hg16 SAY・Sについて
冬の始まりを告げる雨と風は街から秋の装いを一掃して、それが去った直後には猛烈な寒さが急襲してきた。他の季節と異なり、冬はいつも暦と一緒に訪れるようだ。渡海雄は白い息を吐きながら、黄色い絨毯が敷き詰められた朝の道を走っていた。
「おうはよう、ゆうちゃん! いやあ、冬だねえ」
「ええ本当に、急に寒くなったわね。新しいコートを早くも実戦投入するとは」
「へえ、そのポンチョみたいなの? とてもかわいいと思うな。暖かそうだし。そして今回は色々考えたんだけどね、先にこっちをやっておいたほうがいいと思ったからそうするよ。テーマはSAY・S。前回にもちょっと出たけど、これもまた光GENJIの一部と言えるからいつかまとめようとずっと思ってたんだ」
「ふうむ、SAY・S。確かGENJIの諸星以外のメンバー四人の」
「そう。佐藤のS赤坂のA山本のY佐藤のSでSAY・S。ジャニーズは今もこの手のイニシャルを組み合わせたグループ名がいくつかあるけど、その魁と言える存在だよ」
「KAT-TUNなんかもそれだったっけ」
「まあAとTが抜けたりして今は相当苦しいこじつけしてるようだけどね。で、一九九〇年のミニアルバムにおいてその四人だけで歌った曲があったけど、その頃はまだSAY・Sという呼び方はなされていない。大雑把には一九九二年頃にSAY・Sという名前が出来たようで、単独でシングルを出したのが一九九三年の事なんだ」
「それがこの『曇りのち晴れ』ね。作詞高柳恋、作曲清岡千穂、編曲米光亮」
「でもこれがまた妙な曲でね、イントロから勢いのあるメロディーが続いたかと思うとテンポを落としてバラードっぽいパートになる。いや、ここまではまだ一連の流れとしてありなんだけど、次の佐藤寛之のソロパートは唐突にミディアムテンポの優しい曲調になって、また最初の勢いある曲に戻る。ここははっきり言って唐突。最後もミディアムテンポでロック色の強い、今までになかったメロディーが登場するし。全く別の曲を強引にくっつけたような、しかもそれぞれがあんまり調和してない無理矢理感が濃厚な曲で、ある意味インパクトはあるけど完成度は決して高くない」
「そしてカップリングは『STARDUSTに乗って』。作詞平井森太郎、作曲関口誠人、編曲米光亮」
「昔C-C-Bってバンドがあってね、髪をピンクに染めたドラム兼ボーカルとかいて八十年代に活躍してたんだ。そのC-C-Bのギターだった関口による非常にサイバーな浮遊感を湛えたスピーディーな曲で、楽曲のクオリティで言うと『曇りのち晴れ』より間違いなくこっちのほうが上。スマートで格好良いしサビは結構熱いし。でもやっぱりインパクトを重視したんだろうなあ。確かにシングルって程でもないような気もしないでもないし。非常にもったいない事だけどね。また、シングル盤はこれ以降モーニングコールと称して各メンバーによるちょっとした台詞が延々と入ってるけど、まあこれはどうでもいいよね」
「そうね。じゃあ次のシングルは『WE ARE THE CHAMP』。作詞ARMATH(Deja)、作曲ARMATH、編曲米光亮」
「これはねえ、曲としては相当有名と言えば有名だけどねえ。うん。一九九三年と言えばJリーグ開幕とそれに伴ってブームが巻き起こったのはもはやよく知られた事だと思うけど、日本サッカー協会公認'93日本代表オフィシャル応援歌としてこの曲が採用されたんだ。だからサッカーと言えばこの曲って人も多いはず。なおTHE WAVESなるスタジオミュージシャンらによるユニットが歌ったバージョンのほうが一般的には知られてると思う。でもこれは競作だからね。『世界の国からこんにちは』とか『虹と雪のバラード』と同じ枠。曲自体はどうこうってもんじゃないけど、元々は外国の曲だっただけに歌詞は全部外国語だよ」
「ああ、これねえ。確かに私でも知ってるわ。でも誰が歌ったとか意識した事なかったわ。そして三枚目のシングルは『HAPPY ROAD』。作詞MOTOMY、作曲金田一郎、編曲米光亮」
「これは大した曲でもないよ。割とファンキーな曲調で、一人称おいらなのも他にない個性ではあるけど肝心のメロディーがいまいちだからね。SAY・S単独のシングルは以上の三つで終わったけど光GENJIのシングルのカップリングにもいくつかSAY・Sの曲はあるんだ」
「その最初が『クレヨンで描いたタイムマシン』。作詞高柳恋、作曲井上ヨシマサ、編曲ATOM」
