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終末世界に帰省した元社畜、実家のネギを抜いたら聖剣でした~俺が収穫した野菜だけ性能がおかしい~  作者: k-ing☆孤独な王子①6/8発売


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22.社畜、にんにく効果に驚く

 野菜を抱えたまま祖父母たちから離れる。

 すると、上空を旋回していたプテラノドンもすぐに反応した。


『グゥアアアッ!』


 鋭い鳴き声を上げながら、俺を追うように飛んでくる。

 やはり初めから狙いは俺だったようだ。

 どこか俺たちを捕食するというよりは、遊んでいるような印象を受けた。

 体が弱くあまり遊びがいがない祖父母を狙うより俺を狙う方が楽しめると思ったのだろう。


「よし、こっちだ!」


 俺も怖くないわけじゃない。

 むしろ恐怖で足が震えている。

 でも、俺が囮になれば祖父母から化け物を遠ざけられる。

 ちらりと振り返ると、畑の中には祖父と祖母、そしてダイコの姿が見えた。

 遠くから見ても祖母が心配そうな顔をしているのがわかる。

 さっきの言葉が頭から離れない。


「気を……つけて……」


 俺が帰ってきてから、一度も発せられることがなかった祖母の言葉。

 だからこそ、絶対に生きて帰らなければならない。


「帰ったら大根の味噌汁を飲むんだからな!」


 自分に言い聞かせるように叫ぶ。

 すると化け物が急降下してきた。

 それもさっきより速く、まるでミサイルが落ちてくるかの勢いだ。

 巨大な翼を広げたまま一直線に迫ってくる。

 その口には鋭い歯が何列も並んでいた。


「うわっ!」


 慌てて白菜を一枚めくって前に突き出す。


――ガギィィン!


 金属同士がぶつかったような音が響いた。

 化け物は見えない壁に激突し、その場で大きく体勢を崩す。

 かなり勢いよく突っ込んできたのに、それでも死なないってことは、ウサギよりもかなり丈夫なんだろう。


「今だ!」


 俺は脇に抱えていた玉ねぎを掴む。

 見た目は普通の玉ねぎだが、人参で急成長したできたばかりのものだ。

 きっとネギと同じヒガンバナ科なら何か起こるはず。


「どうにかなれ!」


 思いっきり化け物に投げつける。

 玉ねぎはそのまま空中を飛んでいくと、その途中でみるみる膨らみ始めた。


「……えっ?」


――ドォォォン!!


 俺が伏せる暇もなく、化け物に当たると激しい爆発音が響いた。

 爆風が周囲の草木を揺らし、地面の砂埃が舞い上がる。


「マジかよ!?」


 思わず叫んでしまう。

 まさか玉ねぎが爆弾になるとは予想外すぎる。

 だが、喜んだのも束の間だった。


『グゥアアアッ!!』


 砂埃の中から化け物が飛び出してきた。

 顔の一部が爆発した衝撃で凹んでいる。

 まるで圧縮された空気が一気に広がったことで、殴られたような衝撃になったのだろう。

 しかし、致命傷には程遠い。

 むしろ怒り狂っているようだった。


「やっぱり一発じゃ無理か!」


 俺は次々と玉ねぎを手に取る。

 すると、手に持った状態からわずかに玉ねぎが生きているかのように呼吸しているような気がした。

 まるで大きく息を吸って、空気を溜め込んでいるようだ。

 ある程度膨らむと、再び俺は玉ねぎを投げる。

 化け物は玉ねぎを目の前に勢いよく体を反転させた。


――ドオォォォォン!


