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ストラテジー~知略の勇者~  作者: 鷹飛 諒
第一章
10/31

〜初戦闘のゲーマー軍師〜

一週間ぶりです!

どうも鷹飛 諒でございます。

今回は少し長くなってしまいましたがまた生温かい目で読んでいただけたらと思います。

では!

木々が鬱蒼と生い茂り、森林の爽やかな香りが風に乗って漂う神秘的な空間を、オレは器用に馬を操りながら進んでいた。


 昼過ぎに王都を出発してからかれこれ半日は経っている。半日の半分を馬で距離を稼ぎ、そこから森の中で開けた場所を見つけたのち、野宿の準備をせっせとやっていた。オレはキャンプに慣れていないからか終始足を引っ張ってしまい、ミスを犯してはみんなに大声で笑われてしまった。くそっ、超恥ずかしい!


「いやぁ、なんかごめんな。いろいろ面倒ごとを増やしてしまったみたいで……」


 オレは内心ひどく恥ずかしかったけど、何も言わない方がかっこ悪く感じていたため素直に謝ることにした。


「いいってことよ。一緒に旅をするなら一蓮托生。支えながらやっていくってもんだ」


 がっはっは! とジートは豪快に笑い、オレの背中をバンバンと叩く。いやいや、痛い! 痛いって!

 オレは痛みに耐えながら、苦笑いを浮かべる。


「でも、馬の扱いはなかなかうまかったですよね。器用に木の間を通っていたじゃないですか」

 マルコが感心した様子で夕食の準備をしながらオレを見ていた。


 オレは少し恥ずかしくなってそっぽを向く。


「ハハハ、勇者様は褒められるのが慣れていないようだね」


 ワイリー愉快な様子で手を叩く。


 周りもそれにつられ愉快に笑い、和やかな雰囲気で時が流れていく。


 マルコが夕食を終えたところで皆にバケツリレーの要領で配っていく。それは持ってきたジャガイモのようなイモ類と根菜、そして先程元狩人のジート達の仲間が仕留めたウサギ肉の入ったとろみのあるスープだった。見た目は地味なスープだがどこか故郷の味、と感じさせるどことなく安心する庶民の香りがオレの鼻を突き抜け、食欲を増進させる。


 オレは木のスプーンを握りしめ、息を吹きかけ冷ましながらそのスープを口の中へとかきこんでいく。


「うめぇ……」


 オレは気づいたらそう言っていた。味のしみ込んだ野菜、とろみのあるスープを絡ませたウサギ肉の味の奥深さというものは何とも言えない衝撃があるものだ。オレは夢中でスープをかきこむ。


 周りも「く~沁みるぜぇ」とか「癒されるぅ」とか言って恍惚の表情を浮かべる奴らが大半だ。


『おかわりっ‼』


 オレが大声で言うと同時に他の奴らもその野太い声を惜しげもなく披露した。


 マルコは一瞬驚いた様子だったが、苦笑交じりに一番近い奴の器を受け取ると順番にスープを注いでは手渡していた。


「全く……しょうがないですねぇ」


 とマルコは呟いたが、その顔はどことなく嬉しそうだった。


「マルコは村ではそりゃ有名な料理人だったんですぜ勇者様」


 トンパがオレの隣にゆっくりと腰をおろし、スープをおいしそうに食べていた。


「料理人? この世界じゃ職業選択の自由があるのか?」


「え、当たり前のことですぜ? 勇者様の世界では自由がそこまでねぇんですかい?」


「いや、そういうわけじゃないんだ。気を悪くしたら謝る」


「まぁ、勘違いをするのは仕方ないと思いますぜ、なんせ王都のあの状態じゃ碌な仕事に就けないのは一目瞭然ですからねぇ」


 トンパはどこか遠くの方を見るような眼をし、しばらくするとまたスープを食していた。


 しかし驚いた。でも、全部で六〇人いる騎士たちの料理を手伝いはいたがこれほどスムーズに夕食を作ったところを見ると料理人だという事もうなずける。


オレはこういう世界では平民は農業などをしている生産者として農奴とか言って自由を奪われ強制的に働かせているのだと思っていた。まぁそういうのも世界の事情だと呑み込んで気にしないよう努めようと思ったのだが、それは杞憂だったようだ。


