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十六話 一章その八:燃える女、機械の女、氷の女、巡るは神の行方 中編

前回までの『おれ天』!!

誤チェストでごわす。

 天使。

 と一言でいっても、その種類は多くある。

 最も多く一般的なのは、『シナリオ』を書く天使だ。

 ナットのように国を担当するのは数の少ないある程度くらいの高い天使だが、

 その天使たちの部下の天使、つまり人間一人一人の『シナリオ』をそれぞれ担当している下級の天使の数はそれこそ10臆単位でいる。


 そして、二番目に多いのが『シナリオ』を書く天使を管理する天使だ。

 まぁ、それは編集者と言っても良い。

『シナリオ』に矛盾がないか、節度を守っているのか、を見るのが主な仕事だが、期限まで『シナリオ』を完成するように尻をたたくのが本当の仕事だったりする。

 俺にとってのカナフがそれだ。

 数はそれほど多くなくて、だいたい1000万くらい。いつも人手不足だ。


 その二つで、だいたい天界の全天使の半数を占めている。

 じゃあ残りの半数は? と聞かれても「分からない」としか言えない。ぶっちゃけ残りの天使たちは仕事もしていない暇している奴らだから、印象もない。

 天界=天国と考えるのなら、残りの天使たちは「転生待ちの魂」といったところか。

 いつの日かカナフが言っていた「俺を追いかけて降りてきた半数の天使たち」っていうのは大方そういった連中だろう。

 言ったろ、暇って。あいつら娯楽にはするどいんだ。


 それで、今俺を拉致した彼女は三番目の天使だった。




 *


「とりあえず、何か話さないか? 黙ってるの、得意じゃあないんだ」


「それもそうね、何から話しましょうか」


「じゃあ、まずは自己紹介だな。俺はテト。一応、元神様だ」


「知ってる」


「まぁ、拉致してんだからそうだよな。それで? 君は?」


「セリーナ。セリーナ・ドライランド」



 彼女、セリーナの態度は友好的にも見えた。

 目を閉じれば、どこかのオシャレなカフェで初々しくお見合いしているような気分になる。まぁ、目を閉じれば、だけれど。


「じゃあさ、セリーナ。聞きたいことがあるんだ」


「どうしたの? 改まっちゃって」


 彼女は笑った。

 とても綺麗な笑顔だったが、何かを隠しているような、そんな笑顔だった。


「君は、何のために動いているんだ?」


 天使が、俺を追いかけていることは分かっている。

 その天使が目的である俺を捕まえてするべきことは、まず天界への連絡だろう。

 何か合図をあげるとか。

 天界にいる他の天使に連絡を取るとか。

 そんなことをするはずなのだが、セリーナがそうしている雰囲気はなかった。

 逆に、俺の存在を隠そうとしている、とすら感じた。


「ふーん。なんでそう思ったの?」


 セリーナは脚を組み、縛られた俺を見下しながらそう言った。

 むぅ。

 鎮まれ、俺の息子よ。

 時と場所を考えろ。今シリアスなシーンだろ。我慢だ、我慢。


「見たところ、君は俺を追いかけてはいるが、天界へ帰そうとはしていないからだ」


 セリーナの鋭い瞳が俺を貫き、また彼女の顔に笑みが戻る。


「理由を、言ってみせなさい」


「まず場所だ。ここは使われていない地下鉄の駅。辛うじて電気はまだ通っているが、人の管理は行き届いてないし、誰かが来るってこともたぶんない。

 しかも、かなり深い所にある。電波はもちろん、天界からの監視の目も通らない。そしてなにより、こんなに深けりゃ他の天使たちが俺の力を感知することができない」


 最初は、俺の思い込みだと思っていた。

 だが、セリーナの食いつきようで、この推察が正しいと確信できる。


「だから、君は俺を探し出し、こうして監禁したいんじゃあないのか? 誰にも邪魔されることなく、自分の目的を達成するために―――」


「ただの推論よ。それは」


 俺が言いきる前に、彼女が割って入ってきた。


「でも、お見事。流石、神様ってわけね。今までとは大違い」


「今まで?」


「そう。感じないの? 頭がすっきりしてきたって」


 セリーナは子供らしく人差し指で自分のこめかみをクルクル指して言った。

 確かに、さっきから頭が澄んだ気がしていた。

 彼女の言う通り、「今までとは大違い」で思ったように思考が回って、うまく考えが言葉にできる。


「セリーナ、これって…………?」


 ドゴン。

 と。俺の問いは彼女が目の前に置いた分厚い本に遮られた。

 見覚えがある。

 いや、見覚えがあるんじゃあなく、これは俺が世界で一番嫌いな物だった。

 それは、神が『シナリオ』を書くために使う、世界を紡ぐための本だ。


「えぇと…………」


 俺の澄んだ思考は急に真っ白になった。

 そんな俺をセリーナは覗き込んで、


「大丈夫、安心して。これはレプリカ。これで『シナリオ』を書いて欲しいのよ。貴方が投げ出した世界のシナリオの続きを、私だけに見して!」


 セリーナは銀色のその瞳を、キラキラと輝かせてそう言った。


「言ってる意味が、分からないんだけど」


「あぁ、ごめんなさい。口足らずだったわ。私は、貴方が書く『シナリオ』を私好みにして書いて欲しいのよ。神が、一天使である私のために『シナリオ』を書き下ろす……、こんな最高なことってある!?」


