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第9章:束の間の休息と新しい風

「起きて! 起きてください、騎士様!」

エイドロンは顔に当たる日光にうめき声を漏らした。目を開ける間もなく、腹の上にズシンという重い衝撃が二つ、正確に振り下ろされた。

「ぶっ……!」エイドロンは息を詰まらせ、跳ねるように起き上がった。レオンの二人の娘たちが、彼の上に飛び乗って抑えきれない様子でクスクス笑っていた。

「お姉ちゃん、この人伝説の騎士様なんかじゃないよ」上の子がからかった。「見てよ! もう朝の8時なのに、まだいびきかいてるもん!」

「本当だ! もう一回ジャンプしちゃお!」

「この小さな怪獣どもめ……」エイドロンはいたずらっぽく唸った。「ただで済むと思うなよ!」

彼の体がブレるような速さで動いた。少女たちが悲鳴を上げる暇もなく、二人はエイドロンの両脇に抱え上げられていた。

「ずるい! 魔法の速さを使ったでしょ!」二人は声を揃えて叫んだ。

「戦いにおいて、卑怯なんて言葉はないんだよ」エイドロンは笑いながら、二人を地面に下ろした。

「おいおい! 出発する前に家を壊さないでくれよ!」

廊下からレオンの声が響いた。その顔には大きな笑みが浮かんでいる。

「エイドロン、準備しろ。王女様が外でお待ちだ。そろそろ忍耐の限界らしいぞ」

「あの厄介者が……」エイドロンは頭を掻きながら呟いた。「本当に手のかかる奴だ」

「聞こえてるわよ、このバカエディ! ぶっ殺してやるんだから!!」

玄関の外からセラフィナの怒声が轟いた。

新しい装い

エイドロンが外へ踏み出すと、彼はその場で硬直した。セラフィナの隣に立っていたエミリアが、あのボロボロの村人の服を脱ぎ捨てていたからだ。彼女が身に纏っていたのは、エイドロンの前世のファッションに驚くほどよく似た、洗練されたスタイリッシュな衣装だった。

「どう? 『ホテル・レオン』での一晩は楽しめたかしら?」

セラフィナが腕を組みながら尋ねた。

「ああ」エイドロンはまだエミリアを凝視したまま答えた。「ついでに言うと、レオンさんの奥さんはあんたより料理が上手いな」

「ふんっ! 言っておくけど、私は昨日の夜エミリアのために絶品のケーキを作ったんだから!」

セラフィナは友人を得意げに指し示した。

「どう、似合ってるでしょ? この服はこの王国でも一番珍しいスタイルなんだから」

(これ、向こうの世界の高級ストリートウェアじゃないか)

「……ああ、かなりいいと思う」エイドロンは正直に漏らした。

「えっ? 本当に?」セラフィナの瞳が輝いた。「レオン! 今すぐ王室御用達の仕立屋に命じて、これと同じものをあと10セット作らせなさい!」

「……御意、姫様」レオンが冷や汗を流しながら呟いた。

「何でお前、急にそんなに服に執着し始めたんだ?」エイドロンが尋ねる。

「あんたには関係ないでしょ! ほら、行くわよ」

セラフィナはエイドロンの左腕を掴んだ。

「もうすぐエルフの王国へ出発しちゃうんだから、今日は一日遊び倒すわよ。これは王命です!」

エミリアも負けてはいなかった。彼女はエイドロンの右腕を抱え込み、彼の肩に頭を預けた。

「行きましょう、エディ!」

エイドロンは柱に寄りかかって腹を抱えて笑っているレオンを見た。

(レオンさん、助けてください)エイドロンが口パクで訴える。

レオンはただ手を振った。「楽しんでこい、エディ! スタミナ作りの訓練だと思えばいいさ!」

冒険者ギルド

一行は帝都の中央バザールへと向かった。活気に溢れる街並みだったが、エミリアは新しい衣装の襟元に顔を半分隠していた。

「エミリア、何を隠してるんだ?」エイドロンが尋ねる。

「私……あんまり、人と関わるの得意じゃないから」

彼女は囁いたが、その瞳は鋭く群衆をスキャンし続けていた。

彼らは重厚で騒がしい建物の前で足を止めた。『冒険者ギルド』の看板が掲げられている。

「ちょっと覗いてみるか」

中に入ると、エールと鋼鉄の匂いが漂っていた。高ランクのS級やA級冒険者たちがアイアンウッドのテーブルに陣取っている。傷だらけの巨漢もいれば、闇のようなマントを纏った魔術師もいた。

「いいな」エイドロンは独り言を漏らした。「戻ってきたら、どこかのギルドに入るのも悪くない」

その時、筋骨隆々の大男が立ち上がり、彼らの行く手を阻んだ。男の目はエミリアに釘付けになっている。

「おいおい、そこのべっぴんさん。そんなガキどもとつるんでないで、本物の男と遊ばないか?」

エミリアの表情が氷のように冷え切った。「黙れ、この青二才が」

男の顔が怒りで紫色に染まった。「青二才だと!? 俺はSランク冒険者だぞ! その言葉、後悔させてやる!」

男は背負っていた巨大なクレイモアを引き抜き、彼女に向かって振り下ろした。

――ガキンッ!!

