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終末世界に帰省した元社畜、実家のネギを抜いたら聖剣でした~俺が収穫した野菜だけ性能がおかしい~  作者: k-ing


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31.社畜、避難所を後にする

 俺はすぐに少年に近づき、口元に耳を近づける。


「わずかに息は……臭っ!?」


 息をしていることに驚く以前に、どこかで嗅いだことのある匂いにすぐ鼻を押さえる。


「修平、化け物は――」


 遅れて拓也とダイコがやってきた。

 だが、拓也は俺を押し退ける勢いで近づいてきた。


「俺が不甲斐ないばかりに……」


 拓也の顔が曇り始める。


「知っている子なのか?」

「ああ……この子がパンを盗んで避難所から追い出された子だ」


 その言葉に驚いた。

 まさかここで繋がってくるとは――。


「この少年がプテラノドン似の化け物の正体だ」

「なっ……何言ってるんだ! そんなはずないだろ!」

「拓也、この子の息の音を聞いてみろ」


 拓也は少年の口元に耳を近づける。


「息をして……うっ……にんにく臭がする」

「あぁ、俺が投げたにんにくを食べたから、臭いが残っているんだろうな」


 俺の作ったにんにくはかなりの悪臭を放つ。

 鼻が曲がりそうになるぐらいだからな。

 それが口の中で爆発したら、嫌でも息をするたびに臭いが放たれる。

 それに少年も息を吸うたびに臭いだろう。

 ひょっとしたらネギで真っ二つにしたと思ったが、その前にあまりの悪臭に姿が戻ったのかもしれない。

 ただ、今後も襲われないように管理が必要なのは確かだ。


「とりあえず、連れて帰るか」

「こんな山の麓には置いていけないもんな」


 俺は少年を連れて、車に乗り込んでいく。

 枝豆を食べさせようかと思ったが、今暴れられても困るから、そのまま寝かせておいた。

 ちなみに子どもの面倒を見るのはダイコの役目だ。

 身動きができないように、葉でグルグル巻きにしてもらっている。


「あの化け物は避難所を本当に襲っていたのか?」


 俺は拓也に事実を確認していく。

 本当に人間を襲うようなやつであれば、どうするか考えないといけない。

 だが、俺には少し引っかかることがあった。


「ああ。避難所の食料を保管しているところばっかりだったけどな」

「やっぱりそうか」


 拓也の言葉に予想が確証に変わっていく。


「どうかしたのか?」

「いや、たぶんその子は人を襲うつもりないぞ」

「どういうことだ?」


 まだ拓也は気づいてないのだろう。

 この少年はなぜ俺の畑によく来ていたのか。

 そして、避難所の食料を保管している場所ばかり襲っていたのか。

 それはさっき避難所に来た時の動きが関係していた。


「腹が減っているんだろうな。さっき避難所で俺と目が合うまではカゴに入った野菜を見ていたからな」

「だから俺たちを襲わなかったのか!?」

「まあ、起きてから話を聞いてみるしかない」


 最後は少年に聞いてみないと、理由なんてわからない。

 認知症の祖母だって、認知症の影響かもわからず襲ってきたからな。

 化け物なのか、それとも俺たちと同じ存在なのか。


「とりあえず、あいつらをどうするか考えたほうが良さそうだな」


 気づいた頃には避難所に到着した。

 視線の先には避難所の人たちがいる。

 俺たちが必死に化け物と戦っていたのに、避難所からは言い争いをしている声が聞こえてきた。


「私たちは元から家族と別に生きていくつもりでしたよ!」

「なら私たちがあの兄ちゃんに付いて行ってもいいじゃないの!」

「そんな勝手なことがばかり言うから、拓也さんが怒ったんじゃないのか?」

「あの人は警察だからいいんだよ!」

「そんなもん通用するはずがないだろ! そもそもあんたらは自分たちで生きようとしないのか!」


 その様子に俺は呆れてくる。

 ここまで世界が変われば、人って変わるもんなんだな。

 拓也もそれは思っているだろう。


「お前がやりたいようにすればいい」

「そうだな」


 俺たちが避難所に着くと、すぐに気づいたのかこっちに寄ってきた。


「怪我はしてないですか?」

「何かやれることはあるか?」


 助けた人たちはすぐに拓也の元に駆け寄ってきた。

 ただ、俺のところにも寄ってくるやつらはいる。


「あいつらが後でいいって言ってたから、先に俺たちを保護してくれ!」

「私たちも助けてくれるのよね?」


 なぜこの人たちは自分のことしか考えてないのだろう。

 俺は相手することもなく、気にせずそのまま拓也の元へ歩いていく。


「ちゃんと化け物は倒したから、今すぐに移動しましょうか」

「本当ですか? 少し休んでからの方が――」


 こんな状況なのに、俺たちの体を心配をしてくれるいい人たちだ。


「いや、家に祖父母を残しているので……」

