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十七話 一章その九:燃える女、機械の女、氷の女、巡るは神の行方 後編

前回までの『おれ天』!!

靄の向こうの誰か。

 俺は目を開ける。

 周りを見渡せば瓦礫の山。

 体を起こした途端ひどい頭痛がしたが、そんなのは意識の彼方へ飛んでった。

 俺が今いる地下空間の天井は派手に砕かれて、そこから注ぎ込む夕陽が二つの影を作り出している。

 影は尋常じゃあない速度で飛び回り、けたたましい轟音を立てながらぶつかり合う。

 ここが、戦場になっていたのだ。



「テトッ!」


 よろめく俺に寄り添うように、カナフが降り立った。

 謎の爆発があって3日。

 監禁されて3日。

 4日ぶりに見るカナフの姿。

 それで安心してしまったのか、俺は脚に力が入らなくなって彼女の肩を借りた。


「元気そうだね、カナフさん」


「そういうお前はひどく衰弱している」


「まぁね、初めて三日三晩ぶっ通しで仕事したからね……。俺が今まで逃げてきた理由、分かっただろ?」


 俺は、手元にあった『シナリオ』本を持ち上げて笑った。

 カナフは力のない冗談に呆れ半分安心半分で口元を緩ませた。

 そこで、俺は気づく。


 俺を支えているのがカナフならば、向こうで戦っているのは誰なんだ?


 と。

 高速で飛び交うその姿を凝視してみる。

 サイボーグ…………?

 鎧のように機械の装甲を纏うパーワードスーツにしてはシルエットが華奢すぎるし、ロボットにしては動きが人間的過ぎる。

 いや、完全に動きは人間の、天使のそれだった。

 人間のように、天使のように戦う機械人形。

 だがそれが誰かは、彼女(・・)が創り出すものと発する声で分かった。


『そぉぉぉいッ!』


 彼女がまず造り上げたのはロープ。

 機械の腕から質量保存を無視して出現したロープは不可解な形でセリーナの背中を縛り付け、機械の出力任せに振り回され四方を固めるコンクリートにゴミクズのように引きずられている。

 ある程度ダメージを与えた彼女はロープを離し、反作用を利用して俺とカナフの前へと華麗な着地を決めた。


「ナット……、で良いのか?」


 正体は分かっているが、一応問うた。

 サイボーグには頭部はあったが、仮面のような装甲を顔にしてあったので表情が分からなかったし、なにより今日は思い込みをする気にはなれなかったからだ。


『そうだよー。ボクは君の唯一の親友のナット・スカイネットさッ! いつもは画面の中の椅子の人だけれどさ、テトという時間を増やそうと思ってこうして夢のボディーを手に入れたってわけ。お礼は良いよ、テトの体で払ってもらうから』


「御託は良いから、とっととあの目障りな女にとどめを刺してこい」


『ん? 何か言ったかな? ボク、役立たずな脳筋女の言うことなんて聞こえないんだ』


「ほう……? 良いだろう、後でその自慢のおもちゃをぶっ壊してやるから覚悟しておけ」


「か、カナフさん……。く、首が…………」


「おぉ、すまない」


 ギブアップ、と叩いてようやく力んだカナフの手が俺の首を離れる。

 だが、なごんだ雰囲気もそこまで。

 サイボーグのナットに投げ飛ばされたセリーナが、瓦礫と土埃の中から這い出てきたのだ。


「おい、機械女。まだピンピンしているじゃあないか。大口叩くなら仕事をしてからにして欲しいものだ」


『はぁ? 初戦に惨敗した君に言われたくないし!』


 まだ言い合っている二人を、セリーナから発せられた冷気が襲う。

 それは氷点下100度を下回る途轍もない冷気であったが、水分を含んでいなかった。

 従って、普通ならば即死級の攻撃だろうが、カナフの発した炎とその熱気で一気に相殺された。


「そもそも! お前が音信不通になっていなかったらこんな事態にはならなかったんだぞ。そこのところ、ちゃんと理解できているのか?」


『自分の無能さを棚に上げて言わないでくれるかなぁ!』


「お前、さっきからそれしか言ってないな。もしかしてそれしか反論できないのか? まぁ仕方がないよな、お前は所詮引きこもりのナードだもんな!」


『反論ならあるし! てかクソヲタク(ナード)言うなし!』


「なら言ってみろ! 今ここでやってみせろ!」


 二人の口論は止まらない。

 当然セリーナは攻める手を緩める気はなく、頭上に大量のつららが発生し、今にも串刺しにせんと降り注いだ。

 が、売り言葉に買い言葉のナットは巨大なパラソルを造り出してつららを全て防いでみせた。


『お望みなら見せてやるよ』


 と、隣に80ミリメートル口径の野砲を出現させた。

 そして、


 ドゴンッ!


