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幻想見聞録  作者: 藤宮周水
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第七章⑬

「早く言えよ」


「ああ、言うとも。……ネウ、ライサ。こいつの遺言は「早く言えよ」だそうだ」


「ハ、アッ……?」


 クラインは、あのネウの様に悪戯な笑みを作り、後ろで既に攻撃態勢を整えていた二人に合図を発した。


 二人はクラインに言葉を聞くなり、ネウは背後でライサの投げるナイフを、後ろを振り返りもせずに巧みに避けながらウルバーノに接近してウルバーノに重たい一撃を加え、ライサはまだ多く所持していたナイフを手に持てるだけ装備し、一気に放つ。


 練習もしていないのに、よくもと思うほど、絶妙に息の合った行動だった。


「背後の注意を怠ったな」


「くそ、貴様!」


 一瞬のうちにクラインの首を絞めていた手から力が抜け、やっと地面に足がついた。


 後ろを振り返ると、ウルバーノには数本のナイフが背中に刺さっており、それに気が付いたクラインは攻撃が成功したことを知ってほっと一息ついた。

「なんのっ……これしき……っ!」


「今度は降参すら許しません」


 ライサは背中に銀のナイフを何本も突き刺さろうと抵抗をしようとするウルバーノに釘を刺した。尤も、刺したのはナイフなのだが。


ナイフは上手い具合に背中の肋骨の隙間に刺さり、今度はどうあがいても、どんなに超人的な力を加えても二度と抜けはしないだろう。


「グア……ッ! こ、この……」


 もう背後は取られまいと壁に背中を預けたウルバーノの体の至る所からもうもうと白い煙が立ち上る。


 肌は切り傷を中心にことごとく灰色に変色していき、次々に崩れ落ちていく。その様相はまるで木炭が燃え尽き、灰へと変わっていくかのようだった。


腕や、ぼろぼろになった衣服から垣間見えるところではもう骨が見え隠れしている部分まである。


 必死になってその変化を抑えようとしているウルバーノは見ているだけでもおぞましい。


「あらあら。中途半端な気持ちで中途半端に吸血鬼に……いえ、もうあえて高貴な吸血鬼とは言わないわ。……哀れな化物になってしまうから、そんな無様な死に方をしてしまうのよ?」


「う、五月蠅い……っ! 俺は、死なない! ……未来永劫を、生き続けるのだっ!」


 ネウはもうウルバーノに逆転のチャンスは無いと見て、余裕の表情で話しかけた。それと対照的に苦しさと痛み、その他諸々の、言葉で表現できない苦しさに四苦八苦していたウルバーノはそんな、もう助からないと決まったような絶望的な状況だと言うのに、ウルバーノの生への執着心をむき出しにして命を請った。


 先程まで余裕綽々で死の宣告をしたウルバーノが、今や逆に死の宣告をされ返されている。そして、哀れにも命を請うてくる。


 敢えてクラインとウルバーノとの差をつけるとするならば、命乞いをしたかどうかにあるのだろう。


「そ、そうだ……! 俺を見逃せ! そうすれば、お前等の船は解放しよう! それに、今後一切襲わないことを約束する! どうだ、これで……!」


「何を言っているのかしらね?」


 ネウは、にんまりと笑みを作り、もはや立っているだけでも精一杯のウルバーノに向かって、わざとらしく、ちょっと理解できない、といったように小首をかしげた。


「さっきも言ったけれど」


 ネウは笑顔で、されど言葉にははっきりと怒りの感情が含まれている。


 この、見た目幼い少女が、ここまで恐ろしく見えるのか、と、クラインは今、この状況で自分がネウの敵でないことに唯々安堵するばかりだった。


 もし、自分がウルバーノだったら。やはり命乞いに走るのだろう。


「私は、別に仕事をこなしているだけなのよ? 悪いけれど、仕事を放棄して、それに見合う代償を貴方が持っているとはとても考えにくいわね」


「ああ、分かった! 俺の海賊船を譲ろう! 積んである財宝もすべてだ! それなら、俺を殺さな」


 ウルバーノがさも鎌を振りかぶった死神の前で命乞いをするように死にたくない、という一心で持てる全ての条件を譲渡して延命を図った。


いや、もしかするとネウこそが、まさにその死神なのかもしれない。クラインの疑念は、ネウがウルバーノの必死の命乞いを一言のもとに打ち砕いたことでクラインは確信した。


「くどい。見苦しいのも、限度があるわ」


 ネウはそう言い切ると、恐怖におののいているウルバーノの胸に手を突き刺し、赤く波打つ心臓を掴み取った。


「ガハッ……! な、何を……」


「あら、さっきも言ったでしょう? 安給料な、仕事よ」


 ネウは心臓を掴み出された、痛みにもがくウルバーノに対し一片の容赦も無く、微塵の慈悲も無く、体外に出されてもなお強く波打つウルバーノの血に染まった赤い心臓を握り潰した。


 その様子はさながら神が悪魔を容赦なく殲滅するようでもあり、邪神が人間を惨殺するようでもあった。


 鮮血が吹き出し、部屋の至る所を紅色に染め上げていく。


 二つに共通しているのは、どちらも制裁する相手に一切の慈悲を持たない事だろうか。


肩こりがひどいと、日常生活に支障をきたすと分かりました。

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