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9話 ロス、死ねぇぇええ!!


 9話 ロス、死ねぇぇええ!!


「私には、さっぱりわかりません。ぜひ、ご教示いただきたい」


 声音《こわね》だけは紳士的な問いかけ。


 ミシャは、答えない。

 胸ぐらをつかまれたまま、苦しげに顔をゆがめ、


「ぐ……ぅ……」


 うなり声を返すのが精一杯だった。

 その様子を見て、ロスは、一度だけ舌打ちをした。


「……まあいいでしょう」


 つかみ上げたミシャの顔を、自分の目の高さまで引き寄せる。

 鼻先が触れそうな距離。

 冷たい目が、ミシャの顔を、値踏みするように眺め回した。


「本当に、ただですむと思わないでくださいね。……ありとあらゆる絶望を、あなたの体と心に刻み込んで――」


 その時だった。


「うぉおおおおおおおお!!」


 焼け野原の向こうから、一つの影が、転がるように駆けてきた。


 センだった。


 服はボロボロに焼け焦げ、額からは血が流れている。

 今にも倒れそうな足取りで、それでも、センは止まらなかった。

 拳を固く握りしめ、ロスの横顔めがけて、まっすぐに突っ込んでくる。


「閃拳!!」


 ガツン、と鈍い音が響いた。

 センの拳は、確かに、ロスの顔面をとらえていた。


 だが、ロスは、微動だにしなかった。


「……はぁ……」


 ロスはため息交じりに、ゆっくりと目だけを動かして、センをにらみつけ、


「……なぜ、そこまで、私をイラつかせたいのか……理解に苦しみますね」


 そう言いながら、軽く足を振った。

 ほこりでも払うような、何気ない蹴り。


 それだけで、センの体は、枯れ葉のように吹っ飛んだ。

 地面を何度も跳ね、転がり、


 ――ボンッ。


 煙になって、消えた。


「……ぇ……」


 ロスの目が、わずかに見開かれる。


「分身……? では、本体は――」


「雷呪クナイランク2!!」


 背後。

 すぐ耳元で、声がした。


 ロスが振り返るより早く、

 バチバチと電流の走るクナイが、ロスの首の後ろに叩き込まれた。


「ぐぃい!!」


 ロスの全身が、びくんと跳ねる。

 呪いのこもった雷撃が、ロスの体を一瞬だけ止める。


「ミシャァアア!」


 センが叫ぶと、

 ミシャの目が、ギラリと光った。


 この一瞬のために、

 まったく動けないふりをしていた。


「影分身ランク6!!」


 跳ね起きたミシャの周りに、5つの影が、同時に立ち上がる。

 最後まで温存していた分身。


 合計6人のミシャが、一斉に、その手を振りかぶった。



「「「「「「龍毒クナイランク7!!!」」」」」」



 紫の瘴気《しょうき》を放つ、まがまがしい毒のクナイ。

 6本の刃が、6方向から、ロスの体へと突き立てられた。


 ずぶり、と深く。


 傷口から、どす黒い紫が、じわじわと広がっていく。

 龍すら殺す猛毒が、血の流れに乗って、ロスの全身を駆け巡る。


「ずぁああああああああああ!!」


 この世のものとは思えない絶叫。


 ロスは、白目をむき、

 ぐらりと体を傾け、

 そのまま、バタリと地面に倒れ込んだ。


 ぴくりとも、動かない。


 焼け野原に、しんとした静けさが落ちた。


 遠巻きに見ていたデカールの兵士たちが、震える声でつぶやく。


「ま……まさか……皇子が……」


 その言葉が、合図になった。


「さすが王女だぁああ!」

「皇子は死んだぁああ!」


 ギリギリ生き残っていたセファイラの忍者兵たちが、

 一人、また一人と、よろめきながら立ち上がる。

 傷だらけの体に、再び力がみなぎっていく。


「デカールの雑兵《ぞうひょう》ども! 次は貴様らの番だぁああ!!」

「皆殺しにしてやるから覚悟しろぉお!」

「龍牙手裏剣ランク3!!」


 手裏剣とクナイの嵐が、デカールの兵士たちへと襲いかかる。

 総大将を失ったデカール軍には、もう、立ち向かう気力など残っていなかった。

 悲鳴をあげて逃げ惑う兵士たちが、次々と倒れていく。


 センは、


「ははっ……やった……マジで、やった……!」


 その場にへたり込みながら、乾いた笑いを漏らした。

 全身が痛い。

 立ち上がる力も、もう残っていない。

 それでも、勝った。

 世界最弱の小国が、2万の大軍に。


 ――このまま、勝利で終わる……

 誰もが、そう思った。



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