第五章⑲
クラインはネウから目を逸らし、浮浪者が吐くようなうわ言のように、しかしはっきりとそう言って、地面に座るように倒れ、黙った。
無理もないことだ。ネウの言葉でさえ、今までの経歴でいくと嘘をついている可能性が否めない上に、信用していたウルバーノにも裏切られたのだ。これで疑ってかからなければ、お人好しもいい所だ。
そして、その時のクラインは度重なる予想外の出来事と、不条理な事態の連続に少々正気を失っていた。
普段、常に冷静で氷の様に冷め切った思考でいるのが、完全に打ち壊された瞬間だった。
クラインはゆらりと立ち上がり、左手に持った鉈をより、力を込めて振り下ろせるようにか、右手に持ち替えて、戦闘態勢を取った。
少しばかり、ネウの反応が遅れた気がした。ネウはクラインが鉈を取った姿を見ると、熱に浮かされたような目が元の子供っぽい目つきに戻り、まるで我に返ったかのように血に飢えた獣の表情を一変させる。
「…………! だ、だから、誤解よ。貴方、勘違いしてるわ」
ネウにしてみれば、それはクラインの誤解を解こうとして発した一言だったのだろう。だが、非情なまでの喪失感と一旦は消えかけていた怒りの炎が再燃し、それは自分の無実を証明しようとする言い訳にしか聞こえなくさせてしまった。
「いや……ライサは死んだ! 殺したのは、お前だろう。ああ、そうだろう?」
再び胸の奥らかこみあげてきた怒りにまかせて鉈を振り上げるクラインに、ネウはもう言い聞かせても無理と判断したらしく、説得するのを止めて鉈の攻撃に対する防御の姿勢に切り替えた。その表情は、何故か目の前にとても恐ろしいものを見たときの様に恐怖におののいていた。ネウ自身は吸血鬼で死にはしないのだから、怯える必要もないのだろうに。
「主人……さま、ちが、いま……す」
「ライサ!」
使い慣れない鉈でネウに会心の一撃を掛けようと鉈を振りかぶったクラインの耳に、ライサのか細く高い声が流れ込む。
その声に反応して、クラインは思わず鉈を握る手に込めた力を抜いてしまった。すると、鉈はそのまま地面に落ち、カラン、と味気のない音を立てて静止した。
暑いです