室内が静まり返った。エイドロンは足を一歩も動かしていなかった。彼はその巨大で重い刃を、親指と人差し指だけで受け止めていた。

「な……馬鹿な……」巨漢は剣を動かそうと必死に力を込めたが、微塵も動かなかった。

「よく覚えておけ」

エイドロンの紫色の瞳が、不気味で危険な光を放った。

「女の子には敬意を払え。だが、彼女らに支配されるな」

セラフィナは前半の言葉に顔を赤らめ、後半の言葉を聞いてエイドロンの足を思い切り踏みつけた。

「このバカエディ!」

冒険者はようやく、セラフィナのマントにある王家の紋章に気づいた。「ひっ、せ、セラフィナ王女殿下!?」

「よくも私の友人エミリアにそんな口を利いたわね!」セラフィナが吠えた。「地下牢に放り込まれる前に、さっさと消えなさい!」

男は脱兎のごとく逃げ出した。

「騎士が来ているのか?」周囲の冒険者たちが距離を置き、囁き合う。

整えられた山羊髭と洗練されたマントを纏った男が歩み寄ってきた。

「確かに騎士のようだ。私はジュリアン、このギルドのマスターだ。君がエイドロン・カゲか。あの村でSランクの魔物を倒したという……」

「ああ。よろしく、ジュリアン」

「エルフの王国へ向かうと聞いた」ジュリアンが言った。「安全のために適切な人員が必要だろう」

「レオンさんと俺で十分だ」とエイドロン。

「私もいるわ!」エミリアが胸を張って付け加えた。

「もっといい提案がある」ジュリアンは奥に向かって合図を送った。

「紹介しよう。王国最高の錬金術師、ユーリだ。奴の特製馬車と物資があれば、移動速度は2倍になる」

逆立った髪にゴーグルをかけた青年が飛び出してきた。

「俺の名前はユーリ! 現役最強の錬金術師だ。これを見てろ!」

彼が指を鳴らすと、手のひらの上で小さな炎が踊った。「杖もなしにエレメントを具現化できるのは、錬金術の達人だけだぜ!」

エイドロンは眉をひそめた。「それだけか?」

彼が一瞬だけマナを集中させると、手のひらに闇のエネルギーを孕んだ轟々たる火炎の球が具現化した。

ユーリの顎が外れんばかりに落ちた。「なっ!? 魔法陣すら使わずに、どうやって!?」

「ただエネルギーを想像して、形にしただけだ」エイドロンは炎を消しながら言った。

「こいつ、化け物か……」ユーリは戦慄した。

冷たい贅沢

ギルドを後にした一行は、珍しい食べ物を売る屋台の前で足を止めた。

「アイスクリーム?」エイドロンの目が丸くなった。「この世界にもあるのか」

「『アイスクリーム』って何?」エミリアが首を傾げる。

「牛乳で作った凍ったデザートよ」セラフィナが説明した。「私はストロベリーにするわ!」

「俺はチョコレートがいい」

「チョコレートって何?」セラフィナが聞き返した。「ここにはバニラとストロベリーしかないわよ」

「……チッ。じゃあバニラでいい」

彼らはベンチに座り、冷たいデザートを口にした。「美味しいわね」セラフィナが微笑む。「レオンさんの奥さんにレシピを教えてもらわなきゃ」

エミリアが一口舐めると、その目が飛び出しそうなほど大きく見開かれた。

「……っ!? これ、美味しい、すごく美味しい!!」

彼女はあまりの勢いでコーンを舐め始めた。その熱烈な様子に、エイドロンは顔が熱くなるのを感じた。

「お前……。それは食べるものであって、貪るものじゃないだろ」

エイドロンは顔を赤らめて視線を逸らし、ぼやいた。

「あんた! そんな目で彼女を見ないでよ!」セラフィナが顔を赤くして怒鳴った。「目を閉じなさい、このエッチエディ!」

「クソッ、分かったよ! 耳元で叫ぶな!」

エイドロンは目を閉じながら、不思議な安らぎを感じていた。だが、頭の片隅では理解していた。明日、本当の戦いが始まることを。

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