第二十六話 和解
村に戻ってからも怪我人とかの運ぶのや手当てに大忙しだった。奇跡的にまだ死人は出ていないものの、それも時間の問題だった。早く重症の怪我人たちを手当てしなければ、命が危ない。だが、ケンジの姿を見た村人たちが囁く。
『おい……あの子って、確かあの噂の捨て子だよな』
『そうそう……。この前まで村の入口いた』
『なんであの子が来てからろくなことが起きないんでしょうね……』
「あ、……あっ……!」
ひそひそと村人たちの中で不安の声が広がっていく。忘れていた大人たちの冷たい視線を思いだし、次第にカタカタと体を震えさせ始めるケンジ。
こいつらぁ……!
もう喋るスライムや化け物と驚かれても嫌われても、構わない。カァッと頭に血がのぼった俺が声を大にして一言言ってやろうとしたその時――。
「いい加減にせんかぁいー!! この馬鹿共がぁーー!!」
雷のような怒りの声がその場の不穏な空気を切り裂く。現れたのはケンジと契約した日に会った杖をつき白髭を生やした優しそうなあのご老人であった。
「ゴーオラ様!!」
「先代村長……!」
――あの時のじいさん……!村長さんのお父さんだったのか!
ゴーオラ様と呼ばれたじいさんは俺に近づいてあの時のような優しい笑みをかける。
「よう、また会ったのぅ。お主はどこか他のスライムとは違うとは感じではいたが…。まさかその子の従獣魔になって、この始まりの村を救ってくれるとは本当に……感謝の言葉しかないわい」
そう言って静かに俺たちに頭を下げるじいさん。
「ゴーオラ様!! ですがッ……!」
「黙れぃ! 恩人に対し、恩を仇でかえすつもりか!! この痴れ者が!」
「恥を知れ! 恥を!!」とキッと目を吊り上げながら、木の杖で買い物の時にケンジを悪く言った八百屋のおっさんの頭をバシバシと容赦なく叩くじいさん。
年の割りにパワフルだなー、このじいさん。
「貴様らはまだ本当に分からんのか! 真の英雄が誰なのかをッ!」
ゴーオラがコツンッと杖をつく音が響き渡る。すると村人全員に叱責をし始め、ゴーオラの怒号の嵐が飛ぶ。
「村が助かったのはどうしてじゃ? あの暴食豚頭も現れて、奇跡的に今死人が誰一人も出ていないのは何故じゃ? そんなの決まっとる! その子の村を助けたいという純粋な優しい気持ちと勇気ある行動、そして! そんな気持ちを汲み取って動いてくれたこの従獣魔のおかげじゃろうが!!」
うっわ……優しいそうな人が怒ると恐いっていうけどマジで半端ないな。村人、皆びびって自然と正座になってるし…。
俺とケンジのことはまぁ、完全に村人たちが悪いので同情はしないが。ここは黙ってじいさんの話を聞くことにした。
「なのに、我々は……我が身可愛さにそんな優しい子を見て見ぬフリをしたのじゃ。実の親には捨てられ、勝手に村では災いと揶揄され何の根拠もないのに噂までも立てられて、自分は酷い目に遭ったとゆーうのにッ……! それでもこの村を助けてくれた。我々は本当はこの子に見捨てられても……いや、怨まれていてもおかしくなかった」
村人たちは初めて自分がどれだけ恥ずべき行動をしてたか気づかされ、顔を俯かせた。
「この老いぼれの老人と村の者たちのこれまでの数々の愚行、本当に申し訳ございませんでした」
そう言うとじいさんはそっと杖を横に置いて足を曲げ、静かに黙ってよろよろとした老体で俺たちに向かって土下座する。
「ゴーオラ様…!?」
「コラァ! そんな呑気に突っ立てる暇があったら、さっさとお前らも共に頭を下げんかぁ! 馬鹿者共が!!」
そう言われると皆慌てて、ゴーオラと同じように土下座をし始める村人たち。怪我人を抜いても、村人達は五十人以上はいるのでこりゃ盛大な土下座ぷっり。
「許してくれとは言いません。ですが、どうかぁ村の者たちだけは勘弁してやってください。この者たちはまだまだ未熟者ばかりですがまだ若い……未来があります。どうか、出たばかりの芽をお摘みにならないで頂きたい…。変わりと言ってはなんですが、この老いぼれた老人の首で良ければいつでも差し上げるつもりの所存であります」
