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二十八話 二章:その十 神話の戦

前回までの『おれ天』!!

蠕ゥ豢サ逾ュ


「まさか……! そんなはずは、貴方はこの手で…………」


「死んだはずだ、そう思ってたのか?」


 神となった男の拳を受け止めながら、俺は言った。

 一拍置いてところで、彼はすぐさま俺との距離をとり、出方を伺っている。

 先程全力の拳が余裕をもって受け止められてしまったのだから、当然と言えば当然の行動だろう。

 俺が何もしてこない、と判断した彼はいつもの調子を取り戻して口を開いた。


「『この手で殺したはず』という疑問は、無粋でしょう。貴方は創造神、死から蘇ることなど造作もないでしょうし。だからこそ、解せない」


「『解せない』? どうして?」


「先ほど、貴方を殺した時のことです。私と対面した貴方からは後ろめたさを感じました。それも、自らの死を容認できてしまう程の。それ故の呆気なさだと思っていたのに、貴方はまた私の前に立ちふさがっている…………」


 彼は真っすぐ俺を指す。


「なのに、貴方の態度は変わっていない。今にも腹を切っても良いと覚悟しているその瞳は何なのですか!? 私にはそれが分からない!」


「それは…………」


 言葉が詰まる。

 なんて言えば良いか分からないわけじゃあない。なんなら、何をどう彼に言うべきか一言一句欠かさずに覚えている。

 だが、今の彼に言葉など、ただの謝罪や償いの言葉は意味をなさないことを理解していた。

 彼にとって、俺の言葉などはクソの役にも立たないだろう。

 だから―――――、


「何ですか、それは…………?」


 膝をつき、両手を添えて、頭を地面につける。

 俺は、土下座をしたのだ。


「一体、何がしたいんだ、貴方は! 馬鹿にするのも大概にしろ!」


 彼は状況が理解できず、戸惑いながら声を荒げた。


「謝罪だ。心からの。俺の発する言葉が君に届かないようだから、行動で示すことにした」


「謝罪? 何に対しての?」


「俺が君にしたこと全て。『神』を押し付けたこと。君の事情を無視したこと。君へのサポートを怠ったこと。君に敬意を払わなかったこと。君を苦しめてしまったこと。全てを、ここに謝罪する」


 土埃を巻き上げた風が、俺たちの間に流れる時間を告げる。

 うろたえる彼はもとより、後ろの三人もどうすれば良いか分からずに、ただ土下座した俺を見つめていた。


「ああ、そうか。『言葉ではいくらでも嘘をつけるが、行動だと偽りようがない』。そう言いたいんですね、貴方は」


「…………」


「甘いんですよ! 凡人は行動が真実を語ると有難がるが、実際は騙されているだけだ。自分自身ですら偽れる選ばれた者たちが、愚かで他愛もない者たちをうまく騙しているだけだ! 自ら地位を捨ててもなおそれにしがみついているだけの出涸らしがっ、身の程をわきまえろ! 私は神だぞッ!」


「…………」


 俺は何も言わなかった。

 そんな姿を見た彼も怒ってくるのが馬鹿馬鹿しくなり、大きくため息をついた後に続けた。


「もう、貴方にして欲しいことはないのです。顔を、上げてください」


 歩み寄る音がして、視線を空へ向けると悲しく見つめる彼の姿があった。


「実は、貴方の頭蓋を砕いた時に満足してしまったのです。その時に、貴方を許してやっても良い、と考えるようになりました」


 彼は手を差し伸べて、俺を立たせた。


「ですが、今、それが気のせいだと分かりました」


 彼の手に力が入る。

 以前の万力とは違い、破壊を目的としていない、わなわなと震えるものだった。


「貴方に『死』は何でもないと分かったのです。『死』だけではない、貴方に課せられる苦難や痛みも全て何にもならない、無駄なことだと思い至ったのです」


 俺は、何も言わなかった。

 が、彼は俺が何を言いたいのかを透かして、言葉を続ける。


「ならば、貴方自身ではなく貴方の作り上げたこの世界を壊せばよいのです。自らが手塩にかけて育てたこの世界を跡形もなく消し去ります。人間、天使はもとより天地全てを灰塵と化します。

 そして、私が真の創造神となって、荒廃した世界は新たな創世記を迎えるのです。

 あぁ、ご安心を。貴方だけは生き残らせて全てを見届けさせましょう。何千万、何億、何十億年。時の流れで自分という存在が風化して崩れ落ちても決して死なないようにして見届けさせましょう

 それが、私が送る貴方への禊だ」


「それは受け入れられない」


 俺は、初めて口を開いた。


「俺が君にしでかした事柄は、全て俺だけに責任があることだ。その責任を、俺の禊だと言って他人に不幸をふりまくなんてそれだけはダメだッ! 決して、容認できるはずがない―――――」


 瞬間、彼はノーモーションで俺の顔をはたいた。

 その威力は先ほどとは比べ物にならないものだったが、頑丈になった俺の体は傷一つつかないまま地面に叩きつけられ、大きくクレーターを作りながら瓦礫埋まってしまった。

 痛みも感じなかった。

 体も万全以上に動く。

 瓦礫を除けるついでに、俺はそのまま10メートルほど飛び上がって、彼の逆光側へ浮遊の位置をとった。

 すぐさま、彼も飛び上がって視線を水平に合わせる。



「私は、貴方の築いたものを全て壊す……! それが容認できなのであれば、暴力で止めてみろッ!」



 音を超えたタックルが、襲いかかる。

 突き飛ばされた俺は、誰もいなくなった観客席を突き破り、周囲の建物をぶち壊し、数キロの彼方でようやく止まることができた。

 俺の通ってきた穴から、彼がスタジアムに取り残されたカナフら三人を襲おうとする姿が見える。そうはさせまいと、タックルよりも素早く飛んで衝突。


 音は、遅れてやって来た。


 音速を超えて人型の物体が飛び交うことで周囲には真空と衝撃波(ソニックブーム)が絶え間なく生じ、並の人間はもとより、天使であるカナフら三人も追うことはできなかった。