「ハウスというこの頃からちょっと前ぐらいに流行したスタイルを導入した楽曲。とは言えATOM編曲だけに音色は独特のひねくれ方をしていて、そこを面白いと見るか気持ち悪いと見るか。歌詞は割と文字通りの意味で子供向け。未来はどうなってるかなって夢と、最後は身近なところに着地する予定調和な感じとかね。実際教育番組に使われた曲だから当然かもしれないけど。『時をこえたフェスティバル』『みつめていたい』『ドキドキSummer Days』と来てこれ。そもそもSAY・Sのコンセプトとしては光の二人や諸星がアダルトになった中で光GENJIの持ち味であった子供っぽいイメージを引き継いだグループ、みたいなのがあったらしいからその本義にかなった楽曲とは言えるかな」
「ついでに『Meet Me』のほうも紹介する? 作詞作曲タケカワユキヒデ、編曲佐藤準」
「そうだね。これは彼らが単独でデビューする前の一九九二年に発売されたものだけど、かなり勢いのある曲で、それは佐藤の編曲による部分が大きいかなと思うよ。なお佐藤がシングルを担当したのは『Little Birthday』以来であり、最後でもあるんだ。もちろんゴダイゴのボーカルでありその多くのヒット曲の作曲を手がけた事でも知られるタケカワのメロディーも良好。歌詞は今は別れてしまったしダメージも大きいけど、それが癒えた時にまた会おうってところなのかな。サビの歌詞はちょっとどうかなって思う。ジャケットの衣装は赤白黒で割と格好良い。諸星の髪型が凄いリーゼントなのは気になるけど、これは当時の舞台でそういう役をやってたかららしいんだ。他のメンバーのルックスはかなり盤石で、なかなか存在感のあるシングルだよ」
「そしてSAY・Sがカップリングを担当したもう一曲が『サヨナラと言えなくて』。作詞作曲大本友子、編曲新川博」
「これはちょっと歌謡曲っぽい雰囲気の曲で、なかなか気障なムードがあっていい曲だと思うよ。大本は女性シンガーソングライターだけど、自分の曲はもっとナチュラルな雰囲気だから結構気合入れて作ったんだろうね。それかアレンジのほうか。ただ割と大人びた雰囲気の曲なのでSAY・Sが結成された本来の目的は結構すぐないがしろにされてたのかなってのは多少気になったり」
「そしてこれの表題曲は『君とすばやくSLOWLY』。作詞原真弓、作曲大門一也、編曲水島康貴と大門一也」
「作曲と編曲の名前からも分かるように『SPEEDY AGE』と連動した雰囲気のダンスナンバー。ジャケットも同じ頃に撮影したのかな。朝焼けを背景にした雰囲気ある一枚だけど佐藤寛之の髪型がキモい。シングルらしい華やかさを加えるためと思しきブラスの音が加わってるものの、全体的には打ち込み基調のダンサブルなサウンドにアダルトな色恋沙汰を連想させる歌詞によって彩られていて、まさに『SPEEDY AGE』に入ってても不思議じゃない出来。そしてテレビ番組では彼らの代名詞でもあるローラースケートを使わないダンスパフォーマンスを披露した事でも知られているんだ。だからと言って今までのいかにもアイドルな楽曲より質が上ってわけじゃないのが面白いところだよね」
「例えば『Meet Me』と比べてもかなりクールで大人の雰囲気ね」
「これも発売は『曇りのち晴れ』の前で、SAY・Sにとってはある意味下積みみたいな時期と言えるかな。さて、リアルタイムだとCD音源として発売されたのはこれぐらいだけど、いや、本当は他の駒もあるけどそれは次回以降にしておくから今回は勘弁してね。とにかくリアルタイムにおいてはコンサートなどで発表されていたものの音源とならなかったオリジナル楽曲があって、それも今では聴けるんだ」
「蔵出しの楽曲ねえ。どういう形で公表されたの?」
「それがこのエンブリー、じゃなくて二〇〇二年に発売された『SAY・Sベスト』。ポニーキャニオンが出してた、かつてのアイドルの楽曲を十六曲入りのベストアルバムとして発売する一連のシリーズにおいてSAY・Sもアルバムが出る事になったんだ。でも全然楽曲が足りないからライブ音源などもフル活用してどうにか十六曲を集めた、相当無理のある企画だけどお陰で浮かばれた存在もあるからね」
「それが例えばこの『Love is Crazy』になるのね。作詞作曲船越敬司、編曲金山徹」
「船越と金山は光GENJIがコンサートする際のバックバンドのメンバーだったらしい。そしてこの曲は割とベースが主張してる金属的なトラックは大人びた雰囲気が濃厚に漂っていて、なかなかのものだよ。ちょっとラップ的な部分もあるし」
「これがアルバムの十曲目で、以降は『Kick The Earth』などカバー曲や謎の洋楽メドレーなどが入ってて、確かに苦しいわね」
