第七章⑭
ネウはウルバーノが息絶える最後まで無慈悲にふるまうのかと思われたが、最後の、ウルバーノがまだ生に執着している様子を見て、言葉を吐いた。
「……貴方個人に怨みは無いわ。貴方の行いは許し難いけれど。でもね、コンラルトの傀儡に成り下がった以上、化物になってしまった以上、私は貴方を殺さなければいけない」
「嫌だ……死にたく、は……」
「それが、私の義務だから」
ネウの、その最後に発した言葉は、それまでの怒りを含んだ言葉とは明らかに違って、一言でいうならば悲愴さが漂っていた。
心臓を握りつぶされたウルバーノは一瞬時が止まったかのように静止したが、すぐに頭の先から崩れるように灰となり、
無数の塵となって開け放っていた窓から入って来た風によって外へと運ばれ、いずこかへと消えていった。残ったものは、ウルバーノが着ていた衣服と、金時計だけだった。
「…………死んだわね」
「そうです……ね」
わずかに残った灰をその紅玉のような双眼で見つめながらネウはクライン達にその小さな背中を向けて、小さくつぶやいた。心なしか、その背中はとても寂しげで、ただでさえ小さいのが、いつもより一層小さく見えた。
ウルバーノも倒し、自分たちは解放された。これで船に戻り、正規軍を引き連れたアルメンダリスにこの事を報告すれば、クライン達は名誉と海賊討伐の報奨金に加えて、海賊から賠償金を要求して金銀財宝を懐に納めることができる。
海賊船の中にあるウルバーノの資産も、アルメンダリスに許可をもらって合法的に奪う。
そして、金貨や銀貨を船一杯に積んでガーボヴェルディを出航する。
たったそれだけのことだ。
だのに、誰もそのことを口にしようとはしない。クライン達は自分たちを騙し、財産を根こそぎ奪い取ろうとした海賊、ウルバーノを倒した。吸血鬼になったウルバーノはライサによって弱らせられ、ネウによって殺された。
英雄譚にもあるように、正義は悪を打ち倒し、勇者たちは喜び合う。そして物語は笑顔で大団円を迎える。
クライン達にも、そのような展開があってもいいのではなかったのか。
悪行の限りを尽くしてきて、命が惜しいがために吸血鬼という化物に成り果て、欲望の限りを尽くしたウルバーノを倒したのだから。
三人は誰もがそのことに気が付いていたが、誰もそのことを言い出そうとはしなかった。沈黙は長引けば長引くほどに苦痛を伴い、言い出そうとして、諦める。それが浜に打ち寄せる波の様に連続した。
しかし、その苦痛とも捉えられる沈黙を始めに破ったのは意外にもネウだった。
「……クライン、ライサ」
「なんだ?」
「ネウさん」
ネウはクライン達に背を向けたまま、風に散っていく灰を見つめながら口火を切った。
これとなく何をこなすでもない日常。




