三十話 最終回
11月下旬。
季節は秋、ひと夏に起きた神話の如き戦いは誰も覚えていない。
「祭りは良いねぇ」
一人、学校の屋上に寝そべっていたテトは、下の祭りの音頭を聞きながら昼寝をしていた。
そう、11月下旬ということは今学校にて行われているのは『文化祭』というものである。
その文化祭に、テトが参加することはない。
去る8月、テトがもう一人の神と繰り広げた死闘とそれによって引き起った世界崩壊の危機への対処として行った『シナリオ』で、テトの存在は忘れ去られてしまったのだ。
テトには未練はなかった。
未練はなかったはずなのだが、文化祭はしたことがなかったので、こうして屋上で「いつものように」一人ぼっちでいるわけなのである。
そんな彼に近づく人影が一つ。
「テト、いろいろ買ってきたぞ」
カナフである。
「ありがと、なんか面白いことあった?」
「道中で『お姉さん、暇? 俺たちと良いことしない?』などと絡まれたから全員人気のない所で雑巾にしてやった」
「そりゃあ、災難だったね」
「? 私は何も損はしていないが…………」
「いや、君じゃあなくナンパした彼らだよ。女の子は星の数ほどいるっているのに、あろうことか隕石にあたるなんてな。南無三」
テトが軽く哀れな勇者たちに祈ってから、カナフから渡された焼きそばを啜る。
テトが忘れられている、ということは勿論カナフのことも同様で、校内に轟いていた彼女の名声も、今や面倒くさいナンパ者を引き付けるだけになっている。
ざわわ、と風がテトの頬を撫でる。
鼻に流れたのは、日光に妬けたコンクリートの匂いに安っぽいソースの香り。
「平和だねぇ」
「テトが決断を下してくれたおかげだ。今は『見捨てよう』なんて言っていた自分が恥ずかしいくらいだ」
テトのつぶやきにカナフが答える。
そう長閑な日々を満喫しているようなテトだが、ふとした瞬間にガバリと突然に体を起こし、どこか遠く、だが確かにあるどこかへ視線を向けた。
「『問題発生』か、テト?」
「ああ、『シナリオ』にない何かがいる…………」
テトの周りに空気の奔流が巻き上がる。
そして、飛翔。
宇宙へ飛び立つロケットのように、彼は揚々と雲をはねのけながら空へと旅立った。
カナフはただ見守る。
米粒のようなテトの背中が見えなくなると彼の食べ残した焼きそばや口につけなかったタコ焼き、ベイビーカステラを頬張り始めた。
彼女の胸の内に心配はない。
あるのは絶対的な信頼だけ。
なので、カナフは囲いに守られて暮らす家畜でもただ家に残って帰りを待ち続ける乙女という気前はない。数千年間連れ添った男の本当の生き方を、彼女は見守るだけで良い、と彼女は思っていたのだ。
テトは、もう神ではない。
しかし、ただの人間でもない。
やりたいことをやりたいようにやる、一人のちっぽけな存在だ。
「やりたいようにやれ、テト。お前はもう自由だ」
彼女は、彼方の空に言った。
―天界―
後日譚。
というのは少し大げさかもしれません。
お久しぶりです。
創造神テトより神を受け継いだ男、テトと死闘を繰り広げた大男、私です。
あの激闘から三か月、つまりテトが神を引退してからちょうど一年が過ぎたということになります。
テトが神の権能を使って世界の崩壊を防いだ後、カナフ・バックドラフトやナターリヤ・スカイネットの尽力もあって、神としての職務に残ることができました。
それも以前のようなワンマン業務ではなく、『シナリオ』を書く天使を大幅増員してくれたので、「忙しいことには変わりないけれど、休みもあるしやりがいもあるなぁ」程度には名改善しました。
それでも、慣れない仕事によって不完全に実装されてしまった『シナリオ』で引きこる不具合や矛盾を正すための『修世の光』を使う羽目にならないよう、小さな点を一つ一つテトが対処してもらうことになりました。
彼がまだ下界にいるのはそのせいです。
なぜ今頃になって後日譚を綴ることになったというと、死んでから働く詰めで、初めてもらう『休日』の手持ち無沙汰に耐えられなくなったからなのです。
そうそう、『休日』と言えば。
実は昨日、仕事終わりに来客があったのです。
見てくれは、と言いますと。
座っていても良く分かるほど背が高く、ファッションには無頓着だと主張するように羽織った古びたトレンチコートに雑にその手を突っ込んでいて、その下に来ているパンツスタイルの背広は高級感のある代物。
整った顔立ちに似合わない鋭い目つきとシルバーの眼鏡。髪の毛はちょうどうなじが隠れるくらいの長さに纏められていましたが、特に手入れはされていないようで荒れに荒れていました。
彼女は脅すように、
「これから言うことを、この日時に従って書き綴って欲しい」
と。酷く先の日にちが書かれた紙を渡しながらそう言いました。
「私が従わなきゃいけない道理がありますか? 貴女、天使ではありませんね。何者です?」
「私を詮索するのは、得策ではないぞ」
反論する私を、ただをこねる子供のように彼女は威圧しました。
そもそも天界という場所は部外者が入ってこれるところではありません。彼女がここにいる理由や敢えて私に接触してきた理由、それも正当性のある理由があるはずなのです。
私は無理やり納得して、彼女の指示に従うことにしました。
「ふむ……。上出来だ、協力に感謝する」
書き起こした『シナリオ』を読んで満足した彼女は、そのまま帰ろうとしました。
「あのッ!」
気がつくと、彼女を引き留めていました。
「? 何か問題でも?」
「私は、貴女の言う通りにしました。ないはずの道理を通したのです…………」
「だから、私も道理を通して名乗れ、と?」
「……えぇ、そうです」
彼女は「それもその通りだ」と、顎を擦って考えて、
「Kだ」
即答したのです。
「それ以上は何も聞くな」
そして、続けました。
『天使の皆さんと新任の神様はどうか探さないでください』
久しぶりに聞いた去り文句。
気がつけば、Kと名乗った彼女はいなくなっていました。
YOU will witness TETO again………….
最後の最後まで読んでくれてありがとう!
これで最終回という訳ですが、、テトの物語はまだ終わっていません。
来年の春には続編を出せるように頑張ります!
感想がたくさんあればあるほど早くなるかも笑笑
また、会いましょう!