 でも、オレはそこで今の農業者はどういった立ち位置なのかふと気になった。


「なぁトンパ」


「ん? なんですかい?」


「農家って人気があるのか?」


 我ながらに馬鹿な質問だなぁ。農家の今の立場のようなものを聞きたかったのに人気を聞いてどうするんだよ。


「農家ですかい。そりゃ人気ですぜ。収穫量の幾分かを国に献上しなきゃいけねぇんですけど、不作の年はそれを鑑みて献上の量を減らしてもらえますし、一般家庭から農家になろうとしてもしっかり国に納めてくれるか、ちょろまかしたりしないかとか面接が必要ですけど、講習とかも受けられて比較的に目指しやすい職なんですぜ。年に一回は少ねぇですが褒賞なんかももらえますし災害とかで凶作になろうものならそこら辺の補償も整っているんですぜ。しかも、一度もらえた農地は一生の財産としてもらえて仕事を下の奴らにも受け継がせることもできますし下の奴らが万が一の時、仕事にあぶれることもないんですぜ」


「へぇ~よくできてんだな」


「うちの国王はやり手ですぜ」


 なるほど、なんとなく公務員みたいな立ち位置だな。「うちの国王は」って言うと他の所はそうでもないという事か。やっぱり覚悟だけはしておいた方がいいかもしれないな。


 トンパとも話しているうちにお腹もすっかり膨れて心地よい眠気が襲ってきた。


「皆、明日も早い。もう寝ようぜ」


 ジートが声を張り上げると皆もそれに賛成し眠る準備をする。夜間の見張りは五人で一つのグループを作り、交代で見張ることにした。ちなみにオレはジート、トンパ、ワイリー、マルコの四人と組み、一番最後に見張ることにした。人数が多かったのでその気になれば見張りをしないという選択もできたのだが、経験しとかなきゃなれるものもなれないと思ったので進んで見張ることにした。


「俺たちは最後だ。今はゆっくり休めよ」


 ジートに声をかけられオレは頷く。それを見て安心したのかジートは自分の寝床に戻っていった。

 オレは寝転がり、空を見つめる。空は満点の星、元いた日本じゃなかなか出会えない光景だ。そこに頬を撫でるような風が流れ、オレはゆっくりと目を閉じていった。


 二日目。



 オレ達はまた森の中を走っていた。地図によるとこの森の中では開けた場所が点在しているらしく、そこに向かいながら目的地を目指すことにした。

 

 昨日は少し馬の扱いには慣れたとはいえたびたび馬の背中に尻をぶつけてしまっていたため、しびれるほど痛かった。だが今日はしばらく走っているうちにまた慣れたのか、尻をぶつけるようなことは少なくなっていた。


「その様子だと、またうまくなったみたいだな」


「ああ、さすがに何時間も乗っていればいやでも慣れるさ」


 オレは少し眠くてあくびをする。ジートはそれを見て柔らかな笑顔でそれを見つめている。別に見張りが辛かったわけではない。何時間も馬に乗っていれば、少しは体力を使うし、神経も張らせていた。いろいろの疲れがたまった後のあくびなのだ。


「まぁ、もう少しすりゃ開けた場所に出る。それまでの我慢だな」


「ああ、頑張るよ」


 そう言いあうと先頭のオレ達は手綱をしっかりと握り、思い切り鞭打つように振って馬の速度を速めた。後続のみんなもそれに反応し、馬を走らせる。


 そうこうしているうちに前の方から光が射しこみ、開けた場所がすぐそこだと悟り、皆一斉に馬を更に速く走らせる。


 やっと体を休めることができる。皆そんな表情を浮かべていた。口に出さなかったとはいえ、長時間走っていたら無理もない。無意識のうちに体が前のめりになっていた。


 目の前に草原が広がっていた。辺りは木々に囲まれているが、ここだけぽっかり穴が開いたように背の低い草が広がっているだけだった。


 オレ達は草原の中央辺りで馬から降り、昼食の準備を行おうとするが、オレはふと異変に気が付いた。


「ちょっと待て……なんかおかしくないか?」


 これはただの勘だ。確証も何もない。だけどオレの危機察知能力がけたたましい警報を鳴らしていた。


「なんだ? そんな警戒心むき出しにして」


 ジートが腰を低くし、オレと同じ目線の高さになりながらオレに問いかけてきた。


「……静かすぎないか?」


 オレは気づくと額に脂汗みたいなものが浮かんでいた。辺りに耳を澄ませてみると風が吹く音とその風に揺れ、こすれる草の音しか聞こえない。動物が動く音も鳴き声も、小鳥のさえずりも聞こえない。


