~初任務と思惑~
どうも鷹飛 諒でございます!
今回も生温かい目で読んでやってください。
では!
大々的に催された城の開放も終わり、翌日からはまたいつもの日常に戻っていた。
訓練は相変わらずつらいが少しは慣れてきたとオレは思いながら、青い空を見上げ、訓練場を走る。
「どうしたんですかい、勇者様。浮かない顔してぇ、そんな顔ばっかりしていると余計訓練がきつく感じますぜ」
オレの隣で大柄の男がわざとらしい敬語を使い、がっはっはと豪快な笑い声を上げながら走っていた。
彼の名前はジート。元々は炭鉱で働いていたらしい。年は三〇だがそれよりも少し老けて見える。
そんなジートを少し鬱陶しく思ったが、こいつが元気なのはいつものことだと自分に言い聞かせて、走り続ける。
「いや、ただ単純に訓練面倒くさいなって思ってただけだ」
「いやいや、勇者なんですからそんなことも言わないでくだせぇ」
ジートが少し困ったように眉を額に寄せる。
まぁ、勇者がこんなこと言ってれば困るのも当然だろうな。無能だけど。
あれからオレは無能というレッテルを張られたせいで少しばかり周りの風当たりが強くなってしまった。
特に貴族上がりの騎士には下品な笑みと共に試合を申し込まれたりもした。まぁ、そういうことは涼音達が間に入ってくれて大樹が問答無用で受けてオレの代わりにぶっ飛ばしてくれたのだが。少しばかり自分が情けなく思ってしまうときは一度や二度だけじゃない。
涼音達はあれからというもの本格的な訓練に乗り出して、近くの森まで遠征し、魔物を倒すという戦争に向けた準備をしていた。言葉を介す魔物もいるらしく、そういった魔物を退治することで魔族との戦闘でも殺すことをためらわないようにするらしい。
あの四人はオレと違ってメキメキと上達して、今じゃ騎士団長であるアレクと戦っても大差で勝ってしまうほどぐらいに強くなってしまった。
オレの場合は魔力も体力も軒並み上昇してはいるが、一般兵と何ら変わりはない。そのせいか段々と肩身が狭くなってしまった。
無能なのに勇者という中途半端な立ち位置のせいで変に周りから気を使われ、オレの精神の体力ゲージは徐々にそがれていってしまう。
「まぁ、あまり気にしてもしょうがないか」
「そうですぜ、勇者様」
一通り走り終わった後、木の陰で休みながら呟いていると、ジートが汗を拭きながらこちらに歩いてきた。
「気にしてもしょうがない。あの四人は特別なんですぜ、きっと」
「そうそう」
「あの人たちより俺たちは和人様に親近感というものを感じますよ」
そう口々に言いながら、ジートの後ろをついてきた男たち。右から体のほっそりとした身軽そうなトンパ。体はがっしりとしているが物腰柔らかそうなワイリー。中肉中背で頭のよさそうなマルコがオレを慰めるように声をかけてきた。
その後ろにも何十人か分からんが訓練を終えた奴らがこちらに歩いてきた。
ここは樹齢一〇〇〇年は超える巨大な木のおかげで一〇〇人がこぞって来ても木の陰に入ることができるくらい大きい。皆、涼みに来たのだろう。この俺もその一人なのだが……。
「そういえばお前ら、いつも一緒につるんでるけど同じ出身かなんかか?」
オレは不意にジート達四人に目を向けながら聞いてみた。
「おうよ。俺たちを含め、ここにいる奴ら全員同じ村で育ってよ、村人同士の絆は金剛石よりかてぇぜ」
ジートは豪快に笑ってみせ、ほかの奴らもお互いの顔を見合わせ笑いあっている。
「ダイヤモンドより硬いとはすごいことだな」
「そうそう、団結力は俺たちの力だぜ!」
オレは少し呆れたように笑い、村のみんなは胸を張る。
しかし、金剛石か……さすがは炭鉱で働いていたジートらしい。聞くと村には大きな炭鉱があってそれが主
な収入源だったらしい。その他にも細々とではあるが農業なども収入源の一つだ。しかし、魔族に攻め込まれ村を含めた領土を奪われて以来、毎回支給される食糧とちょっとした力仕事で手に入れた食いぶちで日々を乗り切っている。……みんな苦労してるんだなぁなんか申し訳なく感じてしまう。
「なんか……ごめんな」
気づいたらそう口に出していた。
「はっはっは、気にすんな。勇者様達には魔族と戦って勝利してもらわにゃいけねぇからな」
ジートがオレの情けない声をかき消すかのように敬語がはがれた豪快な声で励まし、他の皆が大声を上げて笑った。
「ま、そこそこは頑張るつもりさ」
オレはそっけなく答える。無能なオレへの過度な期待がオレの胸を抉ってくる。力にはなりたいが、ここまでの進歩と言えば体力がマシになったのと魔力がピンポン玉から野球ボールになったぐらいだ。涼音達の成長速度と比べると一〇分の一ほどにも満たない速さらしい。……言いすぎじゃね?
