19話 ゼイとカバノンを殺せぇええ!
19話 ゼイとカバノンを殺せぇええ!
ゼイとカバノンの周りには、両国から選び抜かれた将軍たちが、何重にも壁を作っていた。
その後ろには、生き残った魔導兵団が、ずらりと並んでいる。
カバノンは、熱に浮かされた目で、日本英傑たちの戦いぶりを見つめていた。
(剣も、槍も、拳も……どれも、人の域を超えている。剣で受ければ剣ごと斬られ、盾で受ければ盾ごと砕かれる……)
だが、その目は、ある一点を見逃さなかった。
魔導兵の一人が、苦し紛れに放った炎の魔法。
それを受けた英傑の分身が、思いのほか大きく、体勢を崩していた。
カバノンは、
「魔法は、効いている……そして、分身以外の魔法も使っていない……おそらく、あいつらは典型的な物理職の前衛特攻型……」
呪いで鈍った頭でも、その観察眼だけは、まだ曇っていなかった。
「やつらに近づくな!! 魔法で、まとめて吹き飛ばせ! おそらく、完全物理特化型で、魔法には弱いはずだ!!」
かすれた声を振り絞って、周りの将軍たちに告げる。
さらに、続けて、
「馬には構うな! 恐ろしく頑丈だ! 乗っている奴だけを狙え!」
そして、自ら、右手を掲げた。
熱で、視界が揺れている。
ケツは今にも爆発しそう。
それでも、カバノンは、残った魔力のすべてを、手のひらに集めた。
「爆殺波動ランク9!!」
――平原が、白く染まった。
カバノンの手のひらから、灼熱の衝撃波が、扇状に叩きつけられる。
英傑たちの分身が、ボンッ、ボンッと、次々に煙になって消し飛んでいく。
本体の英傑たちも、吹き飛ばされ、地面を転がった。
そのすぐ後ろを駆けていた忍者兵たちも、分身ごと、まとめて爆風に飲み込まれる。
霊馬たちも、ただでは済まなかった。
透きとおった体が、ゆらりと揺らぎ、霊気が尽きた馬から順に、青白い光の粒となって、静かに天へと還っていく。
「……魔導兵!! 撃て! 撃ちまくれぇ!」
カバノンの号令を合図に、魔導兵団と将軍たちが、一斉に魔法を放った。
炎が、雷が、氷の槍が、瀕死の英傑たちへ降りそそぐ。
カバノンの推測通り、英傑たちは、攻撃力と防御力こそ桁外れだが、魔法への耐性は人並みだった。
これだけ高火力の魔法を受け続ければ、当然、大きく消耗する。
――はずだった。
「な、なぜ、倒れない!!」
「まさか、魔法にも強いのか?!」
「いや、そうではない! 明らかに、絶大なダメージを受けている!」
英傑たちは、焼けただれた体で、立ち上がる。
折れた刀を、握り直す。
「なぜ……なぜ、立ち上がれる……」
「まさか、気合と根性だけで立っている……のか……?」
理屈ではない。
致死量のダメージを受けながら、英傑たちは、なおも刃を振るい続けた。
日本の歴史に名を刻む達人たちの大和魂を、侮るなかれ。
武蔵の二刀が、障壁ごと、魔導兵の列を断ち割る。
忠勝の槍が、将軍の剣をへし折り、その胸を貫く。
それを見て、カバノンは、
「奮い立てぇえ! 魔導兵団! 奴らは虫の息だ! 将軍級も、魔法を惜しみなく使え! 奴らを殺しきれぇええ!! そうすれば、勝利だぁあ!」
両国が誇る、最高峰の魔導兵と将軍たちが、命令に従い、魔法を放ち続ける。
十兵衛が、三人目の将軍を斬ったところで、背中を撃ち抜かれた。
慶次が、笑ったまま、凍りつく。
義経が、跳び上がったところを、雷の魔法に撃ち落とされた。
英傑たちは、次々と倒れ、光の粒になって、ほどけるように消えていった。
そして、3分が経過した。
最後に残った武蔵が、本陣の手前で、二本の刀を地面に突き立てたまま、静かに消えていった。
★
戦場に、一瞬の静けさが落ちた。
英傑たちは、10万を超える敵兵を葬った。
とんでもない戦果。
……だが、敵は、まだ30万近く残っている。
そして、セファイラの忍者兵たちも、もう、誰も立っていなかった。
立っているのは、センと、ミシャだけ。
ミシャは、焼け焦げた服のまま、肩で荒く息をしていた。
ここまでの連戦と、必死の鍛錬で、彼女のレベルは137にまで上昇していた。
その地力だけで、どうにか、魔法の嵐を耐えきっている。
センもまた、そのミシャの背にかばわれる形で、かろうじて生き延びていた。
(まだだ……! まだ終わらんよ!!)
