↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/56

18話 暴れろ、百鬼夜行!!


 18話 暴れろ、百鬼夜行!!


 最初に異変に気づいたのは、ドーンの魔導兵団に属する、一人の神官系魔法使いだった。


「……っ」


 堀の縁で障壁を張っていたその神官は、ふいに手を止め、死霊系統の鑑定魔法を使った。

 その結果、


「アンデッドだ……大量のアンデッドがわいている!」

「なに!?」

「数が……多すぎる……先ほどの砲撃で死んだ兵たちが、霊化しているのか……?」

「馬まで……死霊化して……敵についている……な、なんで……」

「くそ馬どもがぁ! 世話してやった恩を忘れるとは、やはり畜生か!!」


 隣にいた別の神官が、声を荒らげた。


「ばかな! 係争地《けいそうち》で、死が熟《じゅく》してアンデッドがわくことはある! だが、戦の最中に、それが起きた例など……聞いたこと……」


 そこへ、魔導兵団長が怒鳴りつけた。


「学者みたいな疑問はいらん!! とにかく、死ぬ気で対処しろぉおお!」


 神官たちが、一斉に手をかかげた。


「聖光陣《せいこうじん》ランク6!」

「浄霊祈願《じょうれいきがん》ランク5!」

「破邪結界《はじゃけっかい》ランク7!」


 白い光が、あちこちで弾ける。

 何もなかったはずの空間から、ぎゃっ、と短い悲鳴が上がり、黒い煙が、ふっと消えていく。


 一体、また一体と、見えない妖怪たちが、光に焼かれていった。


 ★


 その頃、本陣では、カバノンが、馬上で額を押さえていた。


(……なんだ、これは……)


 体が、熱い。

 それなのに、背筋には、ぞくぞくと寒気が走っている。


 視界が、わずかに揺らぐ。

 城の輪郭が、陽炎《かげろう》のように、二重にぶれて見えた。

 頭の芯が、鈍く痛む。

 考えようとするたびに、思考が、泥の中をかき分けるように重くなる。


 さらに、腹の奥で、ぎゅるり、と嫌な音が鳴った。

 下腹を、内側からねじり上げられるような痛み。


(ぐっ……な、なんだ……変なものは何も食っていないのに……あ、あの時以上の腹痛……っ! ……ぐぅうう! ふざけるなぁあ! に、二度と、漏らしてたまるか……!)


 カバノンは、歯を食いしばり、全身の力を下腹に集めた。


「カバノン主席、お顔の色が……」


「……も、問題ないぃい」


 カバノンは、手綱を握り直した。

 いくら体調が悪かろうと、戦場での将は凛としていなければならない。


「ぁ、アンデッドがわいている、と神官どもが騒いでいたな……まさか、呪われたのか? 私が? 私ほどの高レベルを呪えるとは……くっ……なんなんだ、この土地は……まったくもって、忌々しい」


