8話 司祭の思い出
「というわけで護衛には私が付く」
簡素な鎧を身に付け胸を張る姫様。
ふむ、デカい。
「どういうわけでしょうか?」
突然の宣言に頭を痛めるクリスは目の前の姫君に困惑を交えた顔を浮かべる。
「言葉通りだ。私がクリス司祭の護衛に付く」
「あの〜姫様仕事は…」
「部下に任せてある」
「私のなんかよりやることが〜」
「部下に任せてある」
「……」
それは押し付けてると言うんです。
あれから、冒険者ギルドで話し合った後に自分の護衛に付いたエリシアを連れ協会に帰ったクリスは、マリベルに今日1日の出来事を報告をした。
報告はしたのだが、少々、いやかなり過激な内容に涙目となっていた。
「司祭様〜!大丈夫なんですか!?」
マリベルの心配は大きくクリスの身体中を触りまくるが、その際にマリベルの豊満な体が当てられ大変ドギマギしてしまう…ことはなく、何故か死んだ魚の目をしている。
「冒険者……小遣い……司祭はクソだ」
小声でボソボソと呟くクリスの声は誰にも届かない。
自信が狙われているのは関係なくお金を稼ごうと冒険者ギルドで治療していたのだが、今回の襲撃で暫くの間、冒険者ギルドに立ち寄らない方がいいことになってしまった。
冒険者の長、マスターからは次回こそは守り通すと言われたが、この言葉にエリシアは待ったを掛けた。
「クリス司祭を守るために動いてもらうのはありがたいが、はっきりと言おう」
“実力不足“だ。
エリシアの発言は間違いではなく、今回の襲撃では数多くの冒険者がいたにも関わらず、容易に1人の襲撃者を許してしまった。
大国であるヴァーミリオン王国の冒険者ギルド本部がだ。
これにはマスターも言い返せずに黙ってしまう。
だが、だ。
言い訳がましいが、今回の襲撃を許してしまったのは冒険者ギルドの質が低いわけでもなく、ましてや襲撃者であるアルスが1人で冒険者ギルドを潰せる程、強かったわけでもない。
まぁ、後者の強さに関しては十分怪物級だが。
実は、今の冒険者ギルドには実力者の多くがいないのだ。
理由としては、前の戦争での防衛圏として数多くの冒険者を起用していたからだ。
決して長い戦争ではなかったが、その間の冒険者達を国に留めていた結果、冒険者ギルドでは依頼書が溜まりに溜まってしまったのだ。
結果、実力ある冒険者は依頼書を持ち様々な場所に向かってしまったのだ。
そんな理由で今の冒険者ギルドには、アルスに対抗できる強者が存在しない。
それを知った、エリシアは護衛役に自分を選んだのだ。
「姫様、お忙しい中本当にありがとうございます。姫様がいれば司祭様や私達も安心して過ごせます」
「なに気にするな、結局のところクリス司祭を狙う者の調査は1日で終わってしまったからな!」
ハッハッハ、豪快に笑うエリシア。
そんな振る舞いにも何故か品位を感じてしまうのは、王族ゆえかそれともエリシアだからか、なんにせよこれでクリスの元には最強の護衛が付いた。
「ではクリス司祭、私はここに泊まるからな一緒に寝ようではないか」
「えっ!?」
「司祭はク……ん???」
爆弾発言に驚くマリベルと思考が戻るクリス。
そんな2人を見て笑みを濃くするエリシアはまさに女王であった。
次の日の朝
自室からげっそりとした顔で起き上がるクリスは、日差しで照らされる外の風景を眺めていた。
「危なかった……」
冗談だと思われたエリシアの爆弾発言だが、あの後本当にクリスの自室まで押しかけて来たのだ。
阻止するクリスだが、非力な司祭ではまさに蟻と像、抵抗など無意味で自室まで入り込んだエリシアはそのままクリスに襲いかかり2人はそのまま───
「あれじゃあ、姫様が襲撃者じゃねぇか」
───体を重ね合わせた。
はずもなく。
マリベルが止めに入ってきてことなきをえた。
男女が2人はマズイのでなんとかマリベルの部屋にエリシアを連れて行ってもらったのだ。
エリシアの様な美女に迫られては大抵の男性達は理性を失い獣になるだろう。
クリスも男性である以上、少なからずそういうことに興味がないわけではないが、相手は一国の姫君なので手を出した瞬間、色々と終わるのだ。
コンコン
「起きた様だなクリス司祭」
部屋に入っきたのは襲撃者…間違えた護衛のエリシアだ。
簡素な鎧姿はどこえやら、今の服法はその辺にいる町娘の様な服装だ。
だが、その服装も大変似合っているため美人は得だな〜とどこか他人事に思ってしまう。
「早速で悪いが、城に行くぞ」
「…本当に急ですね」
冒険者ギルドの次に城に行くとは戦争が終わったのに何かと忙しないのは何故だろう?
