第7章:皇帝の新たな側近
背後で王都の巨大な城門が重々しく閉まり、漆黒の荒野が遮断された。セラフィナは馬車から飛び降りると、おずおずとした様子のエミリアの手を引いた。
「遠慮しないで、エミリア! 今日からここがあなたの家よ」
セラフィナが弾んだ声で言った。
「……うん」
エミリアは小さな荷物袋をぎゅっと握りしめながら、消え入りそうな声で呟いた。
エイドロンの耳には、二人の会話はほとんど入っていなかった。彼の脳裏には、村の結界の外側で見た、あの不気味に光る赤い瞳の残像が焼き付いていた。彼は胸に手を当てた。空っぽになったマナの器は、今もゆっくりとしか回復していない。万全の強さには程遠い状態だった。
「さて、俺は家に帰るとするよ」
レオン卿が旅用のマントを固く締めながら言った。彼は温かい笑みを浮かべる。
「妻と娘たちの顔を見に行かないとな。エイドロン、お嬢さん方を安全にお城まで送り届けてくれ」
「了解です、レオンさん。ゆっくり休んでください」
レオンは手を振ると、横道へと消えていった。
「それで、私たちはこれから真っ直ぐお城へ行くの?」
エミリアが尋ねた。そのピンク色の瞳は、異様なほどの鋭さでそびえ立つ石壁をスキャンしていた。
「ええ! 早く中を案内したくてたまらないわ」セラフィナが満面の笑みを浮かべる。
「そしてようやく、俺も休めるな」
エイドロンは凝り固まった肩を伸ばしながらうめいた。
「明日は一日中寝て過ごす予定だ」
「そうはいかないぞ、エイドロン」
不意に、大通りの松明の光の中から見覚えのある人物が歩み出てきて、エイドロンは瞬きをした。銀の鎧を輝かせた騎士、ケンタだった。
「無事で何よりだ」ケンタはエイドロンの肩に重い手をポンと置いた。「それで、報告によると『暴食』に遭遇したそうだな?」
「ああ」エイドロンが答える。「あいつに引き裂かれそうになったんですが、もう一人の幹部――『色欲』がそれを止めたんです」
ケンタの眉が深くひそめられた。
「『色欲』だと? そんなはずはない。数年前、この私が直々に色欲の魔王幹部を仕留めたはずだ」
エイドロンは固まった。「本当に? でも俺は確かに見たんです。ピンクの髪をした女で――」
「おそらく」
ケンタが言葉を遮った。彼の声のトーンが、低くシリアスなものへと落ちる。
「先代の『色欲』は寄生型だったのだろう。私が宿主を殺した時、悪魔のコアが逃げ延びて、別の少女の肉体に憑依したに違いない。となると、彼女は極めて危険な存在だぞ」
セラフィナは目に見えて不安そうな表情を浮かべたが、エミリアは完全に静止したまま、何の感情も読めない好奇心の仮面を顔に張り付かせていた。
「魔王軍の幹部を殺したことがあるなんて」エイドロンは小さく口笛を吹いた。「ケンタさん、あんた本当に化け物だな」
「はははっ! 奴らが化け物なら、私は奴らを狩る大化け物といったところだな」
ケンタは豪快に笑った。
「お父様はお元気、ケンタ?」セラフィナが尋ねた。
「皇帝陛下はお元気です。ですが最近、陛下は王国の新しい軍事戦略を提案させるために、外国の女を雇われました。今はその女とばかり過ごしておられます」
エイドロンの野生の勘が警報を鳴らした。
「なるほど。当ててみましょうか、そいつは怪しい女ですね?」
「極めてな」ケンタはため息をついた。「ひとまずは二人とも、その女には近づかないことを勧める。彼女の目的は全くの不明だ」
「お父様ったら、私に相談もなしにそんな怪しい人を雇うなんて!」
セラフィナがぷりぷりと怒る。
