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終末世界に帰省した元社畜、実家の畑にあるネギを抜いたら聖剣でした  作者: k-ing☆孤独な王子①6/8発売


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7.社畜、料理をする

 家の中に入ると、ふと横に祖父がいないことに気づいた。


「おー、頑張れ! 頑張れ!」


 振り返ると上り框を必死に登ろうとしている大根を応援していた。

 葉っぱを両手のように使いよじ登ろうとするが、あと少しというところでずるりと滑り落ちた。

 それでも負けじと再挑戦し、また滑り落ちる。


「……何やってるんだ」


 大根は聞こえなかったふりをするように、三度目の挑戦を始めた。


「わしが助けて……いや、そんなんじゃダメだな」


 手を差し出そうとした祖父はそっと戻した。

 まるで俺の幼い時の祖父を見ているような気がする。

 ……いや、俺は大根じゃなかったか。

 何があっても祖父はずっと応援してくれていたからな。


「登れるように台でも用意しておくか」


 大根はビクッとしたあと、頭の葉を大きく揺らした。

 喜んでいる姿に何とも言えない気持ちになる。

 部屋から週刊漫画誌を持ってきて、階段のように積み上げると、大根は嬉しそうに家の中に入ってきた。

 ドタバタと走り回っては戻ってきてを繰り返す。


「修平の幼い頃を見ているみたいだ……」

「じいちゃん、大丈夫?」


 ついに認知症になったのかと思ってしまった。

 さすがに俺と大根はどう頑張っても似てないだろう。


「今すぐに朝ご飯を作るからね」

「ああ、修平も料理ができるようになったのか」

「……」


 俺は何も答えずに台所に向かう。

 社畜生活をしていた俺に自炊をする時間はない。

 むしろ、ご飯は適当に済ましていたからな。


「なぁ? わしら今日で死んだりしないよな?」


 祖父は大根に助けを求めていたが、まるで愛犬に話しかけるおじいちゃんって感じだな。

 話し相手が大根だけど……。

 祖父も認知症になっていないのか不安になってくる。

 大根に話しかけるって……ああ、俺もしていたか。

 きっと自然と大根に話しかけたくなるのは遺伝だな。


 俺は持ってきた大根とネギでお味噌汁を作ることにした。

 まずは大根を適当な大きさに切ればよさそうだな。

 慣れない包丁で大根を切っていると、隣から祖父の悲鳴が聞こえてくる。

 祖母と何かあったのかと思い、チラッと視線を向けると祖父と目が合った。


「包丁を使う時は目を外すんじゃない!」

「あっ……ああ」


 まさか調理に関して祖父に怒られるとは思わなかった。

 昔は祖父が祖母に怒られる立場だったのにな。

 大根を切ると、俺はそのまま鍋に入れて、水が浸るまで入れる。


「修平は何を作ろうとしているんだ?」


 気になったのか祖父は台所までやってきた。


「味噌汁だよ?」

「これじゃあ、味噌おでんにするつもりか?」


 そう言って、祖父は鍋に入っている大根を手に取った。


「こんな大きさじゃ柔らかくなるまで時間がかかるぞ」


 言われてみたら、俺の切った大根はおでんで使うような厚さがある。

 ここ数年大根が入った味噌汁を飲んだ覚えがないから、そういうこともあるだろう。


「それに出汁はどうするんだ?」

「出汁? 水に味噌を入れたらできるんじゃないの?」

「はあー、都会に出たら料理もしないのか」


 祖父の言葉に俺は小さく頷く。

 俺のご飯といえば、栄養ドリンクとプロテインバーがメインだったからな。

 お昼に職場の近くに売っているお弁当を食べたら、ある程度は腹は膨れるし、外食は味が濃いから胃が受けつけない。


「むしろじいちゃんは前よりも料理ができるようになったんだね」

「ばあさんの面倒をみないといけないからな」


 元々祖父は料理ができるような人ではなかった。

 祖母が少しずつ料理が作れなくなるからと、一緒に練習をしたのだろう。


「昔、ばあちゃんの誕生日にご飯を作ろうとして、怒られたのが懐かしいね」

「あの時は見ているばあさんが死にそうな顔をしていたからな」


 幼い頃に祖父と一緒に祖母の誕生日会をすることになった。

 その時に祖母の得意料理である天ぷらを作ろうと思ったが、あまりにも不慣れな俺たちに誕生日である祖母が口出しをしていたのも懐かしい。

 まるでさっき悲鳴をあげていた祖父にそっくりだった。

 

