表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よい子はおうちに還りましょう。  作者: 刻生アト
第一章 夏休み編
PR
4/4

4. お出迎え

【2025/8/17】

午後五時頃。今日はかぐやちゃんが家にやって来る予定の日。両親はかぐやちゃんを迎え入れる為に色々と手続きをしてくれているみたいで、朝からアタシ一人でお留守番。昼には佐奈が来て二人でいつも通り過ごしていたが、かぐやちゃんが来ることが楽しみで落ち着かなかった。佐奈との会話も半分以上はかぐやちゃんのことで、正直少ししつこかったかなと反省。それでも佐奈はそんな素振りは一切見せず、アタシの話を丁寧に聞いてくれていた。やっぱり優しい。

ピンポーン、とインターホンがなる。インターホンのカメラ越しにお母さん達であることを確認すると、軽やかなステップで玄関へ向かう。やっとかぐやちゃんが来た!

──────しかし、これは遊びではないのだ。かぐやちゃんを安全に保護するための重大なミッションなのだ!それを念頭に置いて、アタシがイメージする良いお姉さんをインプットし、少し背筋を伸ばして玄関の鍵を開ける。そこにはアタシの両親と、明らかに元気がないかぐやちゃんの姿があった。

「おかえりー。そしていらっしゃい!かぐや、ちゃん…?」

つい出てしまったアタシの喜びの部分も、かぐやちゃんの様子を見ると自然と収まってしまった。服こそこの前の汚れた着物から年相応の清潔感のあるものへなっているものの、顔色もあまりよくないように見える。

「かぐやちゃん、なんか元気ない?大丈夫?」

「この数日間まともに食事を取っていないんだから無理もないわ。少し早いけれど、先に夜ご飯にしましょう」

そういってお母さんはかぐやちゃんをリビングへと案内する。そういえば、この前のお母さんの話でかぐやちゃんは食事をまともに取っていないということを思い出した。自分の楽しいことばかり考えていたけど、かぐやちゃんはずっと一人で不安だったに違いない。かぐやちゃんのこともしっかりと考えて、お世話をしなければ。アタシがお姉さんとして。


いつもより少し豪華な夕食が並んだテーブルにかぐやちゃんを座らせ、その隣にアタシが座る。今日はかぐやちゃんが食べやすいようにと、ご飯に味噌汁、肉じゃがや白身魚など消化に良いものがメインで並んでいる。

「かぐやちゃん、焦らなくていいからゆっくり食べるのよ」

お母さんがかぐやちゃんにそう言うと、かぐやちゃんは小さく頷く。みんなで手を合わせ、食事の挨拶をする。

「いただきます」

目の前の食事を食べ始める。隣のかぐやちゃんを見ると、遠慮しているのかアタシを見て手を止めている。

「どうしたの?遠慮しないで食べていいよ」

そう言うとかぐやちゃんは味噌汁へ手を伸ばす。少し口に含むと、暗かった顔が綻んだ。

「…美味しいです」

そう言って他のおかずにも手を付け始める。それを見たアタシと両親も、自然と笑顔がこぼれた。

かぐやちゃんはその小さな口で、ゆっくりと用意された料理を全て平らげた。少し量が多いのではと思っていたが、育ち盛りだからだろうか。満足そうなかぐやちゃんを見てアタシも心が満たされた。食事を終えてしばらくすると、眠そうに目をこすっている。まだ寝るには早い時間だが、先にかぐやちゃんとお風呂へ入ることにした。

かぐやちゃんを風呂椅子に座らせ、背中を流してあげる。それにしても、何て綺麗な肌をしているんだろうか。年相応の十分な肉付き、傷一つ無く透き通るように真っ白な肌。預けられる前は野宿をしていたというような話をかぐやちゃんがしていたが、とてもそうは思えなかった。もしかしたらそう思い込んでいただけで、前もこんな風にどこかの家で預かられていたのかもしれない。でも、かぐやちゃんと初めて会った時のボロボロの着物からは確かにそう思い込ませる程の貫禄、雰囲気があった。家に預けられたとしたなら、相当過酷な家庭環境だったに違いない。いやしかし、この身体は余りにも─────。

