18輪目~蝋人形になった父
そんな毎日が数ヶ月続いた。
痛み止めの薬が強くなって
日に日にぐったりしていく父。
今日 突然、会話ができなくなった。
視線も合わない。
いつも通り
『また明日な。ばいびー。』
と言って病室を出たけれど
返事は返ってこなかった。
エレベーターを待つ間
私は病室に戻り
『ばいびー。』
と笑顔で覗いてみるけれど
…父は横になったまま返事はない。
別れが近いのかもしれない。
父の声はもう聞けないのだろうか。
…歌が大好きな父と入院する前に
一緒にカラオケに行ったことを思い出した。
母が小さな声で
『お父さんの次の歌、録音しとき』
と言ったので録音した。
芦屋雁之助さんの
"娘よ"
という歌だった。
初めて聴く歌。
携帯に残してある父の歌声を
『結婚式で流しな。』
と言った母。
あの時
母はわかっていたのかもしれない。
父と出かけるのも歌声も
最後になるかもしれないと。
家に着き
お風呂から上がり
しばらくして電話が鳴った。
母『病院いくで』
家族で病院に向かうと
意識がもうろうとしている父がいた。
目玉が左右に動いて止まらない。
…壊れたロボットのように。。
母も兄も
ショックを受けている様子だった。
私が手を握る。
母が手を握る。
兄が…手を握る。
『お父さんありがとう』
『ありがとう』
『しんどかったな。辛かったな。』
みんなで大泣きしながら
繰り返して呟く中で
父は大きく息を吸い
目を強く閉じて
"ふっー"
と息を吐き…一粒の涙を流した。
"ピッー"
…ばいびー…お父さん。
…一緒に家に帰り
その夜は父の側で
久しぶりに家族みんなで
朝まで過ごした。
どんどん冷たくなる父の体。
固くなって蝋人形みたいな皮膚になって
人形みたいになった。
どんな父でも
私たちにとっては大好きな父。
19輪目に続く。。




