二十九話 二章:その十一 TETO
前回までの『おれ天』!!
豎コ逹?
断罪の光が、世界のあらゆるところに穿たれている。
次々と舞い降りてくる光は、数キロ置き均等に配置され、その地に根付くや否や周囲の浄化を開始する。
建築物、人間、他動物、草木、山川に至るまで、万物全てがその光の対象だ。
「『修世の光』…………」
この光をそう呼んだのは、天使たちが初めだった。
この世界を創造した当初、効率的な世界運営のために『シナリオ』を補佐する72名の天使を待機させ、彼らの意見を聞きながら、俺は理想の世界を創ろうとした。
が、当然うまくいく方が珍しいわけで。
文明というものが確立して花開くまで、失敗と再検討の連続。文字通り、「破壊して再構築」の繰り返しだった。
その際に世界のリセットとして使っていたのが、この光だ。
特に与えられる仕事もなく暇をしていた天使たちは、世界に終わりを告げる行為を『修世』と呼ぶようになり、これを面白がって見物していた。
この『修世の光』は書き違えた文字を消す消しゴムや修正液とは勝手が違う。折れてしまった刀剣を一度溶かして新しい物を打ち直すような荒業だ。一天使が早々行える代物じゃあない。
つまり―――――、
「君が、仕組んだのか…………」
俺は、伏せて天を仰いでいる彼に目をやる。
傷はもう言えてはいるはずだが、何も言うことはない、と言わんばかりに瞳だけギョロリと向けているだけだ。
彼が口を割らなくとも、言いたいことや、どうしてこうなったのかは分かる。
大方、細部まで『シナリオ』を書いていなかったのだろう。でなければ、こんな短時間にスタジアムの建築や、周囲の人間の認識催眠ができるはずがない。
仕事の責任を放棄した上での蛮行。
普通の天使ならそう唾棄するだろうが、今の俺には酷く納得してしまう節がある。
状況を確認するために、俺は彼を担いでクレーターから這い上がることにした。
「テトッ!」
ちょうど、カナフは合流してきた。
「良かった……、無事だったのか」
「カナフさん…………」
「この世界は間もなく崩壊する。早く天界へ避難しよう。ナットとセリーナはもう行かせてある」
そう言って、彼女は俺の手を引こうとしたが、俺はその手を離してその場へ留まる。
「テト? 何をしている、早くしないと…………!」
「ごめんよ、カナフさん。俺はこの世界を捨てる気はない。もう一度、世界を最初から創造して運営する気もない。ただ、俺は…………」
俺は、後ろに座る彼を見た。
俺の手前勝手な行動で神となってしまった、誰にも理解も慰めもされなかった男へと思いをはせた。
「俺は、この世界を救いたい!」
曇りのない瞳で、カナフに言った。
そんな彼女は一つため息をついて、
「良いか、テト。救世主も預言者も、すべて人間がなるものだ。神は与えるだけ。見ているだけで良い。そもそも、こんな世界にお前が危険を冒してまで介入する価値はあるのか?」
「あるさ」
「私にはないッ! お前以外に、何も価値などあるものかッ! 欠片でも、私のことを想ってくれるのならば、一緒に逃げてくれ。頼むから…………!」
カナフは情熱のこもった瞳を涙で濡らしながら俺の手を握り、教会で許しを請うように膝を落とした。
そんな彼女の背中を擦る。
カナフは涙と鼻水でえぐづきながら、言葉を紡ぐ。
「お前は嫌われ者じゃあないか。どうせ世界を救っても、誰もお前に感謝なんかしない…………」
「そんな世界でも、気に入ったもんはしょうがないだろ。『物事は為るようにしか為らん』ってね、なんか善行を積めば変わるかも」
「なんだよ、それ…………」
「誰の言葉だったかな。忘れたけど、良い言葉だ。違うか?」
強く、カナフを抱きしめた。
「待っててくれる?」
「あぁ、勿論だ」
ありがとう。
と。俺は、二人を置いて空へと上がった。
光はもう百本以上が世界に降り注いで、今も修世の真っ最中だ。時間の余裕はもうない。
「我、創造神テトラグラマトンがこの世、紡がれし理に命ず…………」
光が、俺の体を包む。
現れたのは純白の法衣。
握られるは仰々しい筆と延々と続く羊皮紙。
もう一年以上も書かれてないから酷い空欄の空きようだ。
「我、全ての創造の主がここに空白の歴史を綴る」
俺は、世界を修正する。
この世の矛盾を掻き消そうとする『修世の光』を取り除くために、それが降り立った原因となった数百数千、数万の事象を見つけ、その全てを正しく『シナリオ』に綴った。
一つ、一つ。光が消えてゆくのが分かる。
戦いの余波で傷ついた街と人々も、元通りにした。
そして、神と天使と交流してしまった人々の記憶も。
思い残すことは何もない。
後悔することも、後ろめたさを感じることも、もうないだろう。
俺は全てを直しきったところで最後の言葉をしたためる。
「光、あれ」
―――――そうして、物語は動き出す。
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