 ぐらりと、体が傾きかける。

 それを、鞍の上で、どうにかこらえた。


「……西側の進みが遅い。ゼイ殿下に、土魔法の使い手を300ほど回すと伝えろ。……東側は、あと少しだ。急がせろ」


 熱に浮かされた頭で、それでも、カバノンは指示を出し続けた。


 ★


 昼を過ぎたころ。


 当初の見込みよりは遅れた。

 それでも、ロス軍とは比べものにならない速さだった。


「堀、埋まりましたぁ!」


 伝令の叫びが、平原に響き渡った。


 その瞬間、城を包んでいた光の膜が、ゆらりと大きく揺らいだ。

 ちかちかと、弱々しく明滅する。

 そして、ふっと、ろうそくの火を吹き消すように、消えた。


「……よし」


 カバノンが、熱と腹痛で赤らんだ顔のまま、薄く笑った。


「ひ……被害は?」


「埋め立ての間に、およそ10万がやられました。……残っている兵は、40万ほどかと」


「……十分だ」


 その隣で、ゼイが、ゆっくりと馬から降りた。


「あとは、私がやろう」


 ゼイは、城に向かって、右手を掲げた。


 全身から、膨大な魔力が噴き上がる。

 蘇生でレベルを失ったため、かつての力には及ばない。

 それでも、ロスに匹敵するだけの魔力が、渦を巻いて、ゼイの手のひらへと集まっていく。


「帝王流星《ていおうりゅうせい》ランク9!!」


 ――空が、金色に裂けた。


 雲を突き破り、金の炎をまとった岩の塊が、いくつも、いくつも、城へと降りそそいでいく。


 障壁は、もう、ない。


 一つ目が、天守の屋根を砕いた。

 二つ目が、白い壁を突き破った。

 三つ目、四つ目が、石垣を、根元からえぐり取った。


 崩れ落ちる城が、淡い光の粒になって、ほどけるように、空へと溶けていく。


 土煙が晴れた時、

 城は、跡形もなかった。


 ★


 崩れ落ちてくる石垣も瓦も、センたちに触れる寸前で、光の粒になって消えていく。

 気づけば、センたちは、何もない平原の上に立っていた。


 センは、頭をぼりぼりとかきながら、


「くそ! 壊されるの早ぇよ! ちくしょう!」


 もう、隠れる石垣はない。

 撃ち下ろせる狭間《さま》もない。


 平原の向こうには、40万の軍勢が、黒い壁のように広がっていた。


 忍者兵たちは、クナイを握り直し、口寄せの獣を足元に従え、正面の大軍を、じっとにらみつけている。


 センは、深く息を吸い込むと、そばに控えていた霊馬に、


(人間のアホな戦争につき合わせちゃって、ほんと、すいやせんねぇ)


 深々と一礼してから、そっとまたがった。


「ここからが正念場だ! ゼイとカバノンを殺す!」


 ミシャも、霊馬の首筋に、そっと手を添えながら、


「すまない、助かる」


 そう言って、霊馬にまたがり、センの隣に並ぶと、声を張り上げた。


「総大将の首を取れば、敵は崩れる! 狙うは二人の首だ! 全員、私に続けぇ!」


「「「「「おおおおお!!」」」」」


 突撃開始と同時に、

 センは、空を見上げた。


(来い……ゼロ戦!)


 轟音が、空を裂いた。


 翼に赤い丸を描いた機体が、まっすぐに急降下してくる。

 機首から火線が走り、土煙の線が、敵陣の中央を一直線に駆け抜けた。


「鉄龍だぁあ!」

「障壁を張れ! 盾を上に――ぐぁあ!」


 隊列に、一本の裂け目が走る。


 ゼロ戦が空の彼方へ飛び去るのと入れ替わりに、


(続けて来い……紫電改!)


 太く、重い唸りが、空を震わせた。


 ずんぐりとした機影が、ゼロ戦の開けた裂け目を、さらに押し広げるように突っ込んでくる。

 ゼロ戦の比ではない火線が降りそそぎ、裂け目の両側にいた兵が、まとめて吹き飛んだ。


「二体目だと!?」

「報告では、鉄龍は一体だけと――」


 紫電改が去ったあと、敵陣の真ん中に、本陣へと続く一本の道ができていた。


「行けぇえええ!」


 霊馬にまたがったセファイラの忍者兵たちが、道へとなだれ込む。


 先頭を駆けるのは、ミシャ。

 その後ろには、彼女が口寄せで呼び出した、八つの首と大きな翼を持つ大蛇――『ヒドラ』が、地をうねるように追いすがっていた。

 八つの首が吐き出す毒霧が、道の両脇に立ちこめ、押し寄せてくる敵兵の足を、次々と止めていく。


 だが、道の先には、まだ、何万という兵がいる。

 左右からも、すぐに隊列が押し寄せてくる。

 1000に満たないシノビ騎兵だけでは、とても本陣までは届かない。


(出し惜しみしてる場合じゃねぇ……来い! 万華鏡・英雄列伝!!)


 ――光が、はじけた。


 忍者兵たちの先頭に、十本の光の柱が立ち上がる。

 その中から、十人の英傑が、静かに歩み出てきた。


 英傑たちのそばには、霊馬も姿を現していた。

 センが徹底して礼を尽くしたおかげか、霊馬たちは、惜しみなく力を貸してくれている。


「「「「「「「「「「影分身ランク10」」」」」」」」」」


 10人が、あっという間に100人になった。

 騎乗したまま分身すると、馬まで一緒に増えるという、ありがたい仕様。


 最初に動いたのは、宮本武蔵だった。

 霊馬で一気に敵前まで駆け抜け、飛び降りざまに、二刀を抜き放つ。

 次の瞬間には、前を塞いでいた兵の列が、まとめて崩れ落ちていた。


 本多忠勝の蜻蛉切《とんぼぎり》が、騎兵を馬ごと薙《な》ぎ払う。

 雷電の張り手が、重装兵を盾ごと吹き飛ばす。

 弁慶は、降りそそぐ矢を全身で受けながら、一歩も退かない。


「な、なんだ、あの凶悪な兵たちは!」

「止まらねぇ……斬っても、斬っても……!」

「化け物だ……あれは、人間じゃない……!」


 英傑たちが切り開いた道を、セファイラの忍者兵たちが、さらに押し広げていく。

 本陣までの距離が、みるみる縮まっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。