 二人で交わしている拳はもはや砲弾やミサイルと同じ威力。

 移動速度は戦闘機よりも早い。

 吹っ飛ばされる度に、吹っ飛ばす度にブロックのように崩壊してゆくビル群と、豆腐のように抉れるコンクリート。

 俺たちの戦いは、さながら超大型の台風だった。


 音速で飛び交って殴り合っている内に、彼はある港の方へと飛ばされたついでに姿を隠した。


「どこにいる……」


 上空50メートルほどで維持しながら、港を見回す。

 だが、見渡す限りのコンテナの山と貨物船の数々。これでは砂漠の中で一握の砂を探しているのと同じだ。まるで埒が明かない。

 焦りが見えたその刹那―――――、


 ブゥオオン!


 と。何か巨大な物が飛ばされてきた。

 間一髪で交わして、距離をとる。

 が、またやって来た。さっきのと同じものだ。


 ブゥオオン!


 速度を上げて、それは風を斬りながらだったが、また俺には当たらなかった。

 そして、間隔を縮めてまたやって来た。

 また同じもの。

 幅は50メートル弱、長さ300メートルを超す巨大な物体…………。


「貨物船って……、冗談だろッ!」


 荷を下ろした貨物船が、鎖を持った何者かに振り回されていたのだ。

 そんな芸当をできるのはただ一人、神である俺と、彼だけだ。


 十分距離をとって状況を見定めようとしたが、振り回されている貨物船はもう尋常でない速度まで加速されていて、俺の目をもってしても残像しか見えない。

 程なくして、それは周囲のコンテナを風船のようにまき散らしながら飛んできた。

 が、振り回している周期を読めば避けることは簡単のはずだったが、


「逃げても無駄です、『狙いは外さない』ッ!」


 飛ばされたコンテナは、神の権能で強引に俺の方へ吸い寄せられていった。

 音速で追尾してくる数千トン物体となれば、もう『飛んできた』ではなく『射出された』と言った方が良い。

 貨物船に押しつぶされながら、港から再び都市部へと追い返される。


 さっきまで無音で平和だった町々は次の瞬間、舞い降りてきた貨物船に薙ぎ払われて廃墟と化した。

 跡形もなく粉砕された建物と道路。

 燃え上がることを最期の使命と決めた自動車たち。

 俺を支点として真っ二つとなった貨物船は、追撃にきた彼の鉄拳で完全に破壊され、二人で地面に足を付けた拳の応酬を繰り広げる。


 腰の入っていないものやキチンと受け身をとったものなどは、周囲に衝撃波が飛んでゆくだけだったが、不意に繰り出される強烈な一撃は景気よく体を持ってゆき、踏み込んだ足は数センチ地面にめり込んだ。

 このレベルになると、周囲の瓦礫や鉄筋のついたコンクリート、車の鋭利な破片は使われない。

 自分の体の方が頑丈で、自分の繰り出す拳や蹴りの方が威力があるからだ。


 数発の応酬で俺が集中を切らせたその刹那、


「そこだァ!」


 と。彼のアッパーが顎の直撃。

 弾丸の火薬が弾けたように、近くの高層ビルに沿って殴り飛ばされた。

 止まったのは、ちょうどビルの屋上から地面を見下ろす状態。

 60メートルの高低差をもって、俺と彼はにらみ合った。


 そして、見上げていた彼は跳躍。

 俺は迎撃戦と急降下。

 先程とは比べ物にならない運動エネルギー、次の瞬きが追えれば、立っているのはどちらか一方だけだろう。

 それでも、突き進んだ。

 ガラスとコンクリートの破片をまき散らしながら、ついに出会う。


 ドン!


 と。簡潔した、が壮絶は破壊音をたてて、俺は彼との力勝負に競り勝ってまま勢いに合わせて、地面に巨大なクレーターを穿った。

 アスファルトでこれでもかと固められたはずの地面は大海原のように唸り、周囲の物体全てを粉々にして、俺は立っていた。

 見下す視線には、突っ伏したもう一人の神の姿。


「力……、及ばす、ですか…………」


 胸骨を砕かれて肺がつぶれているのか、彼の言葉は絶え絶えで口を開くごとに血を噴き出していた。


「無理をするな。傷を癒すことに専念しろ」


「私に……、指図、しないでください…………」


 言葉を続けようとしたが、喉に血が詰まって何を言っているか聞き取れない。

 もう抵抗する力も残っていないようなので、耳を、近づけてみる。


「…………だ、……って、ない」


 ヒューヒュー、と抜け出る空気の中で、必死の発音が耳に入る。

 やっと聞こえてきたのは、


「まだ、終わっていない」


「それって、どういう…………?」


 言葉の意味はすぐに分かった。



 パァァァァン!



 と。轟音を立てて、眩い光の柱が後方2キロメートルに降り立ったのだ。

 光は、降り立った周辺を吸収するように剥がしている。

 剥がされたところの代わりに入っていたのは、何者の存在も受け付けない虚無の世界だけ。

 俺には見覚えがあった。


修世しゅうせいの光、だと…………!?」


 振り向くと、男は吐き出した血に溺れながらも、俺を嘲わらっていた。


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