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10話 丁寧に調教し、理想の人形に仕立て上げる。


 10話 丁寧に調教し、理想の人形に仕立て上げる。


 センは、腕を組んだまま、ジョカの横顔をじっと見ていた。


(……フーマルの言う『バランス』ってのは『どこかの国が極端な強さを持つことはNG』って意味とみて間違いなさそうだな……)


 ドーンがデカールを飲み込んでしまえば、ドーンが強くなりすぎるからNG。

 セファイラがデカールの代わりになるのは、どこかが極端に強くなるという話ではないのでOK。


 センが、そう理解したところで、カバノンが、


「同盟のお返事は、急ぎません」


 柔らかく、続けて、


「答えは、次の機会にお聞かせください。……それよりも、今日は、もう一つ、大切なお話がございまして……さきほど、神格殿からも話がありましたが……」


 カバノンは、一歩、ミシャのほうへ近づいた。


「ミシャ王女。私は、あなたを、妻として迎えたい」


「……っ」


「ゼイ皇子は、あなたを側室にと仰ったそうですね。……あまりにも失礼な話だ。私は違う。立場は対等。ドーン共和国の、正式なファーストレディとして、あなたをお迎えしたい」


 丸眼鏡の奥の目が、ミシャを、じっと見つめていた。

 紳士を気取った笑みの奥で、冷たく、粘りつくような光が揺れる。


(……この女は見た目がよく、レベルも高い……そして、なにより頭が悪い。格好《かっこう》のカモ)


 カバノンは、笑顔の裏で、そう考えていた。


(丁寧に調教し、理想の人形に仕立て上げる。……私とコレの子供は間違いなく有能な将となる。10人ほど産ませて、徹底的にエリート教育を施せば、理想の親衛隊になるだろう。すべてうまくいけば、デカールに勝てるのはもちろんのこと……将来的には、フーマルにすら――)


 ミシャは、唇をかんだ。


「……大変ありがたいお話ですが、カバノン主席。私は――」


「この婚姻には」


 カバノンが、穏やかに、ミシャの言葉をさえぎった。


「この世界の実質的な支配者たるフーマルの最高位神官、使徒ジョカも、賛成してくださっています。……ゆめゆめ、お忘れなきよう」


 ミシャは、はっとして、ジョカを見た。


 ジョカは、何も言わなかった。

 ただ、意味深な笑みを、ミシャに向けているだけ。


 ミシャは、


「……」


 何も言えなくなった。


 断れば、フーマルの神格の顔に、泥を塗ることになる。

 受け入れれば、セファイラは、ドーンの手のひらの上。


 センは、黙って、カバノンの横顔を見つめていた。


(……カバノンは大国のトップ。格としては申し分ないが……なんだろうな……目が気に入らねぇ)


 センは、人の心を読めるわけでも、他人の謀略《ぼうりゃく》に敏感なわけでもない。

 ゆえに、これはただの感情論。


 仮に、カバノンが純粋にミシャを想っていたとしても、

 センは、同じように『気に入らねぇ』と思うだろう。

 幼馴染とはそういうもの。


 重苦しい沈黙が、謁見の間を支配していた。


 ミシャは、うつむいたまま、答えを出せずにいる。

 カバノンは、穏やかな笑みを崩さず、その答えを待っている。

 ジョカは、相変わらず、にこにこと窓の外を眺めている。


 ――ぐぅぅぅぅぅ。


 間の抜けた音が、盛大に響き渡った。


 全員の視線が、一斉に、センへと集まる。


 センは、腹を押さえながら、


「……あ、すんません。朝から何も食ってなかったもんで」


 ミシャが、こめかみを押さえた。

 宰相が、天を仰ぐ。


 ジョカだけが、くすくすと、楽しそうに笑っている。


「おやおやぁ。そういえば、もうお昼を回ってますねぇ。……一度、休憩にしませんかぁ?」


 ミシャは、すがるように、その言葉に飛びついた。


「そ、そうですね。カバノン主席も、長旅でお疲れでしょう。城で、ささやかながら昼食を――」


「それよりもぉ」


 ジョカが、人差し指を、ぴんと立てた。


「城下町に、なんだか、妙なお店がありますよねぇ。ガラス張りの、平たい箱みたいなぁ。……あそこで、食べてみませんかぁ?」



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