「ではすぐに車の準備をしてきますね」


 男性はすぐに使える車を用意しに行った。


「おい、俺たちも連れてってくれるんだろ?」

「そうよ! 無視してないで教えてちょうだい」


 あまりにも自分勝手な言葉に俺はため息が出てくる。


「はぁー、あのなあ――」

「そろそろいい加減にしたらどうなんだ? いつまで人任せにするつもりなんだ」


 俺より先に拓也が一歩前へ出た。

 そこにはいつもの穏やかな表情の拓也はいなかった。


「こんな状況なんだぞ? 誰かが助けてくれるのを待っているだけじゃ生き残れない」

「で……でも警察なんだから私たちを守る義務が――」

「あるわけないだろ!」


 拓也の声にその場が静まり返る。

 警察官として厳しく律する時は、あんな表情で働いていたのだろうな。

 怒るわけでもなく、それでいてどこか現実を諭すかのような優しさを感じる。


「もう警察も消防も自衛隊も……今まで通りには動けない。俺一人に何ができる」


 誰も拓也の言葉を言い返せない。

 拓也は間違っていることを言ってないからな。

 化け物が現れてそろそろ一ヶ月になろうとしているのに、国は何も機能していない。

 助けてくれるなら、山奥の我が家より街中のここはどうにかなってるだろう。


「俺は今まで、少しでも多くの人を助けようと思ってここに残ってきた」


 拓也は避難所を見回す。

 俺と目が合うと、小さく頷いた。

 きっと、拓也も覚悟が決まったのだろう。


「だけど、お前たちは違う」

「何が――」

「食料を持ってきてくれ。守ってくれ。連れて行ってくれ。いつもそんなことばかりしか言わなかった」


 避難所の人たちは気まずそうに目を逸らす。


「ここには自分で動こうとした人もいた。家族を守るために荷物をまとめた人も。そういう人なら、俺はいくらでも力を貸す」


 一呼吸置き、拓也は静かに続ける。


「自分で何もしないで、誰かに責任を押し付ける人まで俺は守り続けることはできない。俺は正義のヒーローじゃないんだ!」


 その言葉に反論する者はいなかった。

 拓也は警察官でもあるが、正義のヒーローではなく、ただの人だ。

 少し不思議な力があるだけで礼も言われず、己を守ってくれる道具ではない。


「これから先、生き残るために必要なのは警察じゃない。自分で生きようとする覚悟だ」


 拓也はそう言うと、俺の方へ振り返る。


「修平」

「なんだ?」

「俺もお前たちと一緒に行く」


 その一言に避難所は再びざわめき始めた。

 その中には俺を睨みつける人までいる。

 ここの避難所で守られていた人たちにしたら、俺が来たから拓也が変わったと思っているだろうからな。

 だが、すでに拓也は限界だった。

 俺が来なければ、拓也はもっと苦しんでいただろう。


「あのでかい化け物はいなくなったんだ? 何か問題はあるのか?」

「いや……」


 俺の言葉に周囲は静かになる。

 一番の問題は解決したからな。


「ここには水もあるし、食べ物も置いてある。もう十分だろ」


 俺が持ってきたたくさんの野菜やきゅうりでできた噴水があれば、しばらくの間は生きていけるだろう。

 そこまで俺も鬼ではないが、今すぐに助けてあげるつもりもない。

 俺はただの農家(・・)だからな。


「車の準備できました!」


 すぐに車の用意ができたのか、一台のファミリーカーを持ってきた。

 やけに綺麗にされており、大きな傷も目立たない。


「なっ……それは俺たちが逃げる時に――」

「あんた!」


 すぐに話そうとしていた男の口を女性が塞いでいた。

 この人たちはどこまで自分勝手なんだ。

 まさか自分たちが逃げるためだけに用意していたとはな。


「ダイコと拓也はあっちに一緒に乗ってくれ!」


 俺の言葉にダイコはその場で項垂れていた。

 さっきからずっと子どもたちに遊ばれているからな。


「あの大根はそちらの車に乗った方が……」

「いや、ダイコは俺よりも危機管理能力が高いからな」


 ダイコはすぐに立ち上がり、満更でもない様子で子どもたちの手を引いていく。

 まさかダイコと手が繋げるとは思ってなかったのか、子どもたちも驚きながら楽しそうに車に乗り込んでいく。


「乗れない人たちは俺の車に乗ってくれ。あっ、にんにく臭いけど、それは許してくれよ」


 俺の車には保護した少年がいるからな。


 次々と車に乗り込むと避難所にいた人たちは諦めたのだろう。


「この人殺し!」

「あいつらは悪魔だな!」


 そんな言葉が飛び交っていたが、俺は気にしない。

 大事なのは家で待つ祖父母だからな。


「人殺しで悪魔か……」

「ははは、ならあいつらはクレーマーじゃないか?」


 俺がそう言うと、拓也は思わず吹き出した。


「違いない」


 俺は拓也と別れて、車で避難所を後にした。

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