「男闘呼組とか近藤真彦の楽曲も歌ってるね。まあジャニーズが先輩の楽曲を歌うのは恒例だからね」
「そしてようやくオリジナルっぽいのに。『眠れない夜』。作詞船敬司、MOTOMYってなってるけど普通に考えて船越よね。作曲編曲は金山徹」
「これはコンサートサイズだそうだけどフルサイズの音源はまだ眠ってるのかな。路線としてはやっぱりアダルトでスピーディーなダンスナンバー。また、全体的にラップが導入された楽曲でもあるんだ」
「ついでに最後の『NEVER GIVE UP』も。作詞作曲がW.CREMONINI、A.GILARDI、C.VAROLAという外国人で訳詞が船越こと船敬司、編曲金山徹」
「サビのメロディーがちょっと気持ち悪いのが印象的。この三曲に関しては編曲の金山のセンスなのかな、金属的なアレンジがかなり印象的。好きか嫌いかで言うと結構微妙なところだけどね。こう見るとSAY・S本来のコンセプトなんて最初からあってないようなものだったんだなあって感じはするね。総じて見ると大人びた曲のほうが多い感じだし」
「でもそれはある意味仕方ないわよね。本人達だって大人になるわけだし」
「確かにね。まあシングル曲は陽気なものばかりだけど。現在のアイドルグループでは当然となっているグループ内のグループという発想の先鞭をつけたとは言えるけど、もっと色々展開出来ただろうにこの程度で終わってしまったって言い方をせざるを得ないかな。活動期間が短かったのもあるけど。ここまで一九九三年までに発売されたアルバムを見てきたけど、一九九四年になるとねえ、根幹が揺らいでくるからねえ。ああ、でもその前にもうちょっと語っておくべきネタがあるなあ。これも基本は一九九三年に始まって、今もなお寿命を保っているコンテンツなんだけど……」
このような事を語っていると敵襲を告げる光が二人の目に飛び込んできた。グラゲの悪意に季節は関係ない。分かっていた事だが、平穏はまだ遠い。北風にも負けない闘志の炎を燃やして、二人は変身した。
「ふはははは、私はグラゲ軍攻撃部隊のゴマフアザラシ女だ! グラゲの正義を証明するのだ」
銀色にくすむ冬の海を見下ろす小高い丘に現れたのは白い体に不規則な黒い斑点を持つ、ボテッとした何かであった。しかしその凶暴さは言うまでもなく、放っておく訳にはいかない。
「出たなグラゲ軍! お前たちの好きにはさせないぞ!」
「そりゃあ寒くなってきたけどね、私達にとっては大事な地球なんだからあなた達には渡せないわ」
「寒い? むしろ温暖だろうに。まあそんな事はどうでもいい。雑兵ども、奴らを殺せ!」
オホーツクの海に暮らす種族はさすがに違う。しかし雑兵はいつも通りだったので渡海雄と悠宇は次々と撃破して、残ったのは三人だけになった。
「後はお前だけだなゴマフアザラシ女!」
「そろそろ私達も仲良くしたっていいでしょう。こういう日はさっさと部屋の中でぬくぬくしたほうがいいわ、一緒に」
「ふん。戦士にとって安泰とは戦いが終わった時にしか訪れん。そしてこの戦いもまだ終わっていないのだ!」
ゴマフアザラシ女は懐に隠し持っていたスイッチを押すと巨大化した。こうなったら戦いを終わらせるために戦うしかない。渡海雄と悠宇も合体してそれに対抗した。
「メガロボット!!」
「メガロボット!!」
相手はスピードこそないものの、それが逆に盤石感あふれる戦闘スタイルとなっており悠宇を困らせた。あまり隙がないのだ。また、格闘を仕掛けてもあまり決定打を与えられていないような。
「ふうむ、なかなかに分厚い装甲ね。かくなる上は必殺技しかないわね、とみお君」
「そうだね。ならばメルティングフィストで仕掛けてみる!」
渡海雄が朱色のボタンを押したのを確認してから、悠宇は改めて格闘戦を仕掛けた。プラズマ超高熱線で暖められた拳がゴマフアザラシロボットの装甲を溶かしながら打ち貫いた。
「むむむ、何というパワーだ。この私を破るとは。残念だが退くしかあるまい」
ゴマフアザラシロボットが爆散する寸前に作動した脱出装置でゴマフアザラシ女は宇宙へと帰っていった。時は冬。木々は裸になったが人々は逆に重ね着する季節となった。そして新たなる時代への秒読みも始まった。それにしても今年はもう三十日しかなくなっているとは。
今回のまとめ
・急に寒くなりすぎ
・SAY・Sの楽曲は格好良さと明るさの塩梅が微妙かも
・その中では「STARDUSTに乗って」か「サヨナラと言えなくて」が好み
・SAY'Sって表記もあってどっちが正しいのか不明だけど本文ではSAY・Sに統一




