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解けた魅了と次の恋  作者: ミカン♬


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4/9

 レミアンとのデートから数日後のことだった。


「エレナ! いい加減、あのクズ婚約者と別れなさい!」


 昼下がりの居間に、お姉様の怒声が響き渡る。


 怖い。


 でも、私は首を縦には振らなかった。


「嫌です! 私はレミアンを愛しているんです!」


「これを見なさい!」


 机に叩きつけられたのは、大量の請求書。

 高級ブランド店の名前がずらりと並んでいる。


 もちろん全部、レミアンがうちの名前で買ったもの。


 ネリアのウェディングドレス。

 レミアン専用の馬車もある。


「こんな図々しい男、今すぐ切り捨てるべきです!」


「この程度のお金、うちにとっては大した額じゃないわ」


 お姉様は額を押さえた。


「ああもう! その恋愛脳をどうにかして!」


「酷いわ。お姉~」


「問題は金額じゃないの! そのお金の大半が赤の他人に使われていることでしょう!?」


 ……知っている。

 ユゼフとネリアね。


 でも。


「自由に買い物していいって許可したのは私よ。だから問題ないわ」


 お姉様は本当にレミアンが嫌いだ。


 その気持ちは分かる。

 レミアンは我が家の援助がなければ生活できない。


 この婚約でアルマン伯爵家が得る利益なんて、一つもない。


 ただ私がレミアンを好き。

 本当に、それだけなのだ。


「伯爵家のお金で贅沢三昧。そのうえ他人まで養わせるなんて!」


 お姉様は赤い髪をぐしゃぐしゃとかき回した。


 私は思わず苦笑する。


 お姉様――オルガは、三歳年上の養女だ。


 同じ赤毛に緑の瞳。

 血は繋がっていないのに、本当の姉妹みたいに見える。


 小さな頃の私が「お姉様が欲しい!」と駄々をこねて、両親が孤児院から迎えた。


 優しくて頼りになって。

 今ではアルマン伯爵家を支える大黒柱。


 一方、父はというと。

 仕事を全部お姉様に押しつけて、恋人と遊び歩いている。


 本当に情けない。


 でも父には《金運》という特殊な力がある。

 その力のおかげで、私もまた特別な能力を持って生まれたのかもしれない。


 ――私には、一日一回だけ花を宝石へ変える力がある。

 しかも、とびきり高品質な宝石に。


「ピンクダイヤで穴埋めするわ。だから怒らないで」


 私がそう言うと、お姉様はさらに頭を抱えた。



 私がこの能力に気づいたのは十歳の時。


 両親の離婚が決まった日だった。

 悲しくて、庭園を泣きながら歩いていた。


 その時。

 一人の少年がピンクの薔薇を差し出してくれた。


 麦わら帽子を深く被った赤髪の少年。


 私は涙を拭きながら薔薇を受け取った。


 そして花びらに触れた瞬間――。

 薔薇は眩い光を放ち、一瞬でピンクダイヤへ変わった。


『ふぇ……!?』


 何が起きたのか分からなかった。


 怖くて震えていると、少年は慌ててお姉様を呼びに行った。


『こんな能力、悪人に知られたら誘拐されてしまうわ!』


 駆け付けたお姉様は真剣な顔でそう言った。


 だからこの力を秘密にしている。


 気付けば、あの少年は姿を消していた。

 父に聞いても、そんな子は屋敷にいなかったという。


『花の妖精さんだったのかな』


 私が呟くと、お姉様は笑った。


『ふふふ。きっとそうよ。またいつか会えるわ』


 今でも花を見ると、あの少年を思い出す。


 けれど、もう昔みたいに寂しくはない。

 母とは時々会っているし、お姉様と母は一緒に店を経営するほど仲良しだから。




「もう! 本当に他に良い男はいくらでもいるのに!」


 お姉様は結局、いつも折れてくれる。


 みんな同じことを言う。

 もっと良い人がいるって。


 だけど、私はレミアンがいい。


 だって――。


 劇場でボヤ騒ぎが起きた時だって、彼は私を守ってくれた。


 悲鳴が響く薄暗い廊下。

 後方から白い煙が迫っていた。


 逃げ惑う人々に押され、私の手はレミアンの手と離れてしまった。


 背の低い私は人波にもみくちゃにされていた。


 足が竦んでいた。

 すると後ろからレミアンが私を抱き込んだ。


 覆いかぶさるように庇いながら。

 人に押されても倒れないよう、必死に耐えながら。


 そして外へ出た瞬間、また人波に流されて離れ離れになる。


 不安で周囲を見回していると――。


 レミアンが駆け寄ってきた。


 そして私の手を握る。


『離れてしまって、不安だったよ。怪我はない?』

『ええ、大丈夫よ。守ってくれてありがとう』

『婚約者だもの、当たり前さ』


 あの時は、確かに愛されていると思った。


 あれから一年。


 今の私は、もう分かっている。


 レミアンの一番大切な人は、私ではないことを。



読んでいただいて、ありがとうございました。

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