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1話 デカールの第一皇子。


 1話 デカールの第一皇子。


 戦争が終わって、3日ほどが過ぎたころ。

 デカールから、一通の書状が届いた。


 『軍議の間《ま》』には、重臣たちが集められていた。

 上座のミシャは、肩にまだ包帯を巻いている。

 センの額にも、戦場でついた傷が、まだ生々しく残っていた。

 重臣たちも、戦後処理に追われて、みな目の下にくまを作っていた。


 宰相が、書状の文面を読み上げる。


「――『先の戦は、第三皇子ロスが、己の罪を隠すために起こした私闘である。帝国の意思にあらず。よって、帝国は宣戦布告を撤回し、正式な使節を送る。使節は、2日後にそちらへ到着する』……とのことです」


 重臣たちが、顔を見合わせた。


「……30万を動かしておいて、『ロスが勝手に暴れただけ』として終わらせる気か……」

「ふざけた話だ……」

「しかも、2日後とは……急すぎる」


 みな、怒りに震えている。

 だが、相手は大国。

 我慢するしかないのが実情だった。

 デカールと再び事を構えるつもりなら、話は別だが……ミシャは、それを望んでいない。


 宰相が、書状に目を落としたまま続けた。


「文《ふみ》によると……どうやら、ゼイ皇子は、生きておられたそうですな。それで、ロス皇子の犯行が明るみに出た、と」


 死者蘇生はフーマルの秘術であるため、その事実は伏せられた。

 ゼイは、ロスの強襲によって瀕死の重傷を負ったが、驚異の生命力で一命をとりとめた……という説明が、周辺国にはなされた。


 センは、眉をひそめ、


(……生きてた? 間違いなく死んだから、皇帝は激昂したんじゃなかったか?)


 重臣たちが、口々に言う。


「ロスは、本当に、ろくなことをしないな」

「兄殺しだろ? 重罪じゃないか。処刑されたのか?」

「いや、逃げたそうだ……」

「なんだ、逃げたって……なめてんのか」


 センは、頭をかきながら、しんどそうに、


(……なに逃がしてんだよ。国の威信にかけて、あのカスを全力でとっ捕まえて、処刑してくれよ。生きているなら、絶対、また、なんかしてくるって……うざいわぁ……)


 ミシャが、静かに口を開いた。


「大事なことは一つだ。文面から察するに、デカールは、これ以上、こちらと揉めたくないと考えている。これは、正直、ありがたい話だ。もう戦争はしたくない」


 宰相が、うなずく。


「同意でございます、姫様」


 ミシャは皆を見渡しながら、


「30万もの兵を失った今、デカールに、再びこちらへ兵を向ける余裕はないだろう。ドーンとの和平も、まだ、まとまり切っていないと聞く……」


 宰相は、書状を机の上に置いた。


「誤った大義で攻め込み、大敗したとあっては、属国どもに示しがつかない。……すべてをロス皇子一人の罪にして、帝国の体面を守る。そういう筋書きでしょう。本来であれば、賠償《ばいしょう》を求めるところですが……」


「……その気持ちはわかるが……不問とするしかないだろう。謝罪の使節を快く受け入れ、できれば、盟約を結びなおしたいところ」


「……平原の鎧の回収も、まだ半分も終わっておりませんが……あれを売れば、多少は国庫の足しになりましょう。それで手を打つしかありませんな」


 デカールとの盟約は、これまで何度も破られてきた。

 それでも、戦争を回避するためには、そうするほかにない。

 それに、30万を一度退けた実績があるので、向こうも今後は、そうやすやすとセファイラを敵に回そうとはしないだろう。


 ……と、ミシャは考えている。


 センは、腕を組んだまま、渋い顔で、


(30万を撃退されたばかりだ。さすがに今回は、デカールも、まともに和睦を求めてくるはず……問題があるとすれば、正使の第一皇子……)


 書状の最後には、使節の正使の名が記されていた。


 ――デカール大帝国、第一皇子ルキ。


「第一皇子か……いい噂は聞かないな」


 ミシャが小さくつぶやくと、重臣たちが、口々に、


「ロスより残酷という話も聞く」

「気に入らぬ料理を出した料理人の腕を、その場で折ったとか……」

「属国の使者を、一日中、立たせたままにしたという話も……」


 軍議の間の空気が、さらに重くなる。


 ちなみに、文には、ミシャとゼイの縁談を破棄するむねも書かれていた。


(……破棄? むしろ、この状況だと、婚姻《こんいん》を推し進めそうなものだが……まあ、ゼイとミシャの結婚がなくなるのは……アレがアレだから、いいんだけど……いや、個人的に、ミシャの相手としてゼイはアリよりのアリなんだけどねぇ……まあ、でもねぇ……向こうが破棄っていうなら、仕方ないよねぇ)


 センは、表情を変えずに、天井を見上げた。


「ゼイ皇子は、重傷から回復したばかりで静養中。ロス皇子は逃亡中。……今、動ける皇子は、ルキ皇子しかおらぬのでしょうな」


 宰相の言葉に、軍議の間が、重い沈黙に包まれた。


 センは心の中で、


(話がうまくまとまってくれるといいんだが……)




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