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終末世界に帰省した元社畜、実家の畑にあるネギを抜いたら聖剣でした  作者: k-ing☆孤独な王子①6/8発売


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3/11

3.社畜、祖母の変化を知る

「じいちゃん、大丈夫だった?」

「おい……今のはなんだ!?」


 祖父は驚いてその場で腰を抜かしていた。

 そりゃー、目の前で突然化け物が真っ二つになったら驚くよな。


「いや、俺もあいつらのことは――」

「いやいや、修平の持ってるネギだ!」


 俺は手に持っているネギを見つめる。

 どうやら化け物よりネギの方に驚いたようだ。


「いやー、ネギって万能なんだよ」

「わしまで認知症になったのか……」

「それは大変だね」


 祖父まで認知症になったら、俺が二人の面倒を見ないといけなくなる。

 さすがにそれは大変だろう。

 祖母も化け物が出てきたのに、今も虚ろな顔をして、車の中で座って待っているからね。


「とりあえず、疲れたから帰ろうか」

「そうだな……」


 俺は祖父母を乗せて、再び車を走らせた。

 よく祖父が送迎してくれた学校の帰り道。

 今はその道を俺が運転している。

 どこか懐かしいその光景――はない。

 住宅街は荒れて、焼け落ちた家の横を通り過ぎていく。


「じいちゃん、街はいつから変わったんだ?」

「いつからって……もう二日ぐらいになるんじゃないか?」


 二日で街が荒れて、人が住める状態ではなくなるのか。

 そもそもあの化け物が何なのかもわからない。

 犬形もいれば、人型をしたやつもいる。

 俺が轢いたシカも消えたから、化け物だったのかもしれない。


「東京ではそんなニュースなかったけどな……」

「修平、本当に大丈夫か? 東京でも謎のウイルス感染が流行ってたってテレビで言ってたぞ」

「そうなのか? 仕事が忙しくて気づくのが遅かった――」


 俺は車内モニターをチラッと見ると、違和感を覚えた。


「じいちゃん、今日って何月何日?」

「わしまで認知症扱いか? 今日は11月28日だぞ」


 きっと認知症の検査に日付を確認するものがあるのだろう。

 祖父は自身も認知症だと疑われていることに、少し怒っていた。

 だが、日付を聞いたのは、俺自身が確認したかったからだ。

 中古で買った昔の車だから、車内モニターが壊れたのかと思った。

 俺が東京で仕事をしていたのは11月26日の日付が変わる前だった。

 仕事終わりに車を走らせて、27日にはこっちに着いて、昼まで駐車場で仮眠したはず。

 なのに今は28日の夕方ってことは――。


「まさか……丸一日寝ていたのか……」


 車内モニターには11月28日と書いてあるから、祖父の言っていたことは間違いではないだろう。

 どうやら俺は周囲がこんな状況になっているのにも関わらず、仮眠と言いながらも深い眠りに落ちていたようだ。


 しばらく運転していると、俺が育った我が家が見えてきた。

 俺は車を止めると、周囲を警戒しながら家の中に入っていく。

 しっかり右手にはまだ輝きが残っているネギを持っている。


「化け物はいないか?」

「たぶん大丈夫だよ」


 祖父は祖母の手を握り、俺の後ろを付いてくる。

 一通り家の中を確認すると、祖父は息を吐いてゆっくりと腰をかける。


「また戻ってきちまったな」

「避難所にいるよりはいいんじゃないの?」


 俺はまだ立っている祖母を見つめる。


「ばあちゃん、いつから認知症なの?」

「ああ、修平が出て行って、しばらくしたらおかしくなってな……。きっと気が抜けたんだろう」


 どうやら俺が東京に行ってから、少しずつ祖母の様子は変わっていったらしい。

 だけど、祖母はよく電話をかけてくれていたし、ここにくる前にも留守番電話で祖母の声が残っている。

 俺はわずかに電波が繋がっているスマホで留守番電話を再生する。


「ははは、ばあさんはな……。認知症になっても修平のことを気にしてたんだ」


 祖父の話では夜になると、時折電話の前で俺に電話をかけていたらしい。

 色々なことがわからなくなっていくのに、それでも東京で働いていた俺を心配していたのだろう。


 最近は何度も電話機の前に座り、受話器を取っては戻す。

 それを繰り返していたらしい。

 傍から見たら認知症による奇妙な行動に思えたかもしれないが、祖母は一生懸命電話をかけようとしていたのかもしれない。