「落ち着いてください、姫様。ところで……そちらにいらっしゃるお嬢さんは?」
ケンタの視線がエミリアへと移った。
セラフィナは明るく微笑んだ。「私の新しい大親友よ!」
ケンタがエミリアを見た。最初はカジュアルな一瞥だったが、突然、彼の目がごく僅かに見開かれた。捕食者のような鋭い、強烈な視線が彼女にロックオンされる。一瞬だけ、二人の間の空気が濃密に張り詰めた。だが、ケンタはすぐにそれを打ち消し、丁寧な宮廷風の笑みを浮かべた。
「ああ、姫様のご友人にお会いできて光栄です」
ケンタの声は、突然よそよそしい、警戒を孕んだ敬語に変わっていた。
(何でケンタ、急にそんなに変な態度を取るのかしら……)
セラフィナは不審そうにケンタを見つめた。
「とにかく城の中に入りましょう。俺はもうクタクタです」エイドロンがぼやいた。
「ああ。案内してくれ」
玉座の間の魔女
ケンタは内城の結界のところで彼らと別れた。彼の現在の任務では、皇族の私的空間への立ち入りが禁じられているからだ。エイドロンは二人の少女を率いて、長く曲がりくねった廊下を進んだ。
(この城の中に、重苦しい、どす黒いエネルギーを感じるわ)
エミリアは壁に揺れる影に視線を走らせながら、心の中で呟いた。
「今日の城内は、いつもより暗く感じるわね」
セラフィナは軽く笑いながら言ったが、微かに身震いしていた。
彼らは謁見の間の巨大な両開きの扉を押し開けた。玉座には皇帝が座っていたが、彼は一人ではなかった。
「おかえり、エイドロン。そして私の可愛い人形」
皇帝は温かく微笑んだ後、彼らの背後に視線を向けた。
「そちらの若いお嬢さんはどなたかな?」
「私の大親友のエミリアよ! これから城で私と一緒に暮らすの」
セラフィナが発表した。
「ほう、それは面白い! どうやら私たち親子は二人とも、最近新しい友人ができたようだな」
「え?」セラフィナが首をかしげる。
皇帝は玉座の横に垂れ下がる重厚なカーテンを指し示した。「ミア、出ておいで」
影の中から、一人の女性が歩み出てきた。彼女は松明の光すら吸い込むような、露出度の高い漆黒のドレスを纏っていた。息を呑むほどの美女だったが、その瞳には冷徹で計算高い悪意が宿っていた。
「あらあら……ようやく小さな王女様のお帰りのようね」
ミアが甘く、喉を鳴らすような声で言った。彼女の視線がエイドロンへと滑り、その唇が嘲笑に歪む。
「騎士は奥宮への立ち入りは禁じられていると聞いていたけれど?」
「この人はここにいていいの。私の専属騎士なんだから」
セラフィナが庇うように言い返した。
「チッ」
ミアは明らかに不満そうに舌打ちをした。しかし次の瞬間、彼女の視線がエミリアへと移った。ゆっくりと、すべてを察したような笑みがミアの顔に広がり、その視線がエミリアのピンクの瞳を捉えて離さない。
「お父様、その方はどなた?」
セラフィナはエイドロンに一歩寄り添いながら尋ねた。
「こちらはミア女史だ」
皇帝が言った。だが、その瞳はどこか焦点が合っておらず、うつろに見えた。
「私の新しい最高顧問だ。彼女は……我が帝国をより良く治める方法を、実によく教えてくれているのだよ」
エイドロンは目を細め、ミアのボディーランゲージを観察した。
(操られてるな……)
彼は衝撃とともに警戒を強めた。皇帝のあのうつろな目……彼女は何らかの精神魔法を使っているに違いない。
彼の隣で、エミリアはミアの突き刺すような視線に心底怯えているかのように、身を守るようにエイドロンの肩の後ろへと少し身を隠した。