「ゴーオラ様……」とゴーオラの発言に村人達もざわつき始める。
「そ、そんなっ……! お爺さん! 頭を上げて下さい」
ケンジは突然の土下座とじいさんの首をやる宣言で慌てて始める。
「お爺さん、よく僕の前に食べ物を置いていってくれた人ですよね…?」
なんだ、じいさんもやっぱしてたんじゃん。おかしいとは思ったんだよね。あんなところに一人老人が立ってて、俺のことも毎日ケンジのところに通ってることも知ってたし。
「……たったそれしか出来なかった只の愚かな爺ですよ」
頭を下げたまま、悔しげに呟くゴーオラ。
「でも、お爺さんが食べ物を置いていってくれたから僕は生きてこれてポチとも会うことが出来ました」
にっこりとまるで天使のような慈愛が満ちた顔で頬笑むケンジ。
「ありがとう、お爺さん」
「……ッ!! 年をとると行けませんな、涙もろくなって……」
うっすらと漏れ出てしまった涙を指で拭うゴーオラ。すると、後ろからティプも現れる。
「ケンジだったよな…?」
「う、うん…」
やはりまだティプのことが苦手なのか顔が少し固いケンジ。
「俺も今まで沢山酷いこと言ったりしてごめんなさい!!」
「えっ?」
「お、俺…! とうちゃんがお前のこと可哀想、可哀想って言ってケンジのことばかり見てて…!とうちゃんが俺に構ってくれなくなったのが悔しくて、ケンジに意地悪しちまったッ……! 本当にごめんなさい!!」
必死にケンジに頭を下げるティプ。すると、あのティプにくっついて一緒にケンジを虐めてた二人も、もじもじとした様子で互いの顔を見合っていつ話しの間に入ればいいか分からず、タイミングを窺っている。
「ちょっと、あんたたち! ティプは謝ったって言うのにあんたたちは謝んないつもり?」
綺麗なブロンドをお下げにし、凛とした茶色の瞳に鼻の辺りのそばかすが印象的で正義感の強そうな感じの女の子がびしっと二人を指を差す。
「私、知ってるんだからね? トムもダラムも一緒にあの子を虐めてたこと!」
「わぁー! 今ちゃんと謝ろうって思ってたとこだったんだよ!」
「うぅっ……! そうだ、そうだぁ!!」
すると、トムもダラムも揃ってケンジの前に出て頭を下げる。
「「ケンジ、今まで意地悪してごめんなさい!!」」
「私もごめんなさい。あなたが意地悪されてるの知ってたのに止めてあげられなくて」
ブロンドの女の子も虐めを知って止められなかったことをケンジに謝る。
「ううん。僕、気にしてないから大丈夫だよ」
またあの天使の笑顔を向けるケンジ。うん、無自覚でそれをやってしまう子って恐ろしい。ほれ、見ろ。あの女の子なんて可愛らしく頬をぽっと林檎みたいに赤くしてやがる。
「あっ……! 見ろよ、ララのやつ! 顔、真っ赤だぜ?」
「本当だー! 真っ赤でやんの!」
「う、うるさいわね!!」
そうトムとダラムにからかわれ、益々頬を赤く染め上げるララ。うーん、青春だね。
一気にその場が和む中、村人達の謝罪を込めた声が次々と上がる。
「あ、あの今まですまなかった……!」
「わ、私も! 旦那を助けてくれてありがとう! あんたたちがいなかったらきっと今こうして会うことすら出来なかったよ」
「俺も……! もう二度と嫁さんに生きて会えないかと思ったよ!! 君たちがあの悪食豚頭たちを一匹残らず退治してくれたおかげだ!」
「「「「「本当にすみませんでしたッーー!!」」」」」
謝罪と感謝の言葉でその場が埋め尽くされる。俺も嬉しくなってしまってつい喋ってしまう。
『いや~、一時はどうなることやらと思ったけど良かった、良かった!! これにて一件落着だな、ケンジ! わっははは!!』
すると、ぴったりとあんなに賑やかだったのに皆、急に黙り込む。
『えっ、なんだ? なんで皆、急に黙るんだ??』
「し、喋った……!? スライムが喋ったぁ!!?」
あっ、しまった……。さっき怒ろうとして皆にスキルを【念話】使ってたんだった。すっかり忘れていたわ、おじさんうっかり。
うっわぁ~、せっかくいい感じに話しがまとまりかけてたのに……。面倒くさくなるぞ、こりゃ。




