二十五話 二章:その七 会敵、疑問、真相は神のみぞ知るところ 中編
前回までの『おれ天』!!
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テトに偽装したナットは、テクテクとスタジアムを見て回った。
クラスメイトの奮闘に歓喜し、落胆する生徒たち。
その生徒たちを対象に弁当やお菓子を売る者たち。
勝敗を当てて金儲けをしようとする不届き者たち。
クラスの代表として選ばれなかった彼らもまた、『闘技会』の参加者であった。
そんな騒ぎのせいもあってか、人気者であるはずのカナフや生徒会長として高い知名度を誇るヴァリとその金魚の糞の二人の行方を知るものは誰一人いない。
それどころか、テトも見てくれをしている彼女を見るや否や、あからさまな敵意を向けて突っぱねる生徒がほとんどだったため、テトの捜索は困難を極めるものであった。
そんな中、彼女にある考えが浮かぶ。
「はッ……! まさか、逢引きしてるんじゃあ……、あの炎上暴走脳筋淫乱女め、ぶっ殺してやるッ‼」
そうしちゃあいられない、と。そう明後日の方向に早合点した彼女が走りだそうとしたその時、
「セリーナちゅわーーーーんッ‼‼」
身の毛がよだつ野太い声援が彼女の足を止めた。
スタジアムに立っていたのは、一人の女性。
紫がかった艶のある黒髪。
俺の姿を反射させる銀色の瞳。
端正な顔立ちに背は高く、スーツ姿の似合うスゥとのびた手足。
年齢は二十代の中頃といったところの、相当な美人…………。
テトを拉致監禁した挙句、ナットとカナフにブルボッコにされて取り乱した残念美女のセリーナ・ドライランドだった。
「そういえば、教員代表で理事長エキシビジョン? をやるんだっけ…………」
ナットは足を止め、スタジアムに視線を降ろす。
彼女自身、セリーナの奮闘には欠片も興味はなかったが、理事長の姿を見るなり何か胸の中に引っかかった気がして無視する気が起きなかったからだ。
歓声が止むことはなく、セリーナと理事長は穏やかな顔で見合っている。
「■■■■■■■■■■■」
理事長の口が動いた。
スタジアムを包む歓声で何を言っているか聞こえず、遠すぎて読唇もできない。
だが、その言葉でセリーナの顔が強張ったのはすぐに分かった。
強まる声援の中で、二人は衝突する。
スタジアムの中央からセリーナの作り上げた氷の障壁が瞬時にそそり立ったが、瞬きをしている合間に粉々に砕け散っていた。
先程生成された氷の量から察するに、セリーナは本気を出している。そして、それを打ち砕いた者はそれ以上の実力の持ち主。
「あいつは、ヤバいッ!」
セリーナと理事長が二度目に接触する前に、ナットは中央に向かって飛び上がった。
彼女とセリーナの遺恨なんて、この際は関係ない。
今まで接してきた物とは比べ物にもならない未知の脅威が目の前に存在していることで、彼女の思考は脳みそすっ飛ばして脊椎で反射的に答えをはじき出していたのだ。
人智を超越したサイボーグの出力に任せて飛翔したナットは0コンマ一秒以内でスタジアム中央に到着。
天使の権限で腕から創造した特大のハンマーを感性に任せて、理事長であった怪力の大男に振り下ろした。
ドガァン‼
と。手応えのある一撃で、大男を殴り飛ばした。
「あら。助けに来てくれるなんて、優しい所もあるのね。引きこもりさん」
「別に、君のために助けたわけじゃあないから。美人が一人減ったらテトが悲しむから仕方なくだよ。自惚れるなよ、ポンコツ残念女」
「じゃあ、そのテト君の見てくれでそう言うのはやめてみたら?」
「あ…………」
そう言われて、ナットは擬態するために出力していたテトのホログラムを消して、戦闘用に調節したサイボーグの姿を露にした。
甲冑を着込んだ少女のようなシルエット。
銀色の装甲の隙間と関節部分で煌くエメラルド色の閃光。
顔には目や口といった表情を作り出す部分がなく、代わりに涙が流れるようにエメラルド色の発光が通っているので、不気味な印象を与えていた。
「それにしても悪趣味なカッコ。もう少し愛想良く作れないの?」
『うっさいな。ボクの趣味に口出すなよ』
刹那、二人の上に何かが降ってきた。
いつものように、相手が立ち上がるまでの軽い口喧嘩をしていた二人だったが、大男が飛ばされた方向から巨大な岩が降ってきたのだ。
『「しまっ…………!」』
岩による影回避できないほど大きく、そして脳が指令を出す頃には着弾しているであろう程高速であった。
が、二人が回避行動をとった瞬間に、それは爆炎と共に砕け散った。
火の粉と岩石の欠片と共に宙に舞っていたのは、柄が鎖につながれた双剣。
それを可憐に使いこなしてセリーナとナットの目の前に降り立ったのは、燃えるような赤髪と程よく鍛えられた筋肉を携えた女性。
テトから力を授かった最初の天使、カナフだった。
「二人とも、天界の者と戦う時は無駄話をしないことだ。そこいらの雑魚には敵わないが、目の前の奴は少し毛色が違う」
カナフは、両手に巻き付けた鎖を引いて宙を舞っていた双剣を両手に収めながら言った。
その体には、痣や出血が点々としており、誰が見ても満身創痍であった。
「その通りッ! やはり貴女は賢くて、酷く厄介ですね。最初に殺せなかったのは残念で仕方ないですよ。全く…………」
規格外の投石で晴れてゆく土煙から、無傷の大男が姿を現す。
「まさか、本気でやり合う気? 三人の天使を同時に相手取って無事でいられるとでも思ってるわけ?」
『投石見て分かんないの? ありゃあ、天使以上の力がなきゃできない芸当だよ。できるとすればテトくらい……って、まさか…………!』
「その通りです。流石はナターリヤ・スカイネット、日本を創造する大天使…………」
セリーナとナットの言葉に入って、大男は言った。
その両腕を大きく広げて悦に浸るように、彼は言葉を一つ一つ噛み締めて続ける。
「私は、新世界の神となる存在。先程、テトはこの手で殺めました。ですが、それだけでは新しい世は開けません。一つ一つ、この手で摘み取らねば…………」
そして、彼は目の前の三人の天使に視線をやって、咆哮する。
「まず手始めに、テトの寵愛を授かった貴女方三人を消すッ!
さぁ、かかってきなさいッ、旧世界の遺物よ!
神殺しの大罪を犯したこの私を止められるのであれば、ここに名乗りを上げるが良いッ‼‼」
戦いの火蓋は、ここに切って降ろされた。
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