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解けた魅了と次の恋  作者: ミカン♬


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5/9

 諦める気のない私に、お姉様は最後の切り札を持ち出した。


「それに、あの秘密の能力をレミアンに打ち明ける勇気はあるの?」


「それは……」


 言葉に詰まる。


 もし話したら、きっとレミアンはユゼフに話す。


 ユゼフはネリアに話す。

 そしてお喋りなネリアが、あっという間に噂を広げてしまう。

 そんな未来が簡単に想像できた。


「今ならまだ引き返せるのよ!」


 お姉様は本気で私を心配している。


「貴方は魅了にかかっているんだわ」


「魅了?」


「自分で気付かないと解けない愛の魔法よ。偽りの愛なんて捨ててしまいなさい」


 ――偽りの愛。


 その言葉が胸に刺さる。


 レミアンとの時間は楽しいはずなのに、気付けばいつもユゼフとネリアがいる。

 今では楽しいよりも、疲れることの方が多かった。


 いっそ婚約を――。


 気持ちが傾いていた。


 だが。


「ユーグ侯爵令息がお見えになっています」


 使用人の声が響く。


 私は反射的に立ち上がった。




 エントランスへ向かうと、レミアンが立っていた。


「エレナ!」


 私を見つけた瞬間、ぱっと顔を輝かせる。


 その笑顔を見るだけで胸が苦しくなる。


 ああ、やっぱり私は、この人が好き。


「急にどうしたの?」


「三日後の王太子殿下の成婚祝いパレード、一緒に見に行こうよ」


「オルガお姉様と行く予定なの」


 そう答えると、レミアンは私の手を握った。


「最近、君に優しくできてなかったって反省してるんだ」


 青い瞳が真っ直ぐ私を見る。


「怒らないでよ。一緒に行こう?」


 彼の声は甘い。


「でも……」


 ユゼフとネリアも一緒なんでしょう?


 そう言いかけたら、


「僕のこと嫌いになったの?」


 先回りするように言われた。


「いえ……」

「じゃあ一緒に行こう。迎えに来るから」


 結局。


「……ええ」


 私は頷いてしまった。


 だって好きなのだ。


 この気持ちが偽物だなんて思えない。



「チッ」


 背後から聞こえた盛大な舌打ち。


 お姉様だ。


 私は肩を縮めた。


 ……認める。


 私はたぶん、とんでもない恋愛脳なのだと思う。




 ◇◆◇



 パレード当日。


 春の柔らかな陽射しが街を包んでいた。


 王太子殿下の成婚を祝う大行進。


 色鮮やかな紙吹雪が空を舞い、人々の歓声が通りを埋め尽くしている。


 誰もが笑顔だった。

 幸せな一日になるはずだった。


 やがて花火が打ち上がる。


 先頭を進む騎士団の姿が見えた瞬間、街中から歓声が湧き上がった。


 私はカフェの二階を貸し切り、レミアンたちと一緒に見物していた。


 本当なら、ここにはオルガお姉様もいるはずだった。

 でも怒ったまま来てくれなかった。


 代わりにいるのはユゼフとネリア。


 二人は窓から身を乗り出しながら興奮している。


「来たわ!」


 ネリアの声に私も窓際へ近付く。


 豪華なオープン馬車が、ちょうど目の前を通ろうとしていた。


 王太子ご夫妻が笑顔で手を振っている。


 幸せそう。


 素敵だわ。


 そう思った次の瞬間、世界が真っ赤に染まった。


「……え?」


 凄まじい爆音に、窓ガラスが粉々に砕け散る。


 テーブルも椅子も吹き飛び、私たちは床へ叩きつけられる。


「な、何が起きたの……!?」


 悲鳴。

 怒号。

 泣き叫ぶ声。


 一瞬で街が地獄へ変わった。


「襲撃だ!」


 ユゼフが叫びながらネリアを抱き寄せる。


「エレナ、大丈夫?」

「ええ……」

「殿下は無事だろうか……」


 レミアンの声が震えている。


「だ、大丈夫よ。馬車には防御魔法が張られているはずだもの……」


 そう言いながら、自分の声も震えていた。


 突然、レミアンが私の手首を掴んだ。


「戦いが始まる! 逃げよう!」


 私たちは慌てて立ち上がる。


 しかし。


 ドドドドドッ!


 大勢の足音が階段を駆け上がってくる。


「動くな!」


 鋭い怒声に、私たちは反射的に床へ伏せた。


 黒い覆面の男たちが部屋へ雪崩れ込む。

 そのまま窓へ駆け寄り、外へ向かって魔法と矢を放ち始めた。


「カフェを貸し切りになんかするからよ……」

 ネリアが泣きそうな声で呟く。


 その直後――。


 ドォォォン!!


 建物全体が震えた。


 衝撃に覆面の男たちが吹き飛ばされ、動かなくなった。


 下から反撃魔法を受けたのだ。



「今だ! 逃げよう!」


 ユゼフが叫ぶと、三人は一斉に駆け出した。


 ネリアを真ん中にして、守るように支えながら。


 ――いつも通りに。



 私も動いた。

 

 ビリッ。


 嫌な音が響く。


 見ると、私のドレスが倒れたテーブルの脚に引っ掛かっていた。


「待って……!」


 必死に手を伸ばす。


 でも、手は空を掴む。


 遠ざかっていくレミアンの背中。



 私は思い出す。


 この光景を。


 蜂の群れが現れた時も、レミアンは私を置いて逃げた。


 今、あの日の記憶と重なった。



読んでいただいて、ありがとうございました。

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