かぐやちゃんは風呂椅子を立ち上がり、アタシの方へ振り返る。

「かぐやも、おねえさまのお背中を流したいです!」

いや、アタシもこんな目をしていた時代があったのかな。

「…はは、じゃあお願いしようかな」


児童相談所から貰って来た服を着せ、アタシの部屋へ案内する。何も準備はしていなかったが、同じベッドでアタシと寝ても大丈夫かと聞くとかぐやちゃんはむしろ喜んでくれた。かぐやちゃんだけ寝かせるつもりだったが、アタシも段々と眠くなってきたためそのまま二人で一緒に寝ることにした。


《そうだ、そうだな。私/俺(われ)はそれだけど、それはそうじゃない。確かに、似てる。まあ、無理もない。でも、前提が違う。私/俺(われ)はそれから生まれたけど、元はと言えば私/俺(われ)が先。だからそれは、必然。けど違う?雰囲気。確かに、そう。けど後天的、仕方がないこと。あなたも、そう。だから私/俺(われ)はそうだけど、それはそうじゃない。あなた達が言うなら、それは性格。私/俺(われ)は何というべきか。そうだ、そうだね。これでも、少し違う。けれど、あえて言うなら、人格。もちろん違う。私/俺(われ)も、元は塊。それはおまえもだ。いうなれば結晶。もう戻れない。私/俺(われ)も、あなたも》


佐奈は大切な友達。いや、親友!アタシ的には一番の親友だと思ってるよ。だってオムツを外すより前からアタシ達は友達だったんだよ?アタシが外の世界に出て初めて出会った人。なんなら覚えてないけど、ベビーカーの時から交流があったらしいし!それってもう、ほとんど家族みたいなものじゃん!毎日遊んでた。家にも自由に出入りしてた。お父さんお母さんとも仲が良かった。佐奈のことはなんでも知ってるつもりだし、佐奈にはアタシのことをなんでも知ってほしいって思ってる。中学の頃の佐奈のことは知らないけど、そんなの関係ない。だって家族なんだもん!アタシのことで、アタシの両親が知らないことでも、佐奈は知ってる。これを親友と言わずしてなんという?学校にも友達はいるよ。まあまだ入学して四ヵ月とかしか経ってないけど、それでもこれから先、クラスでどんなに仲が良くなった子がいたとしても、佐奈との関係を超える事は無いと思ってるな。だって親友だし!────


 地下鉄。何の変哲もなく、階段を下りてきて左右を見ると線路が見える普通の地下鉄。いくつか自販機が置いてある。ラインナップは…まあ至って普通。麦茶、緑茶、コーヒー、ビール、タバコ…全部百円か。ちょっと安い気がする?いや、別に普通だね。

遠くで電車が通る音。ガー、カー、スー…とも言えるような音が線路から聞こえてくる。人が黄色い線の内側に行列を形成し、手元のスマホを見たり、友達と話し合ったり、本を読んだりしている人もいる。この暑さで紙の本?別に普通のことだけど、今の時代には少し珍しいと思ってしまう。これも時代の流れなのか、大人になってしまったのか。いや、この暑さで紙は読みにくいというか、扱いにくくない?地下というのもあるせいか、蒸し暑いムァっと全身に纏わりつく水蒸気を感じる。まあ八月真っ只中だし、これくらいの暑さは今更だ。

あ、電車がくる。ホームでは何のアナウンスも無いが、電車がくるという確信がある。そう思うと、線路の方から音が響いて聞こえる。電車が線路の上を走ってる音だ。

隣を見ると佐奈がいる。アタシと佐奈はこの人ごみの中、二人で並んでいる。可愛い服を身に纏い、今日一日遊ぶための荷物を入れたリュックをからう。中身は…弁当、シート、飲み物、お菓子、ビーチボール、水着、その他遊ぶためのボールやらなんやら。あと念のため、着替えも入れてる。遠出になっちゃうかも!今から2人で遊園地。楽しみだなぁ。