この国にきて平和に過ごせたらなぁ〜って思ってただけなのに。
これじゃあなんのためにあの場所から抜け出したと思ってんだか。
「わかりますた。準備をしますのでお待ちください」
内心では溢れる愚痴を吐いていくものの、それを外に吐き出すわけにもいかずに胸に溜め込み、そのまま城に向かう準備を進めていく。
準備といっても司祭服に着替えるだけだが、それとは別に“ある物“を所持し終えたクリスは部屋を出るのだった。
───────────────────────
ヴァーミリオン王国の城は白を基準としたシンプルな作りだが、それでも見る者を驚かす程に大きい規模の城だった。
その城の中を歩くクリスもまた城の大きさに感嘆の息を吐く。
「何度か来たことがありますが、本当に立派で大きな城ですね。城の中も広々として、ここだけでも教会が何個か立てられそうですね」
「ヴァーミリオン王国が誇る城だ。そういってもらえて嬉しいが、クリス司祭が昔働いていた大聖堂もなかなかのものだったと思うぞ」
「確かにあそこも凄く広かったですね。大聖堂には長く勤めていましたけど、最後まで全ての場所を把握することはありませんでしたし」
聖者に最も近いと言われるだけあって、クリスは聖職者の総本山である『聖歌法王連邦』に勤めていた。
司祭、シスター、神父、様々な聖職者はこの『聖歌法王連邦』で神に仕えることを至上の喜びとして過ごすが、クリスはとある事情によりその場所から離れた、ヴァーミリオン王国に流れ着くことになった。
勿論、『聖歌法王連邦』がクリスを大聖堂から遠ざけるような真似をしないが様々なしがらみや事情などが複雑に絡み合いクリスを手放す形になった。
「あの頃のクリス司祭は色々な者に狙われていたな」
「それは今でも変わりませんけどね」
「フフッ、そうだな、その通りだ」
昔のクリスの事情を知るエリシアは懐かしみ、またクリスは苦味を噛み潰すした顔をしながら城を歩き続ける。
(大聖堂か〜懐かしいな)
大聖堂に居続ければ俺は間違いなく聖者になってたいたんだよな。
これは誇張でも大袈裟でもなく、ましてや自信過剰でもなく真実である。
クリスの実績・実力は大聖堂で誰もが認めており神に選ばれるのも時間の問題だった。
だがクリスは、今も小さな教会で司祭として人々を癒し続けた。
(まあ、聖者になるつもりはないんだけど)
聖者・聖女、クリスにとってこの象徴はとてつもなく重いものだった。
人々を癒すことは勿論、『聖歌法王連邦』の象徴として人々を導き、清く・正しい存在であり続ける。
(すげぇめんどくさい)
俺がそんな存在になれるわけねぇだろ。
いや、尊敬はするよ。
するけどさぁ〜、じゃあ俺も聖者になる!なんてなるはずないだろ。
無理だよ、無理。
今でも安月給で司祭やめようとしている俺に聖者になれなんて。
あいつらの1日知ってる?
はっきり言うぞ。
地獄だよ地獄!
あんなん人に課していい作業量じゃないよ。
神様は残酷だよなぁー。
というか教皇様もなんとかしろよな〜。
そんなんだから、聖女達があんなふうになるんだよ。
象徴だなんだ言われてるけど、俺からしたらただのヤバい集団だよ。
ほら、あいつら思い出しただけで体中から変な汗と鳥肌が。
あっ、ヤバい震えも止まらなくなってきた。
吐き気もしてきた。
「うん?どうしたクリス司祭、そんなに震えて」
「少し……同僚を思い出して…ブルブル」
「ふむ、同僚か。この件が解決したら一緒に大聖堂に行くか」
「いえ。結構です」
あんな所2度と帰りませんから。
大聖堂にいた頃のクリス
「司祭様、あなたにお礼がしたいのですか」
「私は対価が欲しくて貴方を治療したわけではありません。個人的なお礼は受け取れません」
「しかしそれでは私の気持ちが!!」
「どうしてもというのなら、大聖堂に寄付金を入れてください。勿論無理のない額でお願いしますね」
「司祭様…っ!」
(あー!!ふざけんなー!!!!大聖堂の前で個人的な金銭のやり取りなんてできるわけないだろーー!!人がいないところでお金をくれーーーー!!!!!!!)
高評価、感想お願いします。
励みになります




