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二十六話 二章:その八 会敵、疑問、真相は神のみぞ知るところ 後編

前回までの『おれ天』!!

荳我ス堺ク?菴薙?∝ッセ縺吶k縺ッ逾

 決して砕けない鎖が、悠々と宙を舞っている。

 先に繋がれた二対の剣はもはや使い手であるカナフの両腕の延長となり、爆炎と共に破壊の化身となって神に牙をむこうとしていた。



「なんで、あたしを助けたんダ?」


 控室にて初めて神と接触した数刻前、衝撃に隠れてカナフと共に天界へ転送されたヴァリが問うてきた。


「別に他意はない。私が逃げる時にお前が巻き込まれただけだ」


 カナフはぶっきら棒に答える。

 確かに、彼女にはあれほどテトが忌避していた天界へ避難したのはとっさの判断だった。

 頭が弱い、考えが拙い、と揶揄されてきた彼女だが、襲ってきたあの神の圧倒的な力を前に正面から立ち向かうのはいけない、と本能で感じ取ったのだからムリもない。


 ヴァリが「巻き込まれた」のは嘘だ。

 あの神が正常ではないことなどカナフでも一目見ればわかる。そんな者と一刻でも早く引きはがすべき、とした彼女の判断が正しいことは今ヴァリの浮かべている安心しきった表情で分かった。


「せっかくの天界だ。ゆっくりしていると良い」


「お前ハ?」


「準備が終わり次第、下界(した)へ戻る。(やつ)を食い止めなければ」


「無茶ダッ! 天使が神を止められる道理がどこにあるっていうんだヨ!」


「それでも、私はいかねばならん」


「お前は知らないだろうが、テトはもう―――――」


 死んでいる、と。ヴァリが言おうとした瞬間、彼女の瞳の一寸先に出でた剣の切っ先が彼女の言葉を遮った。

 瞳に浮かぶ涙を隠しながら、


「神は、死なんッ! 従って、これは復讐などではない。奴が気に入らないから、ぶっ飛ばしに行くだけだ…………!」


 そう言った。

 鎖に繋がれた二対の剣は、カナフから発せられる炎に共鳴して凄まじい熱と光をヴァリに当てる。

 双剣は、彼女の激昂に答えて荒ぶる猛火となっていた。



 そして今、迸る炎を纏いながら剣は神の体を貫かんと放たれた。

 が、神は高速で飛んできた剣の刃を直接のその手に掴んで、柄に繋がれた鎖を腕に巻き付けて引き寄せてみせた。

 カナフは負けじと踏ん張る。

 全体重を乗せて堪えている足は地面をえぐりつつも何とか二人の距離をある程度確保していた。


「女体に似合わず力自慢ですねぇ……。それではこうだッ!」


 神は不敵に笑うと、一歩後ろへ引いた。

 たちまちカナフの踏ん張りがきかなくなる。


「うッ、ぬゥゥゥゥ!」


 カナフの呻きながらの万力も地面にめり込んでゆくだけで、こどもが本気を出した大人相手に綱引きをしているように虚しく引きずられていった。

 そしてカナフの体勢が抉れた地面に固定されたその瞬間、


「終わりだ」


 神は鎖をほどき、カナフに肉薄した。

 もう動けない彼女を、テトと同じように頭部を粉砕せんと、大きく振りかぶった。

 が、神の拳はカナフを捉えることなく空を切る。

 ナットがとっさの判断でカナフの背中に糸を括りつけて引っ張ったのだ。

 追撃に出ようとした神を、セリーナが生み出した氷塊が遮るもすぐに砕かれてしまうが、ゆらりと三人の様子を伺っているところを見ると、なんとかカナフへの援護は成功したようであった。



 悲鳴の轟くスタジアムの中央で、三人と神は対峙する。


「悲鳴…………?」


 慌てふためく観客たちの様子を見て、神は首を傾げた。

 神は、このスタジアムや『闘技会』について自らの権能の一部である『シナリオ』に「これから起こる全ての闘争、非日常を楽しみ見届ける」ことを記した。

 神の『シナリオ』はこの世の理、無意識かで絶対順守するべきルールである。

 人間たちがそれに歯向かう行動をしている今、神の疑問はもっともなものである。


『疑問なのかい?』


 そんな神に、ナットが言った。


『君がそこの脳筋女に気をとられている内に『シナリオ』を上書きしておいたよ』


「まさか、たかが天使一人が神の定めを消せるわけないでしょう」


 神は鼻で笑い、さらに続けようとした、が、


『ッははははははははは!』


 ナットの聞きなれない高笑いがそれを塞いだ。


『君、自分の権能を過信してないかい? 激務とはいえ一年間も神としての経験をしたから、気を抜いていたとはいえテトを殺せたから自惚れてるのかい? いや、ただ君が無知だっただけかもね…………』


「何をでたらめなことを」


『いいや、でたらめなもんか。ボクはナターリヤ・ガブリエル・スカイネット、『シナリオ』においては創造神テトの次に優先度のある大天使さ。そんなボクの手にかかれば、生まれたばかりの神の御業なんて、赤子の手をひねるよりも簡単に打ち消せるんだよ』


 神の脳裏に屈辱の記憶が蘇る。

 生前、為すこと為したこと全てを貶され続けた記憶。

 再出発を願おうにも、激務を押し付けられて勝手に期待され勝手に失望された記憶。


「…………りなさい」


『?』


「黙りなさい。私のことを知らないのに、知ったような口を叩くんじゃあない!」


 神は、激昂した。

 傍目から見れば、それは癇癪を起した子供のように見えているだろう。

 図星を衝かれて、立場を分からせまいと無意味な説教に入る老害のように見えるだろう。

 だがこれは、神の、神に仕立て上げられた悲しい男の、誰にも打ち明けることが許されなかった悲痛の叫びが、怒りとなって表れているのだ。


 怒りに任せて、神は飛び上がった。

 この気持ちを、言葉にできなかったからだ。

 言葉にしても、誰も分かろうとしてくれない、どうせ自分の定規にでしかものを考えないで頭ごなしに否定するだろうと思っていたからだ。



「ドゥラァァァァァァ‼」



 生前はできなかった、力での主張でしかこの怒りと悲しみの胸内を伝えられないと思った。

 この拳でしか伝えられないのだ、と思い込んでいた。

 もう世界なんて吹っ飛ばしちまえば良い、と思った刹那、何かが墜落してきた。

『落ちてきた』のではない。

『墜落してきた』のだ。

 墜落してきた何かは、重力に任せて偶然に神と三人の間に着地したのではなく、自分の意志と十分に加速した速さをもって神と天使たちの間、なんしはこのスタジアムに場所を定めて墜落してきたのだ。

 だが、それに驚いて止まる神ではない。

 三人目掛けて振りかぶった拳は目標を変え、墜落してきた『何か』に降り注いだ。


「なん……だと……!?」


 神の額に初めて、汗が流れた。

 『何か』が、世界最強の存在である神の必殺の一撃を受け止めたのだ。

 その上、拳はその風圧で土埃を払って『何か』の正体を晒したのである。


 上半身は筋肉が浮き出るような形をした鎧、下半身は動きやすいようにぴっちりとしたズボン。揃って高級感と性能を十分に兼ね備えた革製のもの。風に揺らめくマントは英雄的に見える。


「君の狙いは、俺のはずだろ?」


 紛れもなく、テトの姿だった。



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