7話 司祭と不穏
襲撃者アルスから無事に生き残ることができたクリスは今、冒険者ギルドから違う部屋を借りとある人物を待ち構えていた。
部屋に関しては最初、冒険者ギルドにこれ以上の迷惑をかけられないと借りるのを断ったのだが、冒険者ギルドのトップであるマスターから、
「いいや、守ると言ってお前を危険な目に合わせた。だが、今度こそは守り通すと誓う。だから遠慮なくこのギルドを使ってくれ!」
と言われてしまったのである。
この言葉にはクリスも大助かりで、遠慮なく他の部屋を使わせてもらっている。
そして、待ち人が来るまで変わらずに怪我人の治療に励んでいると、護衛の1人から知らせが届いた。
知らせを聞いたクリスは治療を終了させて出迎えの準備をする。
コンコン
「入るぞ」
凛々しい声と共に入ってきたのは、簡素な鎧を身につける赤髮の美女エリシアであった。
「姫様お待ちしていました」
「よい」
相手はこの大国の姫君であるため礼を尽くすクリスだが、それを煩わしそうにエリシアは手を振りやめさせる。
「クリス司祭と私の中だ。もっと気安く接していいんだぞ」
茶目っ気溢れる素振りで近づくエリシアに苦笑するクリスだが、何も彼女が姫君だから気安く接しないというわけではなく、基本的にクリスは育ての親である婆さんに地獄のしご………教育を受けて誰が相手であろうと基本的に丁寧に接しているのだ。
勿論心の中では色々とやかましいが。
「さて、早速だが話を聞かせてくれ。なんでも襲われたそうだが?」
対面になる様に座り込んだエリシアは、ここには急いできたため詳しい話を聞いておらず、当事者であるクリスの話を聞きたがっていた。
「はい、実は───」
それからクリスは先程起きた襲撃の話をした。
「なるほどな。浅黒い肌に白髪の髪、軍服姿か……はぁ、あの馬鹿め」
「知っているのですかエリシア様」
心当たりがありそうなエリシアは指を顎に添えながら何処か遠い目をしていた。
「その襲撃者の名は、アルス・ゴートン。かつてこの国で高位の地位に就いていた軍人だ」
「この国の軍人。…何故そのような方が私を?」
「理由は分からないな。なにせアルスは昔から何を考えてるか分からぬやつだったからな」
「…エリシア様はそのアルスとは関わりが?」
「ああなにせ、私の師…とまではいわぬが、そうだな……うむ、戦いの先生、だな」
「!!」
少し、いやかなり驚いた。
目の前にいる姫君は、戦場で《戦血姫》として恐れられる存在であり、戦場では常に敵の血に濡れる程切り倒しているのだ。
そんなエリシアに戦いを教えたとなると、アルスに対する警戒を更に引き上げなければならない。
「奴は突如軍を辞めてしまってな、消息も分からなかったが、何故今のタイミングでクリス司祭を…」
「テレーサ国にいたのではないでしょうか?それで、その国から依頼されて私の命を狙っていた、とかでしょうか」
「ない話ではないが、考えづらいな。元々アルスはこの国に忠誠を誓っていてな、国の発展のために尽力していた者だ。それが国を裏切りテレーサ国にいたのは考え辛い。それに聞くに、アルスが着ていた軍服はこの国の軍服だ。わざわざこの国の軍服を着ているのもおかしな話だ」
「そうですね。まるで自ら存在を教えているみたいですね。普通は顔を隠したりするはずです」
仮に襲撃に成功し、クリスの命を奪ったところで目撃者がいれば、次に自分が命を狙われるのに何故アルスは自分の正体を隠さない姿で現れたのか、考えても答えはでずに一旦この件は保留となった。
「さて、クリス司祭。今回の襲撃では、私が選んだ護衛はあまり役にたたなかったようだな」
「そんなことはありませんよ。護衛の方達は、精一杯私の命を守るために頑張っていただきましたよ」
「だが、クリス司祭の命を脅かしたのは事実だ」
「それは相手が悪かったとしか……」
「相手がアルスだったから仕方ない、では済まされない。護衛とは何が何でも護衛対象を守りきるのが役割だ。相手がどんなに強大であろうとな、よって今回護衛を担当していた者は、この後罰として暫くの間、訓練の量を倍にすると伝えておくつもりだ」
護衛の者達は、元々騎士団から選ばれた騎士達であり、エリシアの指揮の元訓練に励んでいる。
ヴァーミリオン王国を守る柱として、訓練の量、質は尋常ではなく、腕に覚えのある戦士が、体力に自信がある冒険者が、過酷な戦場を生き抜いた傭兵が、3日ともたずに逃げ出してしまう地獄なのだ。
その地獄の訓練の倍…果たして護衛に付いていた騎士達は無事に生きているだろうか?
