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終末世界に帰省した元社畜、実家の畑にあるネギを抜いたら聖剣でした  作者: k-ing☆孤独な王子①6/8発売


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6/9

6.社畜、疲れが取れていないようです

「はぁー、仕方ないな」


 俺は大根から大根を受け取る。

 もはや仲間を差し出しているような気分にならないのかと疑問に思ったが、特に大根も気にしていないようだ。


「じゃあ、俺は白菜を収穫して帰るから気をつけろよ」


 大根は頭の葉を揺らしていた。

 まるで大きく頷いているようだ。

 化け物のように敵対心はなく、言葉が理解できる存在が現れるとは思わなかった。


「白菜は収穫しても大丈夫か?」


 大根が動き出したなら、白菜も何か起きるのかもしれない。

 そう思うと、本当に収穫していいのかと疑ってしまう。

 大根が抜いた大根は光っていなかった。

 あの光が関係するのであれば、大根に白菜を収穫してもらえばいいのかもしれない。


「なぁ、代わりに――」


 俺が振り返ると、大根は何かに追われているのか全速力で走っていた。

 思ったよりも大根は足が速いらしい。


「あれは……うさぎか?」


 歯は長く伸び、額には大きなツノが生えていた。

 耳が長いからうさぎに見えるが、あれも化け物の一種なのかもしれない。

 その証拠に首が何回か捻ってある。


「うさぎなら人間よりも大根の方が獲物になるってことか。……いや、あいつがいたらこの畑がなくなるじゃないか!?」


 俺はすぐにネギをベルトから抜き取り、うさぎの元へ向かった。

 さすがに畑の野菜がなくなったら、食べるものがなくて、生きていけなくなるかもしれない。


「お前にはこの畑を渡さない」


 大根の目の前に立つと、俺はネギを構えた。

 ただ、大根は俺を見ると、全身震えてその場で頭を何度も下げた。

 まるで土下座をしているような格好だ。

 助けを求めているのかもしれないな。


「へへへ」


 主任のような頼られ方ではなく、本当に心から頼られている気がして、少し嬉しくなった。

 ただ、久しぶりに笑ったが、社畜生活が長過ぎてうまく笑えないな。

 すると、大根はさらに震えてうさぎに向かって走って行った。

 まるで俺から逃げているみたいだ。

 あいつは何を考えているのだろうか。


「待て!」


 声を出して止めるが、大根は止まる様子はない。

 むしろ声を出したことで、うさぎが俺に視線を向けた。

 これはこれでチャンスなんだろう。

 俺はそのままネギを振り下ろす。


「なっ!?」


 だが、うさぎは軽やかに飛び跳ね、ネギの軌道から外れる。

 まるでネギが危ない存在だと気づいているようだ。

 そのままうさぎは俺の方に向かって走ってきた。

 俺は逃げようかと思ったが、その場で立ち止まる。

 雑草が生えているところなら問題なかったが、俺が今いるところは野菜が植えてある畑だ。


 もう一度ネギを構えるが、うざきはピョンピョンと跳ねながら、俺に近づいてくる。

 狙いが定まらないため、いくらネギを振ってもうさぎが真っ二つになることはない。

 まるでネギでは切れないと思ってしまうほどだ。

 ……いや、そもそもネギでうさぎを切ろうと思っている時点でおかしい気もする。

 うさぎが勢いよく飛びかかると、俺は一歩後ろに下がった。


「うぉっととと……」


 何かが足元に引っかかると、俺はそのまま姿勢を崩して尻餅をついた。

 チャンスだと思ったのか、うさぎはさらに追撃してくる。

 近くで見れば見るほど可愛さのかけらもない。

 俺はネギを手に取る――。


「ない!?」


 手に持っていたネギは離れたところに転がっていた。

 転んだ時に手から抜けたのだろう。

 俺は咄嗟に足を引っ掛けた白菜を勢いよく持ち上げる。

 相変わらず俺が収穫すると、野菜はキラキラと輝いている。

 最悪、あのツノが白菜に刺されば身動きは封じられるだろう。


――ガンッ!