 ジートを含む皆も異変に気付いたのか各々武器を構え始める。槍、剣など皆が持つ武器は様々だ。


今回遠征についてきた六〇人の内、剣や槍を用いて戦う白兵部隊が四〇人、その他にも魔法を専門に扱い、攻撃、支援にあたり魔法部隊が二〇人いる。


俺も剣を素人なりにも構える。


「な、なぁ気のせいってこともあるんじゃねぇのか?」


 ジートは唾をごくりと飲み、頬に一筋の汗を流しながら言う。


「い、今更そんなこと言うなよ。こっちだって怖いんだよ」


 オレは少し声を震わせながら言う。


「…………」


 不気味な沈黙が続く。皆が気のせいかと武器をおろそうとした瞬間。


『ガアアアァァァァァァァアァァ‼』


 おぞましく恐怖を掻き立てる邪悪な声を上げながら小柄な緑の皮膚を持った化け物と灰色の狼が木の陰から飛び出してきた。


 ゴブリンとグレイウルフ。どちらも個体の強さはそれほどでもないが、群れを作る厄介な存在だ。


「くそっ! 何体だ⁉」


「分からねぇ! 囲まれてるぞ‼」


「う、うああぁぁぁぁぁ!」


 突然のゴブリンとグレイウルフの出現で混乱が生まれる。恐怖にかられた兵が一人、剣を振り上げながらゴブリンたちに飛び込んでいく。


「く、くそおおおぉぉぉぉ‼」


「うああぁぁぁぁぁぁ‼」


 それにつられてか、次々と怪物たちへと突っ込んでいく。


「お、おい! 飛び込むな!」


 オレはこの状況に危機感を感じた。このままでは兵が次々と倒れ、オレ達は崩壊する。


「どうするよこの状況、ちょっとやばいんじゃないか?」


「こ、このままじゃみんな死んじゃうよ!」


 ジートとワイリーがあたふたする。


 確かにこのままじゃまずい。今から兵を落ち着かせて集めても時間の無駄だ。その間に襲われてゲームオーバーだ。じゃあどうする? オレに何ができる?


 オレは頭を巡らせ、自分にできることを必死に探す。……ゲームオーバー? ゲーム……。


「……オレは世界最高の指揮官……」


 頭に浮かんだのは元の世界で唯一誇りにしていた小さくて、でも大きな肩書。


「何言ってんだ⁉ 変なこと言ってる場合じゃないだろ!」


 ジートが叫ぶ。この間にも先に飛びだした兵たちがゴブリンたちと交戦している。混乱した兵は目の前のことで精一杯で背後の事なんて気にしていない。そこからグレイウルフが忍び寄る。


「落ちつけぇぇ!」


 オレのでかい声にビクッと震わせる皆。


「騎士四人、魔法部隊二人、六人体制になれ‼」


 驚きのあまり襲われていることも忘れ、硬直してしまう皆。だが、ジートの「ぼさっとすんな‼」の一声で先程とは打って変わって迅速に行動し始める。ものの数十秒であんなに散らばっていた状況からグループを創り上げるとは平民上がりの急ごしらえの兵とは言ってもさすがは王国騎士だ。