「…程々にしてあげてください」
「優しいなクリス司祭。安心しろ、死なない範囲で訓練を施すつもりだ」
「…………そうですか」
護衛の者達の無事を滅多に祈らない神に向かい祈るクリスだった。
♢♢♢♢♢♢♢♢
── ??視点
とある地下にて、2人の人物は向かい合っていた。
1人は、先程クリスを狙い冒険者ギルドを襲撃をかけた筋骨隆々の巨漢、アルス・ゴードン。
もう1人は、袖の長いフードを顔が見えなくなるほど深く着込む謎の人物。
「司祭の殺害に失敗したようですね〜アルス殿」
しゃがれた声で不気味に笑うフードの人物。
声質からして高齢の男性を思わせるが、それにしては振る舞いや喋り方に若々しさが滲みでており、より一層の不気味さを表す。
「司祭、クリスといったな。奴は何者だ?」
「おや〜ご存知ありませんか。まぁ無理もございませんか。アルス殿はずっと身を隠していたわけですし〜。そうですね彼を一言で表すなら、“聖者“に最も近い司祭、といったところですかね」
「なに…聖者だと」
神に仕える司祭達にも階級は存在する。
教皇をトップに様々な階級、役職が存在するがその中でも教会の絶対的な象徴として挙げられるのが、“聖女“と“聖者“の2つだ。
この2つの象徴は数々の実績、実力を積み上げていきある時に信託にて神に選ばれた神聖な存在。
数多くの歴史書にも聖女と聖者の偉業が書き記されている。
・万物の病を癒やした者
・戦場にてただ1人の死者をださなかった者
・邪なる軍勢を一掃した者
・人類の破滅を救った者
などなど、挙げればきりがない偉業の数々。
そしてその歴史は決して誇張されたものではなく、真実であり、その内の1人に最も近いと言われるのがクリスだ。
「あの司祭が挙げた実績は数多く存在していましてね〜特に戦争での活躍は目を見張るものがありますよ」
ヒヒヒ、と独特な笑いをとるフードの男を無視しアルスはクリスに対しての思考を深める。
(あの回復速度、そして広範囲での治療レベルも高い。なるほど聖者に最も近いか…侮れないな)
この時この瞬間、奇しくもクリスとアルスの思考は一致する。
互いが互いの素性を理解して、最大限の警戒を表した。
「アルス殿、分かっていると思いますが、司祭の殺害よろしくお願いしますよ」
「ああ…だが、解せないな」
「何をですか?」
「何故司祭を狙う?」
眼光を鋭くして、フードの男を睨みつける。
向けられる視線の圧は、常人に耐えられるものではないのだが、フードの男は凡そ常人ではないようだ。
向けられる圧に対して顔は見えないが、恐らく笑っているであろうフードの男は、アルスに指を突きつける。
「余計な詮索はなしですよ〜。司祭、クリスの殺害は我が主の命なのです。アルス殿も目的のために私達に近付いたわけなのですから〜」
「……依頼は完遂させる。だからお前達も約束は守ってもらうぞ」
「ええ分かっていますとも〜。それでは私はこれで」
フードの男は地下に広がる黒闇に姿を消し、アルス1人がその場に残った。
「クリス、貴様に恨みはないが私の目的のために消えてもらう」
それは、謝罪なのか懺悔なのか、アルスにも分からない。
だが、アルスの瞳には悲しみの色を交えていた。
「待っていろエルリナ、アレイナ。もう少し、もう少しだ。この国に、あの男に復讐を───」
やがて、アルスの姿も暗闇に消え失せる。
いずれ本人は知ることになるだろう。
クリスを狙う闇はこの地下よりも深くそして暗いことを。
それを知った時、クリスは絶望するだろうかあるいは……………。
大聖堂にいた頃のクリス
「司祭様、あなたにお礼がしたいのですか」
「私は対価が欲しくて貴方を治療したわけではありません。個人的なお礼は受け取れません」
「しかしそれでは私の気持ちが!!」
「どうしてもというのなら、大聖堂に寄付金を入れてください。勿論無理のない額でお願いしますね」
「司祭様…っ!」
(あー!!ふざけんなー!!!!大聖堂の前で個人的な金銭のやり取りなんてできるわけないだろーー!!人がいないところでお金をくれーーーー!!!!!!!)
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