そういえば、電車が来ないな?目の前を電車が通る音は聞こえているのに、風が吹いていないどころか電車が見えない。あっ、やっとホームでアナウンスが。今から来るのか────ってあれ?他の人達みんな何処に行くんだ?後ろに歩いていってる?あ、そうか。反対側にも電車は来るからね。みんな反対側の電車に乗るんだ。にしても結構な人が乗るんだなぁ。そんなに乗るの?もしかしてアタシ達もあっちの電車が正解だったりする?いや、そんなはずはない。今日のためにいっぱい調べてきたんだから…って!ホームにアタシと佐奈だけしか残ってないじゃん!すごいなぁ。こんな偶然があるんだね、佐奈。大丈夫、間違っていないから。ほら、アタシたちが乗る電車が来たよ。安心して、今日はアタシがエスコートしてあげるから。アタシたちの電車にもこんなに人が居ないなんて、まるで貸し切りみたいだね────


【2025/8/18】

 午前九時。いつも通りの時間に目が覚める。何か夢を見ていたような気がする…そのせいか、まだ若干眠い。平日でもちょっと遅めの時間に起床が許されている夏休みの特権を実感しつつ、贅沢な二度寝をかまそうと寝返りをうつ。この瞬間が最高に気持ちいい…!けれどベッドの上に、いつも通りではない違和感がある。

「ぁれ、誰かいる────あっ!」

隣には、透き通った肌に何の変哲のない無地の寝巻きを(まと)い、かわいい寝息をたてて寝る少女が居る。ベッドの左側にアタシ、右側にかぐやちゃん、さらにその右側に壁、といった配置で、かぐやちゃんは壁側を向いて寝ている。思い出した、かぐやちゃんが遂に家に来たんだ!

っと、静かにしなければ。起こしてしまったらミッション失敗!これは絶対に遂行しなければならない。別に起こしたらまずいことなど何もないのだが、何となくこの幼気な少女の邪魔をしてはならない気がする。こんな至近距離で一緒のベッドで横になるなんて、アタシ捕まらないよね?

初めて会った時は突然の出来事のあまり、かぐやちゃんの顔をしっかりと見られなかったが、今見るととんでもないべっぴんさんである。昨日の夜も食事を共にし、アタシがお風呂に入れてあげた時に顔も身体もしっかり見たつもりだったのだが、かぐやちゃんの顔色や家に迎え入れる時のテンションのせいか、余裕を持って接せていなかった。昨日と今日では、かぐやちゃんがまるで違って見える。とてもじゃないが、初めて会った時にこの子と関わりたくないと一瞬でも思っていた自分が信じられない。

「んん…」

かぐやは寝返りをうち、千尋側へ顔を向ける。もごもごと口が動く。

咄嗟に口を手で塞いで動きを止める。かぐやちゃんが寝返りをうっている!起こしてしまった…?でもそのおかげか、見えていなかった顔の左側の部分が露わになり、顔全体が見える。はわぁ…なんて可愛らしい────あれ、この子、前にもどこかで…。

「おねえ…さま…」

「ん゛ん゛?!」

出してはいけない声を出してしまった気がする。咄嗟のことに片足がベッドからズレ落ちてしまい、ドンっと大きな音が響く。一瞬の静寂が訪れ、その数秒後、かぐやちゃんの目がゆっくりと開く。

「ん…」

「あ…ごめんねかぐやちゃん、起こしちゃった、かな?」

かぐやの目は千尋の輪郭を捉えると、ゆっくりと身体を起こして微笑んだ。

「おはようございます、おねえさま」

太陽の光がカーテンの隙間から入り、かぐやちゃんの左肩にかかっている布団を照らす。いつも使っている市販の布団だが、この時のアタシには光り輝く天の衣に見えた。

ここまで読んで頂きありがとうございます。


一旦現時点(2026/7/24)で書いてるところまで一気に投稿しました。ここからまた書き始めようと思います。ここからの流れは最後のエンディングまで頭の中で完成しているので、あとは書くだけです(書くだけではあるんですけどね…)。

感覚的には、10万字前後の作品になるのではないかなと思っています。目指すは年内完成です。気長にお付き合いしていただければ嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