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♠ 67Days X時X分、山道
アンナと二宮、二人の少女と離れ離れになった僕は、彼女たちが向かった先とは正反対、田舎町へと通ずる山道に足を踏み入れることになった。それが今の馬南――というワケではない。
数日前に起きた、飯塚の暴走も今となっては懐かしく思える。どうしてあんなことになったのか……考えても仕方ない。一度脳内をリフレッシュするために、道の途中に敷かれていた、小さな橋の付近で休むことにした。
死者からかっさらったバッグの中には、コンビニから盗んだスポーツドリンクが入れられている。こうして、もぬけの殻となった店から、『救援物資』としてモノを頂戴するのは当たり前になった。やっていることは……災害に乗じて家から金を拝借る、盗人と変わらない。
ぐびぐびと500mlペットボトルの中身を飲み乾すと、自然豊かで空気の涼しい山の中に転がるビニール袋を見つけて、そこに投げつける。ポン、と拍子抜けな音がして、ボトルは斜面を転がり落ちて行った。
「アンナさん……。それに二宮。一体、どこにいるんだ」
だが、それが良くなかった。バウンドしたペットボトルは、近場にいた感染者たちに気配を察知させることになる――。
「が……う……」
土まみれの死者は、ゆっくりと振り返った。まるで、神様がたった今その場に生命を誕生させたかのようだ。
感染者の存在に今まで気づかなかった僕は、慌てて腰を上げた。腰に携えていた日曜大工用の電動ドライバーに手を掛け、スイッチを入れる。
ぎゅいいいいいいいんんん。活気のいい回転音が木々に反響し、山全体に行き届いているようだ。僕は駆けて、数日前の女子高生を刺したときの感覚を思い出す……。肉に突き刺さったときは、まるで鶏肉に包丁を入れるかのようにすんなりとしていた。ニンゲンは固い甲羅に覆われているワケじゃない。だから――
「くそ! くそ、くそ、くそ!!」
元は女性だろうか? 生前の土が付いていない姿なら、美人だったのだろう。今や、目の端から口元までが裂け、中身がでろりと飛び出していた。
音に気付いた感染者は腕を前に突き出し、何もない宙を手のひらで切った。
「死ね!」
僕は生まれて初めて、悪戯や皮肉の込められていない死の宣告をした。
回転するプラスドライバーは女性の額に突き刺さって、固い頭蓋骨と腐りかけた脳ミソをミキサーにかける。真っ黒に変色した血が僕の顔や、真っ白なYシャツに掛かる。ツンと鼻を刺す香りがすると、僕は女性の腹を蹴り、ドライバーを引き抜いた。力なく、斜面を転がり落ちる死者。
「ハァ、ハァ……くぅ、そ」
伐り残された株の根元にまで転がると、観念したかのように自身の胸の上に腕が移動し、許しを乞うているような姿になる。僕は唾を吐き捨てると、
「よう。いい手際だったぜ」
信也――。その時は、彼の名前を知らなかった。僕の真後ろに立っていたその人は、狩猟用ライフルを肩に預け、少年のような笑みを浮かべながら近づいて来た。
目の前に立つ信也の第一印象は、『金髪ピアスの、チャラ男』。
僕は山のてっぺんにある、五人の高校生が住む小屋で世話になる。それが、猪狩信也とのファーストコンタクトであり……忘れもしない、命の恩人との出会いでもあったのだ。