 その証拠として、電話機には直接俺のスマホの番号と押し方が書いてあった。

 今まで電話すら返さず、帰ってこなかったのに、今となっては後悔しかない。

 俺は立ち上がり、祖母の元へ向かう。


「ばあちゃん……今まで迷惑かけてごめんね」


 今頃謝っても遅いだろう。

 それでも、祖母はわずかに口元を緩めて笑ったような気がした。


「修平!」


 だが、俺の手は勢いよく祖父に引かれた。

 体がぐらっと後ろに倒れると同時に、大きく口を開けた祖母が襲ってきた。


「ばあちゃん!?」


 突然の出来事に俺はただ驚くことしかできなかった。

 近くに転がっているネギに手を伸ばす。

 だが、俺はその場で力を抜いた。

 どうしてもネギを祖母に向けることはできなかった。


「ばあちゃん、落ち着いて。大丈夫だから!」


 俺はすぐに身動きができないように祖母を抱きしめる。

 正確にいえば、腕と足を絡めて動けないようにした。


「ぐわああああ!」


 それでも祖母は俺に噛みつこうとしてくる。

 ただ、祖母の口には歯が一本も残っていなかった。

 以前は小さく笑った時に口元を隠しても、歯が残っていたのにな……。


「ばあちゃん、暴れるのはやめんか!」


 祖父は祖母の口元にタオルを咥えさせると、そのまま手を縛った。

 口を封じられたからか、少しだけ祖母は大人しくなった。


「修平、ばあちゃんを縛りつけるからこっちまで運んでくれ!」


 俺は言われた通りに祖母を抱える。

 小さい頃は持ち上げられなかったのに、今は軽く持ち上がった。

 俺を見上げる祖母の顔は少し血走った目をしていた。

 言われた通りに祖母を運ぶと、祖父はすぐにロープで祖母を柱にくくりつけた。


「じいちゃん、やりすぎじゃない?」

「いや、こうでもしないとまた暴れるからな……」


 祖父の話では一昨日ぐらいから、祖母は突然攻撃的になったらしい。

 以前は、暴れて物を投げたり、部屋の中で粗相をしようとする程度だったらしい。

 どちらにせよ、あの時の優しい祖母はどこにもいないようだ。


「なあ、じいちゃん……」

「なんだ?」

「ばあちゃんって化け物になったわけじゃないよね?」


 俺がネギを祖母に向けられなかったのは、祖母も化け物になってしまったのではないかと思ったからだ。

 もし、本当に祖母が化け物だったら、ネギを向けてしまえば跡形もなく消えてしまう。

 頭の中でその事実だけが、こべりついて離れなかった。


「何言ってるんだ! ばあちゃんは認知症だって言ってるだろ!」

「そうだよね……。まあ、さっきまで静かだったもんね!」


 きっと祖母は化け物ではなく、認知症だろう。

 俺はそう自分に言い聞かせながら、床に転がっていたネギを拾い上げる。


「なんでお前が光ってるんだよ……」


 ネギは相変わらず淡く輝いていた。

 意味がわからない。

 だけど、このネギがなければ、俺たちはさっきあった化け物にやられ死んでいたかもしれない。


「修平……」

「どうした?」


 祖父は柱に縛られた祖母を見つめながら、小さく息を吐いた。


「今日は……帰ってきてくれてありがとうな」


 その言葉に、俺は返事ができなかった。

 今まで一度も帰ってこなかったくせに。

 連絡だってまともに返していない。

 俺は自分が辛くなって帰ってきただけだ。


「……うん」


 それでも祖父は嬉しそうに笑っていた。

 俺は視線を逸らすように窓の外を見る。

 日が沈み、いつのまにか外は真っ暗になっていた。

 相変わらず田舎だからか、人の声は聞こえない。

 その代わり、どこからか獣のような唸り声だけが聞こえてくる。

 この辺は昔から静かだったことを忘れていた。

 都会では夜も人の声がわずかに聞こえてくるのが当たり前だったからね。


「今日はもう休め。話は明日にしよう」

「そうだね……」


 考えないといけないことは山ほどある。

 あの化け物は何なのか。

 街はどうなっているのか。

 食料や水はどれだけ残っているのか。

 だけど今は、頭が上手く回らなかった。

 その時だった。

 ぎぎぎっと音を鳴らすように、柱に縛られた祖母が首を動かす。


「っ……」


 血走った目が、ゆっくりと俺の手に持っているネギを見つめていた。

お読み頂き、ありがとうございます。

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