26.社畜、今は夏なのか……?
畑に野菜の種を植えて数日、明らかに畑の光景は変わっていた。
「もう夏になるのか……」
「じいちゃん、認知症ではないからね?」
「修平、そういうのは先に言っちゃあかんよ」
祖父はすぐに冗談で認知症になったって言うからね。
ただ、俺も認知症……いや、別の世界に来たと言ってもいいかもしれない。
だって――。
「トマトとナスは実ができてきたし、枝豆はサヤが膨らんできたね……。きゅうりもいい感じだし……」
「便利な世の中になったのう」
「んー、そういう受け止め方でいいのか?」
すでに十二月中旬に入り、外は寒くなってきた。
普通なら芽すら出てこない時期なのに、畑にはこの間植えた種がすでに実までできている。
トマトは色づけば収穫時期になるし、ナスときゅうりに関してはすでに収穫できそうなぐらいだ。
「ナスときゅうりは収穫しないといけないな」
まだ売っているような見た目でもないのに、祖父は収穫しようとしていた。
「まだそんなに大きくないのに収穫していいの?」
「ああ、はじめに出来たものを採っておかないと、その後が育たないからな」
すでに実はある程度できているが、普通のナスと同じ育て方であれば早めに収穫しておかないと、葉や茎、根がしっかりと大きくならないらしい。
ちゃんと成長する前なのに、実に栄養がいってしまうようだ。
人参で成長促進したら大丈夫そうだが、祖父が言うには成長を早めているだけのような気がするから、ちゃんとした工程は踏むべきだと。
経験の少ない俺より、長年農家をやっていた祖父の話の方が現実味があるからな。
まあ、目の前の野菜たちが一番現実味がないけど……。
野菜によっては育て方や収穫の違いに差が出るため、人参で全てどうにかなるってわけでもないようだ。
俺は言われた通りにナスときゅうりを収穫していく。
「ナスが紫できゅうりは……青!?」
ナスが紫色に輝くのはなんとなく理解はできる。
ただ、きゅうりが青色に光り輝く理由が全く想像つかない。
「水々しいってことかな?」
「きゅうりはほとんどが水だからな」
祖父の話ではきゅうりの約95%ぐらいが水分でできているらしい。
それなら青色に輝くのも納得できる。
ただ、それがわかっていてもどうやって使うかわからない。
ここは我が家の大根様に任せるべきだな。
「ダイコ様、きゅうりの使い方を教えてください」
俺は片膝立ちになり、ダイコにきゅうりを贈呈する。
あの事件からダイコの機嫌が悪くなると、祖母が怒るようになった。
今も祖母は目を光らせて、俺と祖父を見ている。
祖母を味方につけて、本当に頭が良い大根だ。
頼られて満更でもないダイコは地面を葉でトントンと叩いていた。
「これも人参と一緒で埋めるってことか?」
こくりとダイコは頷く。
ちゃんと確認しないと、また祖母に怒られる。
ちなみにあの時ダイコが伝えたかったのは、一緒に卵を温めるって意味だったらしい。
木箱の中に入れると喜んでいたが、蓋を閉めると泣き叫ぶダイコがいた。
それが原因でまた祖母に怒られることになったけどね。
本当に理不尽だ。
今はあの時切ったダイコの葉で卵を包むことで、ダイコには納得してもらっている。
「じゃあ、畑に――」
俺は畑に埋めようとしたら、ダイコに止められた。
葉を絡めて足を組んでいる。
あれは呆れている時のポーズだ。
そして、祖母の目はキラリと光っている。
「うっ……なら普通の地面に植えればいいのか?」
俺は足で少しだけ地面を掘り、そこにきゅうりを置いた。
「えっ……!?」
きゅうりから水が溢れ出し、穴のそとに水が流れていく。
気づいた頃には水たまりのようなものができていた。
いくらなんでもきゅうりからこんなに水分が出てくることがはずがない。
もはや100%水分きゅうりって言ってもおかしくない気がする。
「これで水不足は解消できるな」
祖父の声にハッとした。
まさかきゅうりがそういう使い方になるとは誰も思わないだろう。
山や川が近いし、井戸があるから特に必要ではないが、街中では水問題も起きているだろう。
都会は人口も多いから、今頃大変なことになっていそうだしね。
ウリ科はこれから必要不可欠の野菜になるかもしれない。
