表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
解けた魅了と次の恋  作者: ミカン♬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/9

 泣きそうになりながら、私は必死にドレスを引っ張った。


 やっと外れたと思うと。


 ドォン!!


 再び建物が激しく揺れた。


 天井が崩れ、大量の瓦礫が頭上から降ってくる。


「っ!」


 私は反射的に頭を抱えて身を縮めた。


 ――死ぬ。

 本気でそう思った。


 だけど。


 誰かが私に覆い被さった。


 鈍い衝撃音。


「ぐっ……!」


 苦しそうな声。


「大丈夫か?」


 聞き覚えのある声だった。


「ほんと、お嬢様は男を見る目がないな」


「……ラーシュ?」


 どうしてここに?


 呆然とする私を見下ろしながら、ラーシュは眉をひそめた。


「怪我は?」


「う、うん、大丈夫よ……」


 ラーシュは私達の上に落ちていた天井板や瓦礫を押しのける。


 視界は埃で白く濁っていた。

 ラーシュは上着を脱いで私の頭に被せ、次に軽々と私を抱き上げた。


「行くぞ。しっかり掴まれ」


 咳き込みながら階段を駆け下りる。

 厨房を突っ切り、裏口を蹴り開けるように飛び出した。


 冷たい外気が肺に流れ込んだ。


 ──助かった!

 そう実感して、全身から力が抜けそうになった。

 それでもラーシュは私を抱えたまま、安全な場所まで走り続けた。



「ここまでくれば大丈夫だ」


 地面に下ろされて、振り返ると。


 ドォォォン!!


 凄まじい轟音が響いた。


 さっきまで私たちがいたカフェが崩れ落ちる。


 石壁が砕け散り、土煙が空高く舞い上がった。


「……っ」


 膝が震えた。

 気付けば私はラーシュの腕にしがみついていた。


 ラーシュは何も言わない。

 ただ私を抱き寄せたまま、険しい表情で崩壊した建物を見つめていた。



 ◇◆◇


 王太子殿下ご夫妻を狙った襲撃事件は未遂に終わった。


 けれど街の被害は深刻だった。

 崩壊した建物。

 怪我人、そして死者。

 報道を聞くたび胸が痛む。


 私はラーシュのおかげで助かった。

 そして、襲撃事件をきっかけに私は真実を知った。


 ラーシュは母の恋人なんかじゃなかった。

 オルガお姉様の双子の弟だったのだ。


 頭が真っ白になった。


 だって――。


 ピンクの薔薇を差し出してくれたのも。

 蜂に襲われたあの日、私を助けてくれたのも。

 劇場で私を庇ってくれたのも。


 全部、ラーシュだったのだから。


 双子が持つ能力は《気配消失》。


 その力で、お姉様は誰にも気付かれずラーシュを孤児院から連れ出した。

 そして屋敷で密かに面倒をみていたのだった。



 私の能力が発現した日。


 ラーシュは慌ててオルガお姉様を呼びに行った。

 そのせいで母に存在が知られてしまった。


 母は家を出る時、ラーシュを引き取った。


 双子への、母の願いはたった一つ。


 ――エレナを守ること。


『オルガは姉として、ラーシュは陰から』


 そんな大事な話、私は何一つ知らなかった。


 ずっと勘違いしていた。

 私を守ってくれたのはレミアンだと信じていた。


 なのに。


 彼は私を置いて逃げた。


 振り返りもしなかった。


 ……あのクズ!


 絶対に許さない!



 ◇◆◇



 暗殺事件の翌日。


 レミアンがお詫びにやって来た。


「カフェの外へ出たら、エレナがいなくて焦ったよ」


 彼の軽い言葉に心は冷え込む。


「……貴方は私を見捨てたんだわ」


 レミアンの表情が曇る。


「あの時は混乱していたんだ。外へ出た瞬間、騎士団に拘束されて戻れなかった。でも君が無事で本当に良かった!」


 どうやら三人は襲撃犯の仲間だと疑われたらしい。


 ……なるほど。

 ラーシュが厨房から出たのは正解だったのね。


「建物が崩れた時、君が死んだんじゃないかって……胸が張り裂けそうだった」


 そう言ってレミアンは私の手を握った。


 けれど。


 ……あれ?


 何も感じない。


 今までなら胸が高鳴った。

 嬉しかった。

 愛おしかった。


 でも……違う。


 ただただ、不快だった。



 私は彼の手を振り払った。

 レミアンの驚いた顔に、全く魅力を感じない。


「危険な場所に私を置き去りにして、自分だけ逃げるなんて信じられないわ」


 怒りがこみ上げる。


「男としてどうなの? 本当に最低よ」


「ああ……怒ってるよね。怖くて混乱してたんだ。本当にごめん」


 レミアンが再び手を伸ばす。


 私は容赦なく払いのけた。


「エレナ……?」



 その時。

 オルガお姉様が優雅な笑みを浮かべて現れる。


「ユーグ侯爵令息様」

 にこやかな声。


 ついさっきまで。

『あのクズ! 来たら首を締めてやる!』と怒っていたのに。


「エレナは昨日の恐怖がまだ抜けておりません。多少怪我もしておりますので、本日はお引き取りくださいませ」



「オルガ嬢。そしてエレナ。本当に申し訳なかった。今日はこれで失礼するよ」


 神妙な顔を作り、レミアンは踵を返した。


 私は返事をしない。

 そして背を向けたまま。


 でも分かる。

 きっと彼は、振り返り、いつものように綺麗な笑顔を浮かべただろう。

 自分が微笑めば、なんでも私が許してくれると信じて。


 ……レミアン。


 もう無理よ。


 その笑顔には、二度と騙されない。


読んでいただいて、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