 オレは頭の隅っこでそう考えながら、自分もジート達とゴブリン数匹を相手にしながら次の指示を出す。


「多数と相手しようなんて思うなよ! 協力して一体一体を分断させて各個撃破に努めろ!」


 よし、これで何とか持ち越せれば……なわけねぇだろ! 俺も行動しなきゃ。


「勇者様! 後ろだ!」


 ジートの声でオレは咄嗟に後ろを向くとゴブリンがオレに襲い掛かろうとしてきていた。


 咄嗟に身構えるがケンカもしたこともないオレには思うように自分の体を操れないらしく、身構えるだけでただ突っ立っているしかなかった。


 やられるっ‼


「ギャアアアアア!」


 突如、視界の横からワイリーが現れ、ゴブリンに体当たりをして吹き飛ばした。


 俺は無我夢中でゴブリンに迫り、倒れたゴブリンに持っていた剣を突き刺した。


「ギャアアァァァアアアァァ」


 ゴブリンは苦しそうにじたばたし、暴れることで突き刺した剣から硬いような柔らかいような気持ちの悪い感触がオレの手に伝わってきた。


 それでもオレは無我夢中で必死に剣を掴む自分の手に力を込めた。


 感触は次第に弱まっていき、やがてゴブリンが死んでいることが分かった。


「や……」


 やった、倒した! オレが倒し……いや、殺した。オレが、殺した。


 自分の中で敵を倒した達成感が心の奥底から湧き上がってきたその矢先にその気持ちを追い越すような勢いで殺した事実の感覚がオレの脳天を打ち抜いてきた。


 手にはあの感触が残っている。


 剣を引き抜いたあの誰かに剣の先を掴まれて引っ張られているようなちょっとした感覚も相まって猛烈な吐き気にオレは襲われていた。


「勇者様! 次が来るぞ!」


ジートに声をかけられ、オレはフッと我に返る。そうだ、今は戦闘の真っ最中。ここでやらなければこっちが死ぬ羽目になる。


 オレは吐き気を呑み込み、剣を構える。


 オレの組んだグループはオレを含めたジート、ワイリー、トンパの四人と魔法部隊の二人だ。


 目の前の敵は三匹。ゴブリン二匹にグレイウルフが一匹だ。


「魔法部隊二人! 一番後ろのグレイウルフを突っ込ませないように牽制しろ!」


 オレはすぐさま声を上げ、魔法部隊二人は持っていた杖を構え、呪文のようなものを唱えだした。


 杖に橙と赤が混じったような閃光が現れた瞬間、グレイウルフの足元目がけて野球ボール大の火球が飛んでいった。


「グオォォォォ!」


 グレイウルフは足元で爆散した火球に驚き、勢い余って前足が浮く。


「ジートォ‼」


「おうよぉ!」


 オレの声に反応して野太い声を上げながら、身の丈に匹敵するほどの大きな剣を横に振り回し、一瞬無防備になったグレイウルフの胴体を切り裂いた。


「グギャッ⁉」


 いつの間にか背後に回り込んだジートに気付き振り返るゴブリン二体。


「ワイリー! トンパ!」


『ハイッ‼』


 後ろに意識を向けさせることに成功し、一瞬体が固まったゴブリン二体の隙を見逃さず、ワイリーとトンパはほぼ同時にゴブリンたちの喉目がけ槍を突き刺した。


「ギャ……」


 抵抗の暇もなくゴブリンの体からは力が抜けて槍に突き刺さったまま宙にぶら下がっていた。


「休んでる暇ねぇぞ! 別の隊のサポートに行くぞ!」


 オレ達は喜ぶのもほどほどにしてすぐさま別の敵へと標的を変えて走り出した。





「魔法部隊左右に展開! 側面から攻撃! 騎士部隊は魔法の着弾と共に突撃!」


『おう!』


「そっちにゴブリンいったぞぉ!」


「ここは俺に任せろ!」


 ゴブリンとグレイウルフの群れに襲われてからどれくらい経っただろうか。時計というものがないから分からなかったが数時間は経ったような気がする。


 無我夢中で声を出し、戦い、立ち向かい、気づくと戦闘は終わっていた。


 しかし空を見上げると太陽の位置はほとんど変わっていないように見える。


「死傷者の数は……?」


 オレは呟くように、祈るように声を絞り出した。それでも肩が激しく上がったり下がったりしていてうまくしゃべれなかった気がする。


「皆、切り傷などがあったりもしたが……」


 ジートは感情が抑えきれないような震えた声で呟き、やがてニヤリと笑い、


「死者、〇だ」


 と言った。


『うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ‼』


 この日皆は、いやオレは人生で初めて嬉しさのあまり……叫んだ。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

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