32.社畜、家に帰る
「宮沢さんは山を越えた先に住んでるんですね」
「ええ、祖父母と暮らしてますよ」
俺は助けた夫婦と少年を連れて、我が家に戻っていく。
もちろん窓は全開に開けている。
心地良いを超えて、寒くなってきた。
ただ、窓を開けてないと、助手席からにんにく臭がして気絶しそうになる。
帰ったらハミガキでもしてやろう。
「宮沢さんの年齢なら、おじいさんとおばあさんは高齢になりますね」
「年齢はいくつか忘れましたけど、祖父はいいんですが、祖母が認知症で……」
「あっ、それなら私も力になりますね!」
バックミラーに映る女性はどこか嬉しそうにしていた。
まるでその言葉を待ってましたと言わんばかりだ。
「私、元々介護士として働いていたんです」
「介護士!?」
俺はすぐに後ろを振り返った。
「修平さん、危ないです!」
「あぁ!」
旦那さんの声に俺はすぐに視線を戻した。
まさかこんなところで介護士に出会うとは思わなかった。
畑作業を手伝ってもらおうかと思ったが、作業中の祖母に見てもらった方がよほど仕事としては合っているだろう。
それに子どもたちが増えれば、手がかかるからね。
「子どもが生まれる頃には辞めちゃったんですけどね」
話を聞くと、子どもが生まれるまでは施設で働いていたらしい。
子どもの成長を間近で見たいってなったら、仕事の時間がシフト制になる介護士だと働きにくいのだろう。
俺も帰ってくる前の祖母の状況、今の祖母のことについて話していると、我が家が見えてきた。
「この先が我が家になりますね」
車を止めて家の中に入っていくと、庭先で佐々木さんがクルクルと散歩していた。
『ゴゲゴッゴオオオオオオオ!』
目が合うと、翼を羽ばたかせて俺の頭の上に乗ってきた。
相変わらず俺の頭を特等席だと思っていそうだな。
「おっ、修平おかえり!」
佐々木さんの声に気づいたのか、鴨田さんが家から出てきた。
祖父母の面倒を見に来てくれたのか、家にいたらしい。
「鴨田さん、ありがとうございます」
「おう! いつでも任せて……後ろの方たちは?」
鴨田さんは車から降りてきた夫妻が気になったのだろう。
「避難所から行く先を探している人たちですね。畑を手伝ってもらおうかと――」
「そうか、よくやった!」
なぜか鴨田さんは嬉しそうに俺の肩を叩いていた。
「養鶏場に興味はないかい?」
「「えっ……」」
突然、声をかけられて夫婦も戸惑っている。
ただ、鴨田さんには言ってはなかったけど……。
「まだここに呼んだ人はたくさんいますよ」
「そうなのか?」
しばらくすると、一台のファミリーカーがやってきた。
もちろん拓也とダイコが乗るもうひと家族の夫妻と子どもたちがいる。
「わあー、鶏がいる!」
「いいな! 僕の上にも乗ってー!」
勢いよく車から降りてきた子どもたちに佐々木さんはキョロキョロとしていた。
今までこの辺に子どもがいることは少なかったからな。
「全員で何人連れてきたんだ?」
「全員で九人ですね」
「九人……?」
鴨田さんは一人ずつ数えていくが、首を傾げていた。
「あと一人は……」
「あっ!」
俺はすぐに車の助手席から、少年を抱えて運び出す。
「ここに子どもが一人……」
「ああ、これで九人……臭っ!?」
寝息を立てている少年の臭さに鴨田さんは顔を歪めた。
「何でにんにく臭がするんだ?」
「実は彼がプテラノドン似の化け物なんですよ」
俺は小さな声で鴨田さんに伝える。
あの化け物については鴨田さんには相談していたからね。
「……じいちゃーん! 修平がおかしくなったぞー!」
鴨田さんがその場で叫ぶと、家の中から祖父が急いで走ってきた。
「修平、大丈夫……多っ!?」
祖父は外にたくさん人がいることに驚いていた。
さすがに人が増えたらびっくりするよね。
ただ、俺は祖父が走って出てきたことにびっくりした。
「じいちゃん、足痛くないの?」
「ん? もちろん痛いぞ?」
「はぁー」
自分のことを考えない祖父に俺はため息をついた。
そんなに俺がおかしくなったと聞いて心配になったのだろう。
俺は祖父の方が心配だからな。
「じいちゃん、口を開けて」
「ん? 何かするのか?」
祖父は特に怪しむ様子もなく口を開けた。
俺は野菜袋から枝豆を取り出し、数粒を口の中に入れる。
「食べてみて」
祖父は言われた通りに枝豆を食べると、少しずつ表情が明るくなり驚いていた。
「なんだこれ!? 痛みがなくなったぞ!」
「枝豆は薬になるらしい……よ?」
祖父はその場でバタバタと足を動かしていた。
どうやら本当に痛みがないらしい。
万能な薬についつい家にいる祖母に食べさせたくなる。
でも、その前に――。
「じいちゃん、全員分のご飯って用意できそう?」
「全員だと!?」
唐突に言われたら祖父もびっくりするだろう。
だって、我が家の家族や鴨田さんも含めると、大人が八人、子どもが四人。
そして……大根が一本いるからな。
「いえ、私たちは働いてもないのに食べ物を分けていただくなんて――」
俺と祖父は視線を合わせてニヤリと笑った。
「何言ってるんだ? 食べ物ならいくらでもあるから気にしなくてもいいぞ」
正直、野菜ならかなりの量を確保している。
また明日から植えても一週間もせずに出来上がるから問題はない。
「さあ、料理ができる人は手伝ってくれ」
「ありがとうございます!」
「俺も何か手伝います」
次々と祖父を先頭に家の中に入っていく。
これだけ料理ができる人がいたら、俺の出番はもうなくなるだろう。
せっかく俺の腕前を披露するチャンスだったのにな。
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