ともかく、ジート達の期待の言葉とそのまなざしは正直言って嬉しいがそれに見合った功績を上げることができないのがとてもつらい。
オレがそんな負の感情にさいなまれているのを悟られないように皆との会話を楽しんでいると、小太りサザラールがこちらにあの嫌味ったらしい笑顔を向けながら、見せつけるかのように後ろに屈強な騎士を引きつれ歩いてきた。
「おやおや、これはこれは無能の勇者和人様ではないですか。いいんですか、こんなところで休んでいては……あなたは勇者なのですぞ」
「ああ、すみません。すぐ訓練に戻ります」
オレはサザラールの嫌味には反応せずおもむろに立ち上がり、訓練場へと戻る。ジート達もオレの跡をついていくようにサザラールを睨みつけながら訓練場へと足を向ける。ジート達もサザラールのことが好きじゃないようだ。
サザラールは気にした様子もないオレに引きつる頬を何度も痙攣させた怒りの表情をこちらに向けていた。
「それにしても、勇者様よぉ……お前よく貴族相手にそんな態度がとれるな」
ジートは声を潜め、オレに声をかけた。
「貴族でも相手は人間だ。それにあんな人間をオレは敬うつもりはないよ」
「はあ~お前は大した玉だよ」
ジートは感心しながら何度もうなずいた。
「和人様、すこし良いですかな」
サザラールが怒りで震えた声を必死に抑えながら、オレを引き止める。
「何か?」
「私がここを訪れたのは王にある命令を受けたからなのです」
「命令? グスタフから?」
オレはサザラールの言葉に少し疑問を覚えたが、素直に聞き返すことにした。
「グスタ……いえ、はい。王からの命令でこの王都を出て東に馬で三日かかる村と近くの洞窟の調査を承ってきたのです」
「東の村っていうと今じゃ魔族領になっている危険地帯じゃねぇか!」
ジートは驚いたように声を荒げる。他の皆も驚いたようにざわついている。
そんなに近い場所にまで魔族が迫っているのか。
「何も和人様だけで向かわせるなどという事は致しません。そうですね……そこにいる者どもをお供にさせましょう」
「なっ! それはいくらなんでも……」
トンパが額に汗を滲ませ慌てた様子でサザラールに抗議する。
「ええい黙れ! 平民の民兵ごときが私に逆らうつもりか‼ それにこの調査は王直々の名誉ある任務だ……この王の署名が何よりの証拠!」
サザラールは激昂した様子で王の署名が書かれた高級な素材と装飾をあしらった紙を見せつけた。
オレはこの異世界に来たための補正か何かかかっているのか現地の言葉の読み書きがすでにできていた。オレの眼にも確かにグスタフの名前が書かれているのが確認できた。
皆はサザラールに気圧され黙ってしまった。
オレは少し頭を巡らせた後、サザラールに声をかけた。
「その任務には、オレ一人で行きましょう」
「しょ、正気かよ⁉ あそこはもう魔族の領土に成り下がって魔族や魔獣がうじゃうじゃいやがんだぞ⁉」
ジートがオレの前に立ちはだかり、オレを引き止めるよう必死に説得してくる。
「グスタフの命令だ。行かないっていう選択肢は存在しないだろ」
オレは少しあきらめた感じでため息交じりの声を漏らす。
「だけど、なんでそんな場所の調査を?」
オレはふと思いついた疑問をサザラールにぶつけることにした。
「たびたび出す国からの密偵から魔族の出入りが減少しているとの報告を受け、小規模の村なら制圧可能かもしれないと考えなされたのです。そこでこの任を和人様に付かせようとの事でした」
「なるほど……分かりました。今から準備します」
「くそ、勇者様が行くなら俺も行くぜ!」
ジートが意を決したように拳を握り、やけくそ気味で叫ぶ。
「な、なら俺も!」
「俺も行くぜ」
ジートの声に当てられ、次々と任務の参加を申し出る奴らが増えていく。
「皆で勇者様を支えるぞぉ!」
「おおおおおおおおおお!」
ジートの声で出来上がった皆の咆哮は訓練場全体に響き渡り、訓練の最中だった騎士たちも驚いたように
足を止めこちらを見ている。
オレは慌てて声を抑えるように皆をなだめ、落ち着いたところで皆に声をかける。
「この任務はオレに命令されたんだ、皆が行かなくてもいいんだぞ!」
オレは静かになだめようとしたが、つい声が上ずり、怒鳴るような形になってしまった。
「はっはっは。そんな心配すんな勇者様。これでも勇者様よりは強いつもりだぜ」
「そういう問題じゃない!」
もう説得しても無駄だと悟り、半ば呆れて額に手を当てため息をつく。
「もう勝手にしてくれ……」
「では、皆早急に準備した後、直ちに出発していただきたい」
「わかりました」
オレは準備をするため、一度自室へと戻った。
「くっくっく……これで、あの無能も終わりだ。あの勇者もどきが存在していても、金の無駄というもの。感謝してほしいものよなぁ、なぁ? 諸君」
「は、はっ! おっしゃる通りですサザラール様」
サザラールは機嫌よく気味悪く笑う。その足取りもサザラールの機嫌と同じように気持ちのいい大理石の床を蹴る音を立てる。
「どうしたのかね? こんな良き日に浮かない顔をして」
サザラールは大きな笑い声を上げながら、騎士に向き直る。
「い、いえ……なにも」
騎士は引きつった顔を見せながら、サザラールの機嫌を損なわないように気を付けて言葉を発する。
サザラール一瞬騎士を訝しげに睨んだが、すぐにまた機嫌のよさそうな笑顔になり、歩き始めた。
「…………」
――和人様。申し訳ありません……どうか、どうか、生きて帰ってきてください。
サザラールに逆らうことのできない騎士の青年は、心の内に後悔と恐怖の念に苛まれながら、わずかな希
望を抱いて、足取り重くサザラールについていった。
「あの小僧が無残に殺される姿が目に浮かぶ。はっはっは! 今日は愉快、愉快」
最後まで読んでいただきありがとうございます!
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