センは、右手を開いた。
(舞い踊れ!! 日本刀千本桜!!)
右手に、ずしりとした重みが生まれる。
ミシャの手にも、同じ刀が握られていた。
――倒れていた忍者兵たちの指が、ぴくりと動いた。
一人、また一人と、起き上がってくる。
その手には、桜の刃紋が浮かぶ日本刀。
白いひげのセファイラ老兵が、
「……また、生き返らせてもらえたか。ありがたい……」
刀を肩にかつぎ、にやりと笑った。
その時、空の高みから、青白い光が、いくつも降りてきた。
最初に天へとのぼっていった霊馬たちの中から、新たな一団が、戦場へと駆けつけてくれたのだ。
(……追加で来てくださるとは……ありがてぇ!!)
センは、心の中で、何度も頭を下げてから、
「では……もうひと暴れといこうかぁ!」
霊馬にまたがった1000の刃が、再び、本陣へと殺到する。
「な……死んだはずの連中が……!」
「どうなっているんだ、この国はぁああ!」
忍者兵たちは、止まらなかった。
斬られても、突かれても、倒れるまで刀を振るう。
「こいつら、死が怖くないのか!」
敵兵の叫びに、老兵は、笑みを浮かべたまま、刀を振るった。
(……この戦に勝ちさえすれば、どうせ、また生き返るんでな……死など、まったく怖くないわい)
その隣で、若い兵が、血まみれの顔で敵をにらみつけていた。
(仮に生き返れずとも……姫様を踏みにじろうとする貴様らを、恐れたりはしない!)
死を恐れない1000人の集団。
殺しても、殺しても、笑って斬りかかってくる者を前にして、人は、刃より先に、心を折られる。
カバノンは、浮き足立つ兵たちに、
「退くな!! 一歩でも退いた者は、敵より先に、この私が斬る!!」
活をいれていく。
「ここで背を向けてみろ! あの怪物どもは、次は祖国に牙をむくぞ! なんとしてでも、ここで滅せねばならぬのだ!! 何度もよみがえるというのなら、何度でも殺せぇええ!!」
戦場を震わせる怒声。
それ一つとっても、カバノンの将としての資質の高さがうかがえた。
不死身のセファイラ兵にビビっていた者たちは、気合を入れなおし、
「近づけるな! 魔法で焼き払え!」
「将軍は前へ! 魔導兵団は後ろから撃ち続けろ!」
連合軍には、まだ、何万という魔導兵がいる。
魔法を使える将軍も、両軍に何人も残っていた。
炎の雨が、桜の刃ごと、忍者兵たちを焼いていく。
雷が、刀を振り上げた腕を、まとめて撃ち抜いていく。
「それでいい!! 我らはドーンとデカールの連合軍! この大陸の覇者だ! 小国の千人ごときに、その名を汚させるなぁあ!!」
セファイラ忍者兵は、多くの兵を殺した。
その数5万以上……
1000人で5万を討ち取るという、とんでもない成果。
だが、そこまでが限界。
セファイラの忍者兵は、再び、一人残らず倒れた。
敵は、まだ……25万も残っている。
センの隣には、またしても、ミシャしかいなかった。