 言ってる意味が分かってきた。

 分かりたくもないが、分かってしまった。


「要するに、君の指示に従って『シナリオ』書ききるまで帰れま10ってわけか」


「そう! 分かったら早速書いてもらえるかしら。大まかな筋書きは書いてきたから。大丈夫、時間ならたっぷりあるわ!」


 もうクールで大人な雰囲気の彼女はもういなくなって、推しクリエイターに出会って興奮するヲタクになってんな。

 すげぇ変わり身だ。

 まさか、こんな美人が『T〇d』のドニーだとは思わなかったなぁ。




 *

 あれから3日が経った。

 もう限界だ。

 何千年も毎日『シナリオ』を書き続けてきたくせになんだ、と言われるかもしれないが、一つ言わせて欲しい。


 流石の俺も、三日三晩休まず書き続けたことないからな‼


 1日24時間。

 3日で72時間。

 飲まず食わず、寝ることもできず、ただひたすらに書き続けている。

 セリーナが持ち込んできた『シナリオ』の筋書きのストックは無くなる気配はなく、いくら書いても読み足りないと言ってくる。

 仕上げた『シナリオ』に文句を言ってこないのがせめてもの救いか。


「はぁぁぁ。素晴らしいわ、テト。貴方の書く『シナリオ』はいつも最高傑作だったけれど、私のために書いてくれたものは皆『オンリーワンでナンバーワン』。もはや私如きが評価を述べることもおこがましいわ」


 褒めてくれるのは別に良い。

 美人が蕩けた表情で俺の書いたものを呼んでいるんだから、神冥利に尽きるってもんだ。

 だが、問題は「休みたい」と言った時だ。


「最高の環境を用意してやったっていうのに、休みたいなんて贅沢を言うのね。貴方、何千年神様をやってたの? まだ数日も経ってないじゃあない。わざわざ邪魔者を排除してやっのよ。感謝なさい」


 そう冷たく言うんだ。

 薄い座布団にボロっちいちゃぶ台だけでよくもまぁ『最高の環境』って言えたもんだ。

 だが、スラスラと筆が進む。

 文句を垂れながらも、次々に『シナリオ』が湧いてくる。

 引退してから抱いていた倦怠感と靄のかかった思考が嘘だったみたいだ。

 だが、セリーナはどうしてこんな環境で俺が書けると思ったんだろう?


 その瞬間、俺の筆が止まった。


「? 何をサボってるのかしら?」


「セリーナ、一つ聞きたいことがあるんだ」


「そんなことをしている暇はないわ。さっさと―――」


「質問を、するだけだよ」


 俺は、初めて彼女を睨んだ。

 セリーナがビクついたので、まだ俺には神の威厳というのが残っていたらしい。


「どうして、教えてくれないんだ? 俺の力が制限されているって。どうして、直接言わないんだ? こんなに面倒なやり方で、どうして…………?」


 そして、彼女の態度が変わった。


「貴方が、たどり着かなければ先に進めないからよ。良い、テト。誰かが、貴方の力を、神の力を狙ってる。貴方だけが、それに対抗できる。貴方が任せた新任の神じゃあダメ」


「待ってくれ、言っていることが分からない」


「私からは教えられない。貴方だけで、答えにたどり着かないと。でも、もう時間がない。地下はまだマシだけれど、地上に出れば、私たちの力は制限されてしまう。感じているでしょう? 思考が靄にかかった感じが」


「時間がないってどういうことだ!?

 誰が俺たちの力を抑えているんだ!?

 君は誰の命令で動いているんだ!?」


 ここで、急に思考が止まってしまった。

 それと同時にして、


 ドドドドドド


 と。上から削る音がする。

 俺は、残った鮮明さで精一杯の言葉を紡ぎ出す。


「セリーナッ、いつか君から全てを聞き出してみせるッ!」


「待ってるわ。でも、急いでね。手遅れになる前に―――」



 そして、天井は砕け散る。


 視界は、真っ白になった。


最後まで読んでくれてありがとうございます! 

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作者は褒められると伸びるタイプです!

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