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解けた魅了と次の恋  作者: ミカン♬


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8/9

 日が沈み、紺色の夜がやってきた。


 ここは、お母様とお姉様が経営する高級レストラン。


 三階の広間は、大きなパーティションで中央を仕切れる造りになっている。

 つまり、部屋は分かれていても――隣の会話は、筒抜けなのだ。


 席についているのは、私とお姉様、お母様。そして給仕役のラーシュ。


 訪れた侯爵夫妻は、まず先日のレミアンの不手際について丁重に頭を下げた。

 私は言葉少なくそれを受け入れ、食事が始まる。


 やがて酒が進み、侯爵夫妻が結婚の話を切り出そうとした、その時だった。


 隣の部屋から、聞き慣れた声が響く。


「スペシャルコース、用意はできているよな?」


 レミアンだ。


 続いて女性給仕の声。


「勿論でございます。お支払いは如何されますか?」


「は? いつも通りだ。何で聞くんだ!」


「申し訳ございません」


「早くしろ!」


 その瞬間、侯爵夫妻の顔色がサッと青くなった。


「息子が……フガッ、フガ……!」


 侯爵が立ち上がろうとしたが、ラーシュが素早くナプキンで口を塞ぐ。


「どうぞお静かに」

 お姉様は優雅にワイングラスを揺らしながら、くすりと笑う。

「せっかくですもの。ご子息の本音を最後まで聞きましょう」


 侯爵夫人も立ち上がろうとしたけれど、それを止めたのはお母様だった。

 その手に、銀のナイフがキラリと光る。


「わたくし、前々から……ご子息のこと、気に入りませんでしたのよ?」

 お母様が小声で囁くと、部屋の空気が凍りついた。


 そこへ再び、隣の声が響く。


「ねえレミアン、この部屋広すぎない?」


 ユゼフだ。


「狭いよりいいだろ。それより、エレナがまだ不貞腐れてるんだ」


「あれは怒って当然だ。お財布令嬢が、死ななくて良かったね」


 ――お、お財布令嬢!?


 陰でそんな呼び方をされていたの?


 悔しい‼


 悔しくて、胸が焼けそうだった。



「いつもトロイんだよ。お上品に後ろをトロトロついて来てさ。気遣うの、ホント面倒」


「顔に出すなよ? 婚約破棄されるぞ?」


「ないない。僕に夢中なんだから。そのうち機嫌も直るさ」


 今すぐ殴り込みたかった。


 でも、まだ。


 まだ足りない。

 この程度では、決定打にならない。


 私は拳を握り締め、耐えた。



 料理が運ばれ、グラスの触れ合う音がする。

 二人は楽しそうに世間話を続けていた。

 こちら側は、ただ黙って聞くことしかできない。


 けれど酒が進むにつれ、二人の口はどんどん軽くなっていった。


「ネリアがウェディングドレス、すごく喜んでいたよ」

「本当なら五千万のドレスを着せてやりたかったけどな」


「十分だよ。あとで売れば小遣いにもなるし」

「仕方ないだろ。うちは貧乏だし、男爵令嬢を妻には迎えられないからな」


 ――は?


 ネリアを妻に迎えられない? どういうこと?



「それにネリアはユゼフを、心から愛してるんだ。大事にしてやってくれよ。金はいくらでも用意するからさ」


「分かってるよ。ネリアのためにも、ちゃんと送金してよね」


「エレナは底なしの金持ちだからな。一生贅沢させてもらうさ。その代わり、優しくはしてやるよ」


「レミアン、上手くやれよ?」


「目を瞑って、エレナじゃない、これはネリアなんだ! と思って……我慢する」


 ――我慢⁈


 全身の血が逆流した。


 ……そういうことだったのね。


 レミアンが本当に愛していたのは、ネリア。

 ユゼフをあんな目で見ていたのも、嫉妬だった。


 しかもユゼフは、それを知った上でレミアンにお金をせびっている。


 ――最低!


 三人は気持ちの悪い、醜い関係だった。



「子どもは作りたくないんだよな。君達に子どもができたら養子にしよう。ネリアそっくりの娘が欲しい」


「白い結婚?」


「閨は遠慮したい。エレナを抱く気にはなれないな。あははは」


「あははははは!」


 二人の笑い声が、耳障りに重なる。


 もう限界だった!

 私は勢いよく立ち上がると、パーティションを思い切り開け放った。


「レミアン! 婚約は破棄よ!」


 驚いて立ち上がるレミアン。


「エレナ!? ど、どうして……え? え?」


「全部……聞こえたわ!」


 怒りで声が震えた。


「我慢して白い結婚? ふざけないで!」


 こんな奴らに見下されていたなんて、もう泣きそう。



読んでいただいて、ありがとうございました。

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