27.社畜、イライラする
俺はすぐに野菜を収穫して、腰ベルトに装着する。
いつ化け物が来ても、戦えるように準備した結果だ。
って言っても玉ねぎやにんにくを入れるネットをぶら下げているだけ。
「まずはナスで牽制だな」
手にはいくつかナスを持っている。
雷がどうやって化け物に当たるかはわからないから、いくつも使えば一回は当たるだろう。
萼を広げて、電気を溜めれば準備完了だ。
「今度こそ逃さないぞ!」
いざ、放電!
俺はナスを大きく振り下ろす。
『グゥア――』
――バチンッ!
化け物が咆哮をあげようとした瞬間、紫の稲妻がやつの頭上に落ちた。
『グゥアアアアア!』
当たればいいなと思った程度なのに、一発目から当てることができた。
化け物は声を上げながら、上空から落ちてくる。
様子を見ていると、急いで体勢を持ち直してその場から逃げようとしていた。
あれだけ恐れていた存在だったのに、立場が変わればどこか可愛く見える。
でも、この間襲われた時のことは忘れてないぞ。
「逃すか!」
今度は両手にナスを持って大きく振り下ろす。
――バッチイイイン!
耳を塞ぎたくなるほどの音が空いっぱいに鳴り響くと、大きな稲光が再び化け物に向かって走った。
ナスを二本使ったからか、雷の大きさも倍近くある。
「対空特化だな……」
まさかあそこまで化け物を狙って雷を操れるとは思わなかった。
何か操るための法則があるのかと思ったが、狙ったかのように化け物に向かっていた。
その後も化け物がこっちに向かってくるかと見張っていたが、上空に姿を現すことはなかった。
頭が良い化け物だから、飛んではダメだと思ったのだろう。
もしくはあの雷で退治できたかのどちらかだ。
「まあ、畑も無事だからいいか」
俺は隣にいたダイコに声をかける。
祖父母と一緒に避難すると思ったのに、まさかこの場に残るとは思わなかった。
ダイコも畑を守ろうと思ったのだろう。
ただ、その畑は特に被害が出ることなく、そのままの状態だ。
「俺たちも帰ろうか」
撃退のために用意した野菜はほとんど使うことがなかった。
使ったのはたった三本のナス。
一回の雷に一本なのか、光を失って普通のナスと変わりない。
「今日はナスの煮浸しとか焼きなすもいいかもな」
ダイコはナス料理を思い浮かべているのだろう。
葉を大きく揺らして、俺の後ろに付いてきた。
――三日後
ナスの雷が効いたのか、あの化け物が畑へ現れることはなかった。
おかげで野菜たちは順調に育ち、畑はますます賑やかになっている。
「トマトも赤くなってきたな」
真っ赤に色付いた実を一つ摘み取る。
十二月の景色とは思えない。
寒空の下で夏野菜が実っている光景は、何度見ても頭がおかしくなりそうだ。
それに三日しか経ってないのに、畑が別物みたいだからな。
「修平、すぐに収穫しないと種になるぞ」
「でもさすがに食べきれないよ」
成長促進でもある人参を畑に植えると、成長が早いため短期間に収穫ができる。
その反面、収穫するタイミングを逃すと、すぐに花が咲いて種になってしまう。
人参を与えすぎた影響か、最近は何もしてないのに畑がキラキラと光っているからな。
昔使っていた倉庫を綺麗にしたけど、俺たちだけでは食べるのにも限界がある。
「鴨田さんの養鶏場に持って行ってもまだあまりそうだからな……」
「それなら避難所に持っていくのはどうだ?」
「あー、腐るぐらいならその方がいいか」
せっかくできた野菜だ。
祖父の言うとおり、困っている人がいるなら分けてもいいだろう。
「ついでに枝豆も持っていくか」
その中で効果がわからない枝豆もついでに持っていくことにした。
土に入れても何も起きないし、色々触ったり、投げたりしても意味がなかった。
肝心のダイコも葉を横に振っていたからな。
ちなみにトマトはナスと同じナス科なのもあり、萼を広げると発動した。
トマトは熱く燃え上がり、投げると火の玉のようになった。
ナスは雷属性で、トマトは火属性ってまるで魔法みたいだ。
俺は収穫した野菜をカゴにいくつも詰めて車に乗せる。
「じゃあ、行ってくるよ」
「気をつけるんだぞ!」
祖母を連れて行って、また嫌なことを言われる可能性もあったため、祖父母には家で留守番をしてもらうことにした。
何かあった時のために、出かけることは鴨田さんにも伝えたから大丈夫だろう。
車を走らせて町に向かった。
この間町へ行ってから半月以上経っている。
ただ、この短い期間で町の姿はさらに変わっていた。
「なんだこれ……」
道路には荒らされた車や割れたガラス。
前まで残っていた店や家も完全に荒らされている。
以前より明らかに街の治安が悪化している。
「食料不足だったりするのか?」
思わずそう呟く。
途中で見かけたスーパーの店内は妙にスカスカだった。
ガラス越しでも棚の商品がほとんど残っていないのがわかる。
避難所へ近づくと、さらに何かが起きたんだと実感する。
「映画かよ……」
外からの侵入を防ぐように車が何台も積み上げられ、簡易的なバリケードになっていた。
まるで映画に出てくる要塞だ。
その向こうから見張りらしき人がこちらを見ていた。
「おーい! 拓也ー!」
俺は大きく手を振る。
すると、見張り台のような場所から一人の男が顔を出した。
「修平!?」
それは同級生の拓也だった。
