第七章⑮
「これから、私はウルバーノみたいに吸血鬼になった人間を十人、百人、もしかしたらそれ以上に殺すことになるかもしれない」
「…………かもな」
「もうこれ以上人間の犠牲者を出さないために、と言えば言葉の上では正当化されるでしょうけれど、貴方達は理解してくれはしないのでしょう?」
「それが、お前の仕事である限りは」
ネウは、「コンラルトと、その手下に成り下がった吸血鬼全員を倒すこと」が本来の目的だ。クライン達は、それを達成するためのネウの都合のいいように動かされる駒に過ぎない。
駒に感情でも抱いたのだろうか。そんな皮肉な考えも浮かんだが、ネウがくるりとこちらに振りかえり、クラインの目をまっすぐと見たことでたちどころに消え失せた。
なぜならば、ネウはこちらの目を見ても少しとして逸らさず、その宝石のように透き通った真紅の瞳の奥を見せてきたからだ。
人間の心理とでもいうのか。こちらの目をまっすぐと見て逸らさないときは、他でもない、本当のことを包み隠さず行っている時の癖らしい。その瞳の奥には、ネウの本心が見えるかのようだ。
「私はそれ以前にも、百万人近い人間を殺してきたわ。……それでも」
「それでも?」
ネウは目尻に涙をにじませながら、鉛のように重たくなっているだろう口をゆっくりと開いた。
「私を……嫌いに、ならないでくれる?」
一瞬、クラインの頭の中が真っ白になった。ネウが吸血鬼関連の事で嘘をついたりする、その理由がようやく理解できたからだ。
ネウは。本当は。吸血鬼とはいえ、もともとは人間だったウルバーノのような人間を殺したくはないように思える。
ネウは幼子の様に、自分の弱みを相手に握られるのを極端に嫌う性格だ。時によっては逆にそれを利用してこちらの弱みをつかみにかかるあたり、自分はされて嫌でも、自分が他人にするのは許すのだろう。
しかしネウはそれ以上に、他人に知られたくないことがあった。それは「吸血鬼になった」自分だ。
クラインはネウが海賊たちを貪り食っているのを現に見た。それはまさしく、他に例えようのない、寝物語の「吸血鬼」そのものだった。クラインは「見た」が、ネウにしてみれば「見られてしまった」と言うべきだろう。
ネウが言っていた内容を真実とするならば、ネウはもう老いて、人間を、自分達に害を及ぼす化物でさえ喰うことに抵抗があるのだろう。だが、「吸血鬼の血」はいまだに生きていると断定できる。
それは、ネウが海賊たちを惨殺した時にこちらを見た、あの血に飢えた狂気の瞳を思い出せばわかる。ネウの本心とは裏腹に、吸血鬼としての本能とでもいうべき狂気が、ネウを支配した結果だ。
ちょっとうれしい日




