33.社畜、我が家を案内する
少年を自宅で寝かせると、俺は拓也たちと共に畑に向かう。
さすがにたくさんの野菜を家には置いていないからな。
「なあ、今って夏なのか?」
「なわけないだろ。すでに寒くなってるだろ」
「だよな……。でも、こんなに夏野菜が畑にあると季節を勘違いする」
驚いているのは拓也だけではない。
みんな畑にある野菜を見て驚いていた。
いや、子どもたちだけは違うな。
「わぁー、どれがいいかな!」
「父ちゃん、俺あのトマトがいい!」
「私もダイコちゃんが欲しいな」
一緒に収穫を手伝ってくれる子どもたちは目をキラキラとさせていた。
特にダイコの葉を三つ編みしていた女の子は、植えてある大根に興味津々だ。
きっと自分専用の大根が欲しいのだろう。
ただ、俺が大根を抜いても、ダイコ以外は動かない。
大根たちが畑を耕してくれるのも、ダイコが命令した時だけだから、運良く出会えるだろうか。
「そのうち新しい大根と仲良くなれるといいね」
「うん!」
少女は元気よく返事をした。
大根と仲良くなるって普通では考えられない経験だろう。
まぁ、化け物が出たこの状況がすでに普通ではないけどな。
「じゃあ、食べたい分だけ収穫するか」
「えっ……いいのか?」
俺の言葉に拓也や他の大人たちは驚いていた。
さすがに何も知らなければ驚いても無理はない。
避難所では食べ物も切り詰めて生活していたぐらいだ。
「一週間もあれば野菜はできるぞ」
「もう何から突っ込めばいいんだ……」
拓也も考えるのをやめたのだろう。
畑で収穫を始めると、ここぞとばかりにみんな収穫を始めた。
それに収穫が間に合ってなかったから、手伝ってもらいたかったからな。
服が土で汚れても気にすることなく、ただ黙々と収穫をしていた。
よほどお腹が空いているんだろう。
「見て見て! 一番大きいトマトあったよ!」
「それは俺が先に見つけたんだぞ!」
「お前ら喧嘩しな……あっ……」
子どもたちは我慢できなかったのだろう。
その場でトマトをかぶりついていた。
「「うめぇええええ!」」
まるで羊かヤギが現れたかのように、少年たちは喜んでいた。
「勝手に食べてすみません……」
「子どもはあれぐらい元気があった方がいいですからね」
親たちは何度も頭を下げているが、特に気にしていない。
「私のダイコちゃん、いない!」
一方、少女は一生懸命大根を収穫しては、動くか確認していた。
ダイコも俺の方をチラチラと見てくるが、むしろお前はどうやって生まれたのか聞きたいぐらいだ。
ある程度収穫を終えると、倉庫からカゴを取り出しに行く。
「じゃあ、ここに入れて……どうしたんだ?」
だが、みんなはその場で立ち止まり、俺の背後に視線が向いていた。
「すごい量の野菜だな……」
拓也の口からボソッと言葉が溢れ出るほどだ。
「今日の朝にできるだけ収穫して避難所に持って行ったんだけどな」
それぐらいカゴの中から野菜が飛び出ている。
俺が苦笑すると、自然とみんなからも笑顔が出てきた。
食べるものがたくさんあるだけで、不安は一気になくなるからな。
収穫した野菜をみんなで運ぶ時も、避難所にいた時とは打って変わり、笑顔で野菜をどうやって食べるか話をしていた。
あまり野菜を好まない子どもたちも、生トマトと連呼するぐらいだから、きっと食べ物に関しては困らないだろう。
「ただいまー!」
「「「ただいまー!」」」
子どもたちも元気に声を出して家の中に入っていく。
もう自分の家みたいな感覚になっているのだろう。
こんな世界になって、少しでも日常に戻れるならよかったと安堵する。
「おかえりなさい。子どもたちがご迷惑を――」
「母ちゃん、僕が収穫したトマトだよ!」
「俺の方が大きいぞ!」
「あら、二人とも立派なやつを採ったのね」
すぐに母親たちが玄関まで迎えに来ると、子どもたちは我先にと自分の収穫した野菜を見せていた。
その姿がどこか懐かしく、そして愛おしく感じる。
「修平、おかえり」
「じいちゃん、ただいま」
遅れて祖父も玄関までやってきた。
手には掃除機を持っていた。
さっきまでみんなで掃除をしていたのだろう。
「みんなお腹が減っていそうだから、簡単に食べられるものを用意した方がいいかも」
「そうか。なら、今日は生野菜パーティーだな!」
祖父はそう言って、台所に向かっていく。
ご飯ができるまではテーブルを出して――。
準備をしようとしたが、畑仕事で泥だらけになっているのが目に入った。
「あっ、みなさんお風呂に入ります?」
「「「お風呂!?」」」
みんなの驚いた声が重なった。
きっとそういう反応になってもおかしくないからね。
「温度調節できないですけど、湯船に入りれますよ」
俺の言葉にみんなキラキラと瞳を輝かせていた。
特に女性陣からの眼差しがすごい。
俺が圧迫されそうになるぐらいだ。
すぐに浴室へ案内するが全員は入れないため、興味津々に顔だけ浴室に入れていた。
「すぐに準備しますね」
俺はすぐに浴室に用意してあるペール缶にきゅうりとトマトをセットする。
きゅうりとトマトのおかげで我が家でも気軽にお風呂に入れるようになった。
って言ってもシャワーはないから、お湯をかける仕組みだ。
「ここの缶にお湯が溜まる仕組みになってますので、浴槽から桶でお湯をすくって使ってください」
「これはどういう仕組みなんだ?」
拓也が首を傾げていた。
避難所で俺がきゅうりの噴水を作ったのを忘れたのか?
「きゅうりから水を出して、その下のトマトで水を温めている」
きゅうりからは水が溢れるぐらい出てくるし、下のトマトが火の代わりになって温めてくれる。
無限にお湯が溢れ出てくるのを浴槽の中に溜まるように置けば、きゅうり水の源泉垂れ流し湯の完成だ。
「中々豪華な水の使い方だ……」
「ついさっきまで一滴の水すら大事にしていたのにな……」
我が家の野菜は美味しいだけではなく、万能な食べ物だからな。
それに湯を止めたければ、俺以外がきゅうりとトマトに触れたら止まるから問題ない。
「お前ら、風呂に入る――」
「「父ちゃん、早く早く!」」
兄弟はすでに服を脱ぎ捨て、いつでも風呂に入る準備はできているようだ。
「よし、俺も――」
「あんたら、静かにしなさい! お父さんもみんながいる前で脱がない!」
「あっ、すまん……」
日常の一コマについ笑みが溢れる。
きっとお母さんが強い家庭なんだろうな。
「なあ、これ俺の家にも付けてもらえるか?」
鴨田さんもお風呂に興味を示したのだろう。
養鶏場にはほぼ毎日通っているから、設備の問題はない。
「明日にはできるように準備しますね」
プロパンガスが使えるから今は必要なくても、今後のためにもガスは残しておきたいのだろう。
「缶は準備しておくからいいぞ」
よほど嬉しいのか鴨田さんはニヤニヤとしていた。
あの顔はきっと何かするつもりだぞ。
その後も順番にお風呂に入っていくが、浴室からは感動する声が響いていた。
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