「衣がべっちゃりした天ぷらを食べて、ばあちゃん〝美味しい〟って泣いていたっけ……」


 最後は祖母が天ぷらを揚げていたけど、俺と祖父が初めて揚げた天ぷらを祖母が嬉しそうに食べていたな。


「そういえば、ばあちゃんは――」


 俺は祖母がどうしているか気になり振り返ると、大根が祖母の手を葉でペチペチと叩きつけていた。

 

「おい、何やってるんだ!?」


 俺は慌てて駆け寄り、大根を持ち上げる。

 その時だった。


「あれ……?」


 大根に叩かれていた祖母の手がうっすらと光っていた。

 まるでネギを引き抜いた時に見た光とよく似ている。

 祖母は相変わらずぼーっとしているが、どこか表情は朝よりも穏やかになったようにも見える。

 ひょっとしたら大根には癒しの効果があるのかもしれない。

 認知症の人が犬や猫と触れ合って、穏やかになるって聞いたこともあるからな。

 まあ、大根で穏やかになるかは別として、〝大根セラピー〟があっても不思議ではない。

 特に目の前にいる大根はどこか犬みたいだしな。


 ……いや、やっぱり不思議か。


「ばあちゃんのことを頼んだぞ」


 大根は特に悪びれる様子もなく、むしろ「任せてくれ」と言わんばかりに葉っぱを揺らしていた。

 やっぱり言葉を理解しているようだ。

 俺は半分冗談でそう言い残し、台所へ戻る。


「大根も柔らかくなってきたぞ」


 祖父の言葉に鍋を覗き込む。

 白かった大根はうっすら半透明になり、湯の中で浮かび上がっていた。


「ご飯も炊いたから、もうしばらくしたら味噌を解いて……どうしたんだ?」

「……いや、じいちゃん、いつの間にご飯を炊いてたんだと思って」

「ははは、料理は手際の早さが大事だからな」


 いつのまにか祖父は土鍋でお米を炊いていた。

 俺が畑に行っている間に浸水させて、炊く準備をしていたらしい。

 本当に俺の知っている祖父なのか疑問に思ってしまう。

 まさか祖母と入れ替わって……ってことはないだろうな。

 それだけ祖父は一人で祖母の面倒を見ていたのだろう。


「じゃあ、その間にネギの準備をするから、じいちゃんは座ってて」


 お米もしばらくはすることがないため、祖父には座って待ってもらうことにした。

 大根が何をやっているのか気になるし、祖母の変化は祖父が一番わかっているからな。


「ネギは……こいつも切れるのか?」


 ネギをどこに置いたか探していると、ふとある疑問が浮かんだ。

 光っているネギが食べられるのか気になった。

 俺はベルトで挟んでいるネギを取り出して、包丁を当ててみる。

 

――カツン!


「……え?」


 やはり光っているネギは硬かった。

 触っている感じは普通のネギと変わらないのに、力を込めても傷がつくことはない。

 ただ、次第に光が弱くなっているような気がした。


「ネギにも耐久性があるのかな?」


 ネギ同士で押しつけた時も祖父に渡した先に収穫したネギの方が、後から抜いたネギよりも明らかに輝きが弱くなっていた。

 それに化け物退治に使ったり、時間経過で輝きを失うってことは、使える時間やネギの耐久性が決まっているのかもしれない。

 光っていないネギは普通に切れるからね。


「光っている間は別物ってことか?」


 俺は輝いているネギを持ち上げる。

 その姿は確かにネギなのに、まるで剣のように感じた。

 包丁で切ろうとした時は、まるで時代劇の時に聞こえてくる刃物同士がぶつかるような音がしたからな。

 俺の知っているネギは、包丁を弾いたり化け物を真っ二つにしたりはしない。


「これって……本当にネギなのか……?」


 その疑問だけが残った。

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