「あとはナスだけど……」
チラッとダイコを見つめると、頭を大きく振っていた。
ナスをネギのように振ってみろってことだろうか。
俺は言われた通りに振ってみる。
「……ん? 何もないぞ?」
ナスは反応するような様子はなく、俺はナスクルクル回しながら見つめる。
それでも何も変化はなく、ナスはそのままだ。
「やっぱり収穫が早いとダメなのかな?」
「普通の野菜ができてよかったじゃないか」
「それもそうだね」
俺はナスを置いて作業に戻ろうとするが、ダイコが葉を足に絡めて止めようとする。
「一番果は全部収穫しないといけないから、早く作業に向かわないと……」
作業が遅れると、どんどんできたばかりの実に人参の成長促進の栄養がいくからな。
だけど、俺の言葉にダイコは葉を横に振る。
ナスをツンツンしてから、葉を大きく広げる。
それを何度も繰り返す。
「葉を広げて振れってことか?」
ダイコが納得するまでやらないと俺が祖母に怒られるし、やけに真剣に教えようとしているからやるしか選択肢はないようだ。
俺は言われた通りにやろうとするが、ナスに葉の部分はない。
あるのはヘタだけだ。
「修平、萼を広げろってことじゃないのか?」
祖父はナスのヘタの下にある星形の部分を指差していた。
確かに葉のような形はしている。
ダイコはやっと伝わったのかと足を組み始めた。
時折、あのポーズをするが、地味にムカついてくるんだよな。
俺は言われた通りに萼を広げた。
するとなぜかナスがパチパチと静電気を溜め始めた。
「これって静電気爆弾だったりするのかな?」
玉ねぎは空気を圧縮して爆発したし、にんにくは散弾と悪臭を漂わす爆弾のようなものだった。
ただ、ヒガンバナ科とは違い紫色に光っているけど、同じ攻撃系なんだろうか。
戸惑っていると、ナスにどんどんと電気が溜まり、手で持つのも痛くなってきた。
「おい、ナスは振るんじゃなかったのか?」
「ああ、そうだった!」
俺がすぐにナスを振ると、パチパチとしていた静電気はなくなり、手に痛みを感じなくなった。
だが、それと同時に――。
――バチンッ!
目の前で一筋の稲妻が走った。
空は曇り一つない晴天なのに、雷が落ちてくることはあるのだろうか。
やけにナスの輝いていた光の色と似ている。
俺は近くにあるナスをもう一度収穫して、同じように萼を広げる。
やはり静電気を溜めているのか、パチパチと手に痛み走る。
そして、もう一度大きく手を振る。
――バチンッ!
目の前に稲妻が走った。
やっぱりナスは雷を操る野菜で間違いないようだ。
「修平、これであの化け物を倒せるんじゃないのか?」
祖父の言葉に俺はハッとした。
雷は高い位置あるものに落ちやすいと聞いたことがある。
例えば、高い木や電柱、アンテナがそれにはいる。
避雷針は建物の一番上に付いているのもそのためだ。
それにワシやタカが雷に打たれて、死んでいることもあるぐらいだ。
祖父の言うように雷を操ることができれば、飛んでいる化け物には効果的だろう。
ただ、あの化け物は素早いし、雷がちゃんと当たるかは不明だ。
「当たればの話だけどね」
そう呟いた瞬間だった。
遠くで木々が大きく揺れ、明らかに何かがこちらへ近づいてきている。
「じいちゃん、ばあちゃんとダイコを連れて家に帰って!」
「ああ、わかった!」
祖父は急いで祖母の手を引いて、家に帰って行こうとする。
ただ、祖母はずーっと俺の方を見ていた。
祖母もここに残りたいのだろうか。
でも、このままいたら巻き込まれる可能性が高い。
「じいちゃん、早くばあちゃんを!」
俺の言葉に祖父は無理やり祖母を引っ張っていく。
何度もチラチラと見つめる祖母に俺は微笑んだ。
上空に黒い大きな影が近づいてきている。
今ならどうにかあの化け物を追い払えるかもしれない。
それに――。
「せっかくできた畑を荒らさせるわけにはいかないからな!」
俺は紫色に輝くナスを握り締める。
ちょうどいい。
新しい力を試す相手が向こうからやって来たからな。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします(*´꒳`*)




