17輪目~これが現実
手が浮腫んで
お箸もスプーンも使えないので
私が父の口に運ぶ。
父はいつも
『ミイちゃんはいっぱいの人を笑顔にできるで。大丈夫や。マイペースマイペース。』
と言ってくれた。
ミイ『ほなまた明日来るわな。ばいびー。』
父『ばいびー。』
そう言って毎日 別れる。
エレベーターが近い病室だったので
私はエレベーターを待つ間
父の病室に戻って
『ばいびー。』と小さく呟いて
何度も手を振りに戻った。
父も笑顔で手を振る。
夏の終わりの肌寒くなってきた
夜道を自転車で帰る。
日に日に弱っていく父を
見るのが嫌だったけれど
受け入れるしかない。
これが現実だ。
私は芸事で両親に楽させてあげたくて
でもまだまだ食べていける気配もなくて
親孝行も何もできていない。
結婚することも
孫の顔を見せてあげることも
何もできていない。
私は泣きながらゆっくりと自転車を進める。
ウエディングドレス姿を
写真だけでも見せてあげようと
母に相談したことがあった。
母『そんなん急に見せたら死ぬかもしれへんて思うんちゃう?』
そう言われて
…私の自己満足なのかもしれない
と思いやめた。
父自身、いっぱい食べて
早く元気になると信じていた。
しかし、昨日 食べられていた食事が
今日 食べられなくなる。
ある日からプリンしか
口にできなくなった。
"食べたら元気になれる"
と信じている父。
食べられなくなることが父にとって
どれだけ辛いことかと思うと
胸が苦しくなる。
食べることが大好きな父が
食べられなくなった。
こんな小さな1個のプリンも
全部食べられなくなった。
…覚悟しないといけないのだと思った。
『ばいびー。』
と言って帰る毎日。
泣きながら自転車を進める毎日。
家に着く手前で涙を拭いて
お風呂に直行して
お風呂で涙を洗い流してから出る。
泣いても仕方ないし
家の中が暗くなる。
18輪目に続く。。




