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第一章1  「何も」

玉座の間には二人しかいなかった。王と、そして1つの物語を終わらせた勇者。


「——よくやった、勇者よ」


王は、跪く勇者に向け厳かな声をかけた。


「魔王は討たれ、世界は救われた。これよりそなたには望むだけの褒美を与えよう」


その声は、確かな威厳に——隠しきれない警戒を混じらせる。

王は知っていた。目の前の男を止められる者は、もうこの国にはいない。


——もし、この場で剣を抜かれたら。


自分は、死ぬ。


だからこそ、王は勇者の望みを聞く声が震えた自覚はしつつも恐怖が目に出ぬよう押し殺した。


しかし、勇者は跪いたまま、顔を上げない。


「して、何を望む」


もう一度、額に汗を浮かべながら問う。


短い沈黙の後に勇者は、静かに答えた。


「何も」


「……何?」


「私の役目は、終わりましたので」


玉座の間の空気が、わずかに淀み、軋む。

王は目を細める。


「それは、どういう意味だ」


勇者はゆっくりと顔を上げた。


——その目は、戦場から帰ってきた者の目ではなかった。


まるで、すでに“向こう側”にいる者のようだった。

その瞳には、謀反の色も、強欲の色も否、生気そのものすら感じられなかった。


「このような力を持つ個人は、いずれ禍根となりましょう」

「故に、名も、素性も、栄光も——ここに捨て置き、俗世より去ることに致します」


「……」


王は沈黙した。

目の前の男が何を言っているのか、理解できていないわけではない。

だが——理解したくなかった。


「……逃げるのか」


「違います」


勇者は、即座に否定した。


「終わったのです」


その声には、何の熱もなかった。

戦い抜いた英雄の声ではない。

ただの、空虚な音だった。


「もとより決めていたこと。私の跡を追いたくば、どうぞーーー。」

「ですが——害を成すならば、切り捨てる」


王の言葉に、勇者はわずかに目を細めた。


「いえ」


わずかに自嘲を感じる笑みを口の端に浮かべて勇者は続けるーー。


「その必要はありません」

「このような熱を失った者——放っておけば、いずれ飢え死にます」

「ですので、どうか」

「身勝手ではありますが——自由を」


勇者は静かに頭を下げる。


長い沈黙の後、王は手を振った。


「……去れ」


恐怖を隠すのに必死な王に返せた言葉は一言だけだった。


かくして、勇者は国を去った。

名も、栄光も、すべてを捨てて。

その後の行方を知る者は、いない。


今頃はどこかで、野垂れ死んでいることだろう。



「……さて」


人気のない山道で、勇者は空を見上げる。


「一度は死んだこの身」


風が、静かに吹き抜ける。


「友の元へ行くべく——死地でも探すとしましょうか」


その言葉だけが、わずかに熱を帯びていた。


その言葉に、応える者はいない。

ただ一人、男は歩き出す。


——だが、その先で。


彼は、“復讐者”と出会うことになる。

初投降です。ご拝読頂きましてありがとうございます。


誤字脱字や世界観考証など乱れがあるかもしれませんがご容赦頂けますと幸いです。


エタらないよう努めますので応援頂けますと励みになります。

よろしくお願いいたします。

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