 と。セリーナに標準を定めて発射した。


「うそぉ!」


 セリーナは情けない声を上がるもとっさの判断で氷の壁を出し、砲弾の奇襲を水際で食い止めた。

 壁は粉々に粉砕し、その衝撃でセリーナの姿は再び土煙に隠れてしまった。

 ナットにはフンスとしたどや顔の雰囲気。


()っか?」


『それ、敵パワーアップの文句だからやめて』


 ナットは突っ込んだが、俺は言葉には出さなかった。

 そして、当たり前の如くセリーナの姿が露になってゆく。

 二人は今度こそ口論をやめ、真面目に身を構えようとしたが、



「何なのよ、もおおおおおおおおおおおおおおおおッ‼」



 セリーナから発せられた怒号に肩の力が抜けてしまった。



「こっちは真面目にやってるのに、さっきから男の取り合いで口喧嘩して! それで私の攻撃を完璧にいなして、ちゃっかりオーバーキルなんか狙っちゃって! 何なのよッ! これじゃあ、まるで私がそこら辺の雑魚みたいじゃないッ!」



 いきなりのことで、ポカンと目を合わせるカナフとナット。

 最初に口開いたのはカナフだった。


「いや、実際お前、弱いだろ」


「じゃあ、三日前のあれは何だったのよ! ちゃっかり私の罠に引っかかって伸びてたじゃない!」


『そりゃあ、この女は何も考えない脳筋女だからなー。君の運が良かっただけだよ』


「貴女には聞いてないわよ、ナードさん」


『イラッ』


「ははははははははッ! おい聞いたか、テト? あいつ、むかつく奴だが冗談は上手いぞ!」


「そう言う貴女は単純思考よね。何千年も生きてるから脳みそも筋肉になっちゃったのかしら」


「…………なに?」


 二人のこめかみに血管が浮かんだ。


 もう知らないぞ。

 これから起こることを、俺は考えたくもないが予想出来てしまった。


「貴様、もう何も話さなくて良いぞ」

『君、もう黙っててよ』


 二人は振りかぶった。

 カナフの炎は防御としてそびえる氷の壁を水に溶かし、ナットの鉄の拳は100トンと書かれた重りを乗せてセリーナの後頭部を直撃した。

 気を失ったセリーナを見下しながら、二人は勇ましい仁王立ちをしている。


「えっと、二人とも……。これから何をするか分かってるから言うけれど、ここら辺でお開きっていうわけにはいかない? ほら、俺も五体満足なんだしさ…………」


 怒りに呑みこまれたカナフに放られて突っ伏したまま、俺は言った。


「いいや、それだけはあり得ない。こいつにはあらん限りの償いをさせてもらう」


『そうそう、あんなことやこんなこと。もう外を歩かせないようにしてやる』

 さっきまで口論をしていたはずなのに、二人は全く同じ悪どい顔を浮かべている。


 南無三。

 俺は、祈るしかなかった。






 *

 後日譚。

 つまりは今回のエピローグだ。


 謎の爆発から1週間、俺がセリーナから解放された3日後に学校は再開された。

 校舎はこれを機に建て直されるってんで仮設の建物で授業が再開されたわけだが、集まった面々には特に変わった様子はなかった。

 強いて言えば、小鳥遊ヴァリが酷く痩せこけて精気が失せていたところだが、


「聞くナ。黙ってお前らの弁当を寄こセ」


 と弱々しく俺の弁当を奪うだけで、なにも聞き出せなかった。

 そういえば、以前は文句しか言っていなかったナリとブーリが彼女のイエスマンになっていた。俺にはどうでも良いことだが。


 あの後のセリーナだが、カナフは毎晩ウキウキとしてどこかへ出かけているので、今もまだどこかに軟禁されてあんなことやこんなことをいるんだろう。

 いや、エロいことなんて考えてねぇし。

 まさか、そんなことはないだろ。エロ同人氏じゃああるまいし…………。

 そうだよね?

 そういえば、カナフさん「今日はどんなことやったの?」って聞いても何も答えてくれないじゃん! もしかして、あんなことやこんなことやってんの!? エロ同人みたいに! あろ同人みたいに!?


 まぁ、そんなことは置いといて。

 多少様変わりしたが、俺の学校生活は戻ったわけだ。

 毎晩、夜通しでゲームをして。

 エナジードリンクで疲れた顔をひっぱたいて学校に通い。

 罵倒を浴びながら学内を過ごして。

 カナフやヴァリ、ナリ、ブーリと生徒会の仕事をやり。

 申し訳程度に勉強をする。

 半年間のニート生活を経て、カナフと再会してから始まったこの学校生活。二ヶ月が思ったよりも楽しくて、短く過ぎていった。

 俺はその生活に満足する一方で、何か忘れたような気がしてならない。

 今俺に置かれたこの状況の根本に関する、何か大きなことを俺は忘れているような気がする。


「おい、テト。始業時間だ。早く座れ」


 だが、カナフの声に引き戻される。

 まぁ、忘れているくらいだから大したことじゃあないんだろう。

 俺は学生らしく座って担任の登場を待つ。


「はい、みんないるわね!」


 だが意外。

 登場した教諭は担任ではなかった。

 だが、見慣れた人物だった。

 紫がかった艶のある黒髪。

 俺の姿を反射させる銀色の瞳。

 端正な顔立ちに背は高く、スーツ姿の似合うスゥとのびた手足。

 年齢は二十代の中頃といったところの、相当な美人だった。



「このクラスの臨時の担任になった、セリーナ・ドライランドよ。これからよろしく!」



 彼女は、絵になる笑みを浮かべながら俺にウィンクをする。

 カナフはといえば、目をつぶり勇ましく腕を組んでいるだけだった。


最後まで読んでくれてありがとうございます! 

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作者は褒められると伸びるタイプです!

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