だが、その顔は以前と別人のようにやつれている。
目の下には濃い隈ができ、頬も少しこけていた。
見張り台から降りてくると、隙間からこっちに出てきた。
「どうしたんだ? その顔……」
「寝れてないんだよ」
拓也は苦笑した。
警察官だからずっと見張りをしているのだろうか。
それなら役割分担をすればいいものを――。
「化け物は来るし、食料は足りないし、揉め事は増えるしな」
その言葉だけで、避難所の状況が伝わってくる。
それなら今このタイミングで俺が来たのはナイスタイミングだろう。
俺は車のバックドアを開ける。
「持ってきて正解だったな」
「それは……」
車の中を見た拓也の目が見開かれる。
街の様子を見た感じ、ここの人たちも一番欲しかったものだろう。
「光ってる……」
拓也は何度も瞬きをしていた。
野菜が光って見えるのだろう。
だが、現実も光ってるぞ。
「食料だ! まあ、野菜しかないけどな」
「助かった!」
拓也はその場で抱きついてきた。
この間よりも全体的に細くなり、筋肉も落ちていた。
ただ、この光景を見ていたのは拓也だけではない。
周囲にいた人たちもざわつき始める。
「本物の野菜だ……」
「野菜なんていつぶりだ?」
「助かった……」
安堵の声が広がり、少しは役に立てたことが嬉しかった。
だけど、そんな気持ちも長くは続かない。
「おい、待てよ」
一人の男が前に出る。
明らかに威張っている様子が鼻につく。
拓也も表情を変えてはないが、あまり好きではないのだろう。
目つきが鋭くなっていた。
「なんでお前だけそんな野菜を持ってるんだ?」
その一言で周囲の空気を変えた。
「確かにあれだけ野菜があるのはおかしいわね」
「俺たちは毎日非常食で我慢してるんだぞ」
「そうだ!」
「なんで今まで持って来なかった!」
「自分たちだけ食ってたんじゃないのか!」
次々に非難する声が飛ぶ。
さっきまで感謝していた人たちまで顔を曇らせていた。
「トマトやナス……きゅうりもあるってことは、あの人がスーパーの食べ物を一人で取ったんじゃないのかしら!」
「おい、なんか言ったらどうなんだ? 泥棒!」
「そうよ! あの人が泥棒よ!」
気づいたら周囲の人から俺は泥棒と連呼されていた。
普通に考えたら、泥棒がわざわざ野菜を持ってくるわけないだろう。
それに気づけないほど、避難所の生活が過酷なのかもしれない。
「俺は泥棒じゃない!」
「なら、自分で作ったって言うのかよ! 夏野菜が急にできるわけないだろ!」
まあ、普通はそう思うよな。
十二月に夏野菜が大量収穫できるなんて言われても信じないだろう。
「落ち着け!」
そんな俺たちの間に拓也が入る。
だが、その声にも余裕はない。
何日も積み重なった疲労が見て取れた。
きっと毎回拓也が間に入って、喧嘩を止めていたのかもしれない。
警察官だからってこんな世界になったら、職種は関係ないだろう。
「修平は――」
「だったら説明してみろよ!」
怒号が飛ぶ。
俺も少しイラッとしてきた。
別に好意で野菜を持って来たのに、俺がここまで文句を言われる筋合いはない。
「いらないなら持って帰るだけだ」
俺はいくつか野菜を取り、拓也に手渡す。
「お前にあげるつもりで来たから、それだけ受け取ってくれ!」
「修平……」
そのまま車のバックドアを閉める。
「おい、お前だけ良い思いしようとしてるんだろ!」
「ここには子どもや老人もいるのよ」
その声にさらにイライラする。
今頃俺の祖父母は避難所にいたはずだ。
俺が田舎に帰って来たからよかったものの、そうでなければ化け物に襲われて死んでいただろう。
そんな奴らに野菜を持っていこうと言った祖父の優しさを踏みにじりやがって。
「うるさい」
俺は腰から玉ねぎを取り出した。
「修平……!?」
拓也が嫌な予感を察した顔をする。
だけど、もう遅い。
俺は誰もいない場所へ向かって玉ねぎを放り投げた。
――ドォォォン!!
爆音が響くと同時に地面が揺れ、砂埃が舞い上がった。
一瞬で全員が黙る。
「静かにしてくれ。もうお前たちには関わらないからいいだろ」
さっきまで怒鳴っていた男も顔を青くしていた。
もう避難所に来るつもりもない。
「拓也、お前だけなら俺の家に一緒に住めるけど――」
俺の言葉に拓也は首を横に振った。
「俺は警察官だ。街のみんなを守るのが仕事だからな」
ここに来ても警察官だと胸を張る拓也の姿を見て、思わず苦笑する。
こんな状況になっても、その責任感は変わらないらしい。
まったく、昔からこういうやつだった。
だからこそ信用できるし心配にもなる。
「わかった。だけど何か助けて欲しかったら――」
「そんな力があるなら化け物を倒してくれよ……」
拓也の声かと思ったら、さっきまで俺に文句を言っていた男だ。
その声に周囲が静まり返る。
「もう限界なんだよ……。毎回食べ物は奪われ、死にたくても死ねない……なあ、お前たちなら化け物を倒せるだろ……?」
男の叫びに俺は黙り込む。
本当なら関わるつもりはなかった。
今すぐにでも帰りたいけど、こんな状況で帰ったら、祖父母に怒られそうだしな。
「はぁー、その化け物について詳しく聞かせてくれ」
その瞬間、避難所の空気が変わった。
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