第五十二話 (閑話)俺、伝道師となる
豪足の闘牛の肉も完売し、すっかり騒ぎも落ち着いた頃。ようやく俺も夕飯にありつけた。
はぁー、なんで本当こんなことになったのかな…?
そう思いながら俺は牛カツをかじる。カツ、うめぇー。
「お疲れ様でした、ポチさん」
旦那であるクリフさんは俺にお茶を出してくれる。
「すみません。お客さんであるポチさんを働かせてしまって」
「いや、自分でやるって決めちゃったことですし…」
でも、おかげでくたくたですけど…。
「けど、ポチさんのおかげで今日はこの店一番の売り上げでしたわ!」
そう嬉しそうに語っているのは奥さんのハンナさん。
んまぁ、店が繁盛してそりゃー何よりですわ。
「あの、ポチさん。こんなこと頼むのなんて厚かましいとは思いますが、是非このギュウカツとやらを宿屋の看板メニューとして出してもよろしいでしょうか?」
「へっ?」
俺はクリフさんの突然のお願いに目を丸くする。
「俺たちの宿屋は見ての通り、ただのしがない小さな宿屋。恥ずかしい話しですがこの宿屋にはこれといったものもありませんし、今では色んなところに宿屋も出来てしまい、客足は次第に遠のくばかりで…」
「クリフと二人で何かいい打開策はないかと模索していたところだったんです」
「え、えっと~…いいんじゃないかな?」
まぁ、元々俺がうみ出したものではないし。俺に許可を求められても困る。
「ほ、本当ですか!」
「やったわ!あなた!」
「あぁ!あの料理なら俺たち庶民にも簡単に作れそうだ」
クリフさんとハンナさんは海外映画のワンシーンみたいにひしっと抱きしめ合う。
お二人さん。俺今、絶賛食事中なんですが。
この胸焼け近いムカムカする症状は絶対牛カツのせいではない。そう断言しよう。
「そういえばあの肉は一体なんのモンスターの肉なんですか?」
「豪足の闘牛って奴の肉」
「豪足の闘牛!?」
クリフさんは激しく動揺してしまったあまり近くにあった椅子に足を取られ、ガタンッ!と痛そうな音を立てて、転んだ。
どど、どうしたのッ!?急に!?
「だ、大丈夫ですか…!?」と派手にスッ転んだクリフさんに俺は声をかける。
「す、すみませんッ!俺たち、何も知らないでポチさんにそんな高級な肉を…!」
「どうしましょう…!あんなでっかいブロックの豪足の闘牛の肉なんて、今日の売り上げを全額払っても全然足りないわ…」
肉の正体を知り、二人は顔を真っ青にしながら俺に謝る。あー、そういえばケンジが凄いモンスターだななんとか言ってたなと俺は後からにして思い出す。
「えっ、いや俺は牛カツも作れて満足してますし肉のことなら別に気にしてませんので…」
「でも…!」
「本当大丈夫ですから!」
「なくなったらまた狩りにいけばいい話しですから!ねぇ!」っと、俺はあまり二人に肉のことに関して気に病まないで欲しくて強く念押しすると二人は戸惑いながらも「わ、分かりました…」と頷いてくれる。
「それじゃ、この話は終わりで…」
「いや、それだけではポチさんに何もお返しできていません」
クリフさんはちゃんと借りがお支払いできるまでそこだけは断固として譲らないらしい。
すると、ハンナさんは思いついたようにクリフさんに提案をする。
「そうだわ!クリフ、ポチさんたちを一番いい部屋に変えてあげましょうよ。確かキャンセルが出て今なら空いてるはずよ」
「あぁ、そうだな!是非そうしていって下さい、ポチさん。後、台所の代金も結構ですので」
「んじぁ、お言葉に甘えてそうしますかね」
なんとかそこで話は無事に収まった。ふぅー、よかった。
「でも、豪足の闘牛の肉か…」
「そうねぇ、豪足の闘牛なんて私たちのお金じゃ買えないし…」
クリフさんたちは今度は別の問題で頭を悩ましていたようだったので俺は教えてあげてることにした。
「いやいや、別に豪足の闘牛の肉じゃなくても他のモンスターの肉でも美味しくできますよ?」
「えっ、そうなんですか?」
「はい。工夫次第でにかようにでも」
「よろしければ、伝授いたしましょうか?」と俺が問うと二人共「「是非ッ!!」」と物凄い意気込みで答える。
俺は異世界で初揚げ物伝道師となり、宿屋の夫婦二人に安い牛肉でも美味しくできる牛カツの作り方を教えてあげた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あの後、ハンナさんにツインの広々とした部屋に特別に案内され、俺たちはその部屋で寝た。広いベットでのびのびと寝ることができたおかげか、昨日の疲れもしっかりと取れていた。
朝ご飯は昨日のとっておいた牛カツで作った牛カツサンド食べて俺とケンジは宿屋の夫婦にもう一度礼を言う。
「そんじゃ、1日だけだけど色々と世話になりました」
「お世話になりましたー!」
「いえいえ、こちらこそとんでもない!」
クリフさんはにっかと笑いながら俺たちを見送る。
「そう言えばケンジ君は聖霊王祭に参加するんだって?無茶はしちゃダメだぞ?」
「後から私たちも店を閉めて応援に行くから頑張ってね!」
「はい!ありがとうございます」
クリフさんとハンナさんから激励を受け、ケンジもやる気満々のようだ。
「よし、行くか」
宿屋を後にした俺とケンジは毎年聖霊王祭が行われるとされるコロシアムに向かっていった。




