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幻想見聞録  作者: 藤宮周水
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第五章⑯


 そして、足で立っているだけの力おも失い、後ろに倒れこんだ。それはもしかするとネウに対しての恐怖がクラインの体を後ろに突き飛ばしたのかもしれない。


始めてネウと会った時も、ここまでは驚き、絶望し、恐怖はしなかった。


 なぜならば、その時はネウの本当の力を、ネウの吸血鬼としての本髄をわずかたりとも見ていなかったからだ。漆黒の翼も、狼のように鋭くとがった犬歯も、紅玉のような瞳も、吸血鬼の身体的特徴に過ぎない。吸血鬼が人間にとって恐れの対象となる一番の理由は、その圧倒的な狂気と恐怖、相手に与える絶望的な畏怖なのだから。


 クラインを捉えたネウの双眼は、出会った時の様に、弓矢を射るような、引き絞ったものではない。


 まるで自分の求める全ての欲望を満たしている最中の如く、酔いしれ、満足し、それでもなお次の快楽を求めているような、そういった感情を溢れんばかりに湛えていた。


「あら、丁度良かった……。これから貴方を迎えに行こうと思っていたのよ」


「そ、そりゃあ、行く手間が省けた……な」


 そういってクラインは力なく笑った。もはや顔の筋肉さえ満足に動かせない。ただ、表情はけいれんを起こしたようにひきつっていて、喜怒哀楽のどの表情にも当てはまらない感情を演出している。いや、強いて言うならばそれは「恐れ」の感情が一番あてはまるかもしれない。


 ネウは海賊だった死体を無造作に床に落とすと、一歩ずつ確実に、クラインに歩み寄った。その一歩はやけにゆっくりしているように見えて、ネウの靴が鳴らす高い音は耳に嫌に響いた。


「人間を喰うのはもうやめたんじゃないのか?」


「あんなの、あの状況で貴方に信じてもらうための、嘘よ」


 ネウは何の臆面も無くさらりと嘘をついていたことを明かした。ネウは、こうも容易く、少しも悪そびれることなく嘘をつけるのか。常識人であれば全く持って信じられない事だ。まあ、ネウは吸血鬼だから関係のない事なのだろうが。

 

されど、もはや死を覚悟していたクラインにとって、嘘をついていたかどうかが、重要ではなかった。問題は。


「と言うと、俺を喰うのか」


「いえ。違うわよ。確かに私がもう人を喰わない、というのは嘘だけれど、別に貴方達を喰うわけでは無いわ。だって、貴方達はちゃあんと私と契約したもの。これは、本当」


 そうなると、あの時ネウが流した涙も、押し殺すようにして泣いたのもすべて、ネウの演技だったという事か。そう思うと、何が本当で何が嘘なのか分からなくなる。いや、もしかすると全てが嘘なのかもしれない。


 だが今、一つだけ本当だと言えるのは、クラインはあんな三文芝居にまんまと乗っかって、自らの懐にいつ爆発するかも知れない、火薬の玉を忍ばせたという事だ。


また一日遅れてしまいました。

始業式が辛いです。

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