?」

 「えっ、それは流石に…困りますよ。お客さん…」

 「そうよねぇ。私たちも夕飯に向けて色々と準備がありますし…」

 「そこをなんとか!台所を借りるお金もちゃんと払いますし、ちょっとのスペースでいいんで!」


 「ねぇ?」と必死に頭を下げ頼む俺に対し、二人は同情してくれたのか一部のスペースを貸してくれることとなった。やったね!


 「よし。それじゃ早速始めるか」


 俺はスキル【運搬】で閉まっておいた豪足の闘牛(マッハバイソン)の肉を取り出し、切れ目を入れたらしっかりと両面に塩胡椒を刷り込む。そしたら、小麦粉をうっすらとつける。

 夫婦も俺が何を作るのか興味があるのかチラチラと作業しながらも覗いてくる。


 「すいません、卵とパンって少し分けてもらっていいですか?」

 「えっと、パンは少し乾燥して固くなっちゃってるのでいいなら…」


 いや、むしろ俺が作ろうとしているものにとってはそっちの方が都合がいい。

 「ありがとうございます」とお礼をしっかりと言ってから卵とパンを受けとる。溶いた卵に肉をドボンとつけ、したらパンを細かくすり卸しパン粉を作る。肉にパン粉をまんべんなくつけたら、鍋に熱しておいた油でからっときつね色まで揚げてしまう。

 これであっちの世界で流行りの牛カツの完成だ。


 「ちょっと味見を……」


 あまりのいい匂いに堪えられず、俺はちょっぴり味見をすることにしてしまう。サクっと揚げ物の衣が切れるいい音が食欲をそそる。


 「んー!うまい!!」


 サクサクの衣に揚げたてのジューシーな肉汁がたまらん。

 俺がうまそうに食っている牛カツをゴクリと喉を鳴らしながら宿屋の夫婦は俺の後ろで見ている。

 俺はまず腹を一番に減らしているケンジに揚がったばかりの牛カツを運ぶ。


 「ポチ、これなに?」

 「ちょっとここの宿屋の人に頼んでキッチン借りて俺が作った特製牛カツだ」

 「えっ!これ、ポチが作ったヤツ?」


 そう言うとさっきまでの憂鬱な顔は何処へやら。目をキラキラと輝かせ「いただきまーす!」と牛カツを頬張る。子供は正直だな。


 「サクサクして、お肉も柔らかくておいしー!」


 よし、これで明日の勝負も勝つ(カツ)!みたいな?

 俺はそんな祈りを込めながらケンジに牛カツを渡す。ケンジも牛カツに大満足したのかもりもりと牛カツを食べる。俺は厨房に戻り、夫婦に牛カツを差し出す。


 「あの、よかったらお二人もどうぞ」

 「えっ…俺たちにですか?」

 「私たちも貰っていいんですか?」

 「あったり前じゃないですか。ここはお二人の料理場だったのに今回は俺の無理やりな願いにも関わらず貸してくれましたし」


 「さぁ、お熱い内にどうぞ!」っと、俺は皿に乗せた牛カツを渡すと二人は戸惑いながら牛カツを口にする。


 「こ、これは…!うまいっ!!うまずきる!」

 「お肉がとっても柔らかくて、このまわりについてるのもサクサクとして凄くおいしい…!」


 二人も牛カツの魅力にとりつかれたようにあっという間に平らげる。


 「ふぅー…初めて食べたよ。こんなうまいもの」

 「えぇ!何故今までなかったのか不思議なくらい!」

 牛カツをお気に召したのか夫婦は上機嫌になっていると。

 「なぁ、俺たちにもあの小僧が食べてると同じのくれよ」

 「俺もー!なんか、アレめちゃくちゃうまそうな匂いがするしなぁ」


 次々に牛カツの匂いに引かれたのか男たちが押し寄せる。


 「えっと…これは」


 お客さんたちの注文に困っている店主さん。なんだか俺は申し訳ない気持ちになってしまったので「作りますよ」と答える。


 「ただし、牛カツ一枚につき銀貨3枚だからな!」


 だが俺はこの選択を後で、後悔することなる。俺が許可すると同時にあっという間に牛カツの注文にが大量に入り、台所は大慌て。

 「て、手伝います!」と夫婦たちも豪足の闘牛(マッハバイソン)の肉に味つけして、小麦粉をつけたり卵をつけたりと手を必死動かす。俺はただひたすらに肉を揚げるロボットと化す。


 「うめぇー!なんだこれ!!」

 「うまい!エールも頼む!」

 「は、はーい!」


 やれやれ、なんでこんな大騒ぎになってるんだろうね…。

 すっかり一階は酒飲みの男共に占拠され、どんちゃん騒ぎ。

 ていうか俺、作った本人なのにまだちゃんと牛カツ食ってなくないッ!?

 俺がそう心の中でつっこんでいるとケンジが厨房に牛カツのおかわりを求めやってくる。


 「ポチー!今度はあの黒いソースもかけて!」

 「あー、はいはい」


 俺はとっておきのソースをケンジの牛カツにかけてやる。俺がこの3年で試作に試作を重ねて作ったオリジナルソースをケンジは気に入っている。


 「ありがとうー!」


 そう言うと足早と席に戻っていくケンジ。……子供は正直。


 「ポチさん、それはなんですの?」

 「あっ…、これですか?俺が作ったソースですよ」


 「舐めてみます?」と聞くと二人はコクコクと首を縦に振り、興味津々でソースを手につけ舐める。


 「甘い…!でも、これは砂糖だけじゃないな…」

 「そうねぇ、まるで色んな野菜や果物が溶け合ったような…。そんな優しい甘さを感じるわ」


 不思議なソースな味にびっくりしている二人。


 「なんだ?なんだー?」

 「なんかまたうまいもんかー?」

 「俺たちにもそのソースとやらかけてくれよー!」


 出たな、ハイエナ共め。

 うまいものには目敏い奴等が厨房に押し掛けてくる。


 「ちくしょう、もうこうなったら俺もやけだー!!」


 どうにでもなれぇー!

 俺は秘伝のソースをハイエナ共の牛カツにもかけちらかしてやったぜぇ。

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