 だが、俺が想定していた状況とは異なっていた。

 白菜にうさぎのツノが刺さることはなく、その場で折れていた。

 これでは白菜があのツノよりも硬いってことになる。


「そんなに硬いのか……」


 俺は白菜が気になり、葉を一枚めくるが見た目は普通の白菜と変わりない。

 ただ、違うのはネギと同じように光っていることぐらいだ。


「うさぎは……」


 存在を忘れていたうさぎに視線を戻すと、うさぎは痙攣しており、そのまま姿を消した。

 どうやら俺はうさぎの化け物を倒せたようだ。


「白菜も変わってたんだな」


 化け物を真っ二つにするネギや生きてる大根と比べたら、ただの硬い白菜なんてそこまで驚きはない。

 試しにネギで白菜を切ってみようか。


「欠けるだけ……本当に白菜か……?」


 まさかネギでも切れない白菜がこの世に存在するとは思わなかった。

 ……いや、普通に考えたらネギで白菜を切る方がおかしいか。


「はあー、まだ寝不足なのか」


 俺は収穫した白菜と大根を持って、家に帰ることにした。


 家に向かっている最中、背後からカサカサと音が聞こえてきた。

 俺は化け物がいるのかと思い、警戒しながら足を止める。

 すると音も止まった。


「……?」


 振り返るが、そこには化け物の姿はない。

 畑の脇に生えた雑草が揺れているだけだった。

 気のせいかと思い、再び歩き出す。


――カサカサ


 やはり音が聞こえてくる。

 俺が止まれば止まり、歩けば音が鳴り出す。

 誰かに付けられているのは間違いない。


「まさか……」


 俺は歩くふりをしてすぐに振り返ると、道の真ん中に大根が立っていた。

 目が合うと急いで、雑草ばかりの畑に逃げようとしている。

 いや、大根に目があるわけじゃないんだけどな。

 何となくそんな気がした。


「お前、何してるんだ?」


 声を掛けた瞬間、一度立ち止まったが大根は慌てて近くの畑に飛び込んだ。

 だが、体の大半が飛び出している。


「隠れてるつもりか?」


 大根はぴくりと震えた。

 どう見ても隠れられていない。

 俺が一歩近づくと、大根はさらに葉を縮めて身を小さくした。


「気になるなら一緒に来るか?」


 俺は大根相手に何を言っているのだろう。

 だけど、大根はそろりと顔を出した。

 そして嬉しそうに葉を揺らす。

 やっぱり言葉は理解しているらしい。


「なんというか……犬みたいなやつだな」


 俺が歩き出すと、大根も後ろをついてくる。

 将来大根にリードをつけて散歩をする日が来るのかもしれない。

 ……いや、そんなことをしていたら、確実に病院受診を勧められそうだな。

 そんな俺とは正反対に大根は少し距離をとって付いてきていた。

 まだ警戒はしているのだろう。

 だけど、どこかで俺を助けてくれた存在だと思っているのかもしれない。

 あるいは――。


「親だと思われていたりしてな」


 冗談半分で呟く。

 すると大根は葉をぶんぶん振った。

 なぜか肯定された気がした。

 

「いや、違うよな?」


 大根は再び葉を振った。


「どっちなんだよ……」


 俺は頭を掻きながら祖父の家へ向かった。


 ♢


「じいちゃん、ただいま」

「おお、遅かったな」


 心配だったのか祖父は上り框に座ったまま待っていた。

 祖父は顔を上げると、俺の後ろを見たまま固まった。


「……修平」

「どうした?」

「お前の後ろにいるのは何だ?」


 俺は振り返る。

 そこには大根が行儀よく立っていた。

 ああ、普通はそういう反応になるだろう。


「大根だな」

「ああ、大根だな」


 祖父も頷く。

 二人で数秒ほど沈黙した。

 大根はあいさつをしているのか葉を揺らしている。


「……動いておるぞ?」

「ああ、大根も歩くようになったらしい」

「わしの知っとる大根は動かんぞ?」

「いや、俺の知ってる大根も動かないはずなんだけどな……」


 再び沈黙が流れる。

 祖父は目を擦り、もう一度大根を見る。


「ついにわしも認知症になったのかもしれんな……」


 祖父は遠い目をしていた。

 立て続けにこんなことが起こればそう思っても仕方ない。

 

「それを言ったら、俺も疲れてるのかもしれないな」

「ははは、世の中大変だな」

「そうだね」


 二人で乾いた笑いを漏らす。

 すると大根が心配そうに近づき、祖父の足を頭の葉で叩く。


「ん? 慰めてくれたのか?」

「そうじゃない?」

「優しい大根じゃな」

「そうだね」


 もはや何がおかしくて何が普通なのか分からなくなってきた。

 ただ一つ分かったのは、大根が俺の家について来たということだけだ。

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