8話 まさか、この私に勝てるとでも思ったか? レベルが違うんだよ。
8話 まさか、この私に勝てるとでも思ったか? レベルが違うんだよ。
――耳鳴りが、やまない。
ロスは、砕けた馬車の残骸のそばで、呆然と立ち尽くしていた。
右腕の、肘から先がない。
傷口から滴る血が、足元の土を黒く染めていく。
「……ぁ……ぁあ……っ」
何が起きたのか。
あの鉄の龍はなんなのか。
なぜ、自分の腕がないのか。
頭の中で、同じ問いが、ぐるぐると空回りし続けている。
「皇子! 皇子!! ご指示を!!」
近衛騎士の叫びも、どこか遠くから聞こえる水音のようだった。
――その時。
「続けぇえええ!!」
鋭いミシャの声が、ロスの意識を引き戻した。
顔を上げる。
土煙の向こうから、毒のクナイを握った少女が、一直線に突っ込んでくる。
その背後には、数えきれないほどの忍者兵。
全員が、炎や氷のクナイを握りしめている。
いまだ、よく事情が飲み込めないが、
『セファイラごときが自分を殺そうとしている』、
ということだけは理解できた。
ロスの中で、何かが、ぶつりと切れて……
「ふ、ふざけるなぁああ! セファイラのカスどもぉおお!」
残った左手を、天へと突き上げる。
全身から、膨大な魔力が噴き上がった。
空気が震える。
足元の小石が、ふわりと浮き上がる。
ロスを中心に、渦を巻くように、赤黒い光が膨れ上がっていく。
「お、皇子!? お待ちください、我々もまだ――」
近衛騎士の制止など、ロスの耳には、もう届いていなかった。
「爆裂烈波ランク9!!!」
――世界が、白く染まった。
轟音と衝撃。
ロスを中心に、灼熱の波が、全方位へと叩きつけられた。
先頭を走っていた忍者兵たちの分身が、ボンッ、ボンッ、ボンッと、次々に煙となって消し飛んでいく。
爆風は、分身だけでは止まらなかった。
その後ろにいた本体も、まとめて吹き飛ばされていく。
「ぎゃぁああああ!」
「か、身体が……熱っ……!」
「なんて……威力……!」
悲鳴は、すぐに爆音にかき消された。
巻き込まれたのは、セファイラの兵だけではない。
ロスを守るために集まっていた近衛騎士たちも、盾を構えたまま、炎の波に飲まれていった。
やがて、光がおさまる。
ロスの周囲は、黒く焼け焦げた、巨大なすり鉢状の大地に変わっていた。
その上に、敵も味方も区別なく、無数の兵士たちが転がっている。
ぴくりとも動かない者。
うめき声をあげながら、焼けただれた手で地面をかく者。
ついさっきまで、あれほど響いていた雄叫びは、もうどこにもなかった。
ロスは、奥歯をかみしめながら、
「はぁ……はぁ……ゴミどもが……まさか、この私に勝てるとでも思ったか……レベルが違うんだよ……カスが」
足元には、自分を守ろうとした近衛騎士の亡骸も転がっていた。
だが、ロスは、それに目を向けることすらしなかった。
そして、焼け野原の中に、
「ぐ……うぅ……」
ミシャが、倒れていた。
服は焼け焦げ、ボロボロに裂け、
起き上がろうと地面についた腕は、がくがくと震えるばかり。
握っていたはずの毒のクナイは、どこかへ吹き飛ばされていた。
ロスは、
「た、ただで死ねると思うな……」
そうつぶやきながら、
倒れているミシャの胸ぐらを、左手でつかみ上げた。
「っ……!」
ミシャの身体が、力なく宙に吊り上げられる。
つま先が、かろうじて地面をかすめた。
ロスは、
「はぁ……はぁ……」
ゆっくりと、何度か、深く息を吸って吐いた。
ぎらついていた目から、すっと熱が引いていく。
代わりに浮かんだのは、いつもの、感情の薄い、冷たい光。
どうにか怒りをコントロールしながら、皇族らしく、
「……セファイラの姫よ、事情を聞かせていただけますか? 私の腕を吹っ飛ばした龍はあなたの召喚獣ですか? なぜ、セファイラのゴミ兵士どもが、揃いも揃って、分身のような高度な魔法を使っているのですか? 私には、さっぱりわかりません。ぜひ、ご教示いただきたい」