 そのまま玉ねぎは空中で爆発した。

 どうやら直接当たらなくても、爆発はするようだ。

 さっきよりも威力が強い爆風に俺は姿勢を崩す。

 その上を化け物は過ぎていく。

 運良く爆風で倒れなければ、今頃化け物に殺されていただろう。

 それに玉ねぎは直接当たらないと、ダメージにはならないようだ。

 再び立ち上がり玉ねぎを投げる準備をする。

 だが、全く化け物には当たる気配がない。

 むしろ俺が投げ終わるのを待っているようだ。


「避けるなよ!」


 翼を傾けながら空中を滑るように移動する。

 当然のように避けられる。

 むしろ一発目が当たったのが奇跡だったらしい。

 化け物は俺が投げても届かないところで空高く舞い上がり、そのまま旋回する。

 こちらの様子を窺っている。


「賢いな……」


 化け物の中ではかなり頭が良いのだろう。

 無駄に突っ込んでこないし、さっきから安全な距離で観察している。

 その様子が逆に不気味だった。

 俺はさらに玉ねぎを握るが、向こうも学習している。

 いつでも投げる準備はしているのに、全く近づこうとしない。


「くそっ!」


 試しに爆風を使って、撃ち落とせないかと思ったが、さらに上空に逃げるため当たらない。

 気付けば足元には玉ねぎの皮が散らばっていた。

 玉ねぎも残り1つになってしまった。

 今から畑に向かっても、化け物を避けながら野菜の収穫ができるだろうか。

 それに祖父母が畑から逃げてなければ、まだあの場にいることになる。

 どうしようか迷っていると、化け物は突然旋回をやめた。

 やっとこっちに降りてくる。

 そう思ったが、奴は嘲笑うかのように声を発して方向を変えた。


「まさか……!?」


 嫌な予感が的中した。

 化け物の向かう先は俺たちが育てた畑。

 そして、目を細めてみると、そこにはまだ祖父母たちがいた。


「やめろおおおお!」


 俺は最後の玉ねぎを全力で投げた。


「当たれぇぇぇ!!」


 だけど、化け物は上空に逃げて届かない。

 上空で激しい音を立てながら、虚しく爆発しただけだった。

 祖父母の方へ向かうフリをして、俺に玉ねぎを投げさせるつもりだったようだ。

 俺はまんまと騙されてしまった。

 化け物は砂埃の中、俺の方に向かってくる。


『ギャギャ!!』


 どうすることもできない俺を見て笑っているのだろう。

 祖父母を守ると言ったのに何もできなかった。

 俺には祖父母を守る力すらなかった。

 化け物は俺の目の前に来ると大きく口を開けた。

 俺なんて丸呑みできるだろう。

 そう考えただけで、俺は膝から崩れ落ちた。


「俺には――」

『ギイャアアアアアア!』


 その時、耳の奥がキーンっと痛くなるほどの叫び声が聞こえてきた。

 あれはダイコの叫び声だ。

 大根に指示を出す時にしか叫ぶことはなかったのに、まるで俺を鼓舞しているような気がした。

 だけど、それは間違いだった。

 化け物は俺を痛ぶるのやめて、ダイコに興味を示した。


『ギャギャ!!』


 明らかに標的はダイコに向いている。

 それも空を飛ぶわけでもなく、ドシドシと音を立ててわざと歩いて近づいていく。

 地面が微かに揺れる衝撃が、化け物への恐怖心を刺激する。

 それでもダイコは逃げることなく、葉を大きく広げた。

 まるで祖父母を守ろうとしているように見える。


「守るって約束したんだろ!」


 俺は自分の太ももを何度も強く叩く。

 何ができるかはわからない。

 だけど、俺が諦めたら家族全員が死んでしまう。


 祖父は逃げろと言った。

 祖母は俺を止めた。

 そして今、ダイコはたった一体で祖父母を守ろうとしている。


「逃げるな! 俺の家族はじいちゃんとばあちゃん……そしてダイコしかいないだろ!」


 俺は必死に立ち上がった。

 でも、もう手元には玉ねぎはない。

 残っているのはにんにくだけだ。

 正直にんにくには期待していない。

 玉ねぎが爆弾なら、にんにくは何が起きる?

 ひょっとしたら臭くなるだけかもしれない。

 だけど……今はやるしかない。

 祖父母まであと少し。


『ギイャアアアアアア!』


 ダイコだって必死に祖父母を守ろうとしている。

 間に合わなければ食われる。


「頼む! 俺たちを助けてくれ!」


 俺はにんにくを思い切り投げた。

 白い球体が空を飛ぶと、化け物の胴体に直撃した。


――パァン!


 その瞬間、乾いた音が響く。


「割れた……?」


 玉ねぎのように爆発するのかと思ったが、爆風が起こるわけでもない。

 ただ、風船が割れるような音が聞こえた。

 やはりにんにくは――。

 次の瞬間、砕けたにんにくの欠片が四方八方へ飛び散る。


――バババババッ!


 まるで散弾銃のような鋭い音が連続する。


『ギャアアアアアッ!?』


 化け物が今までにないほど絶叫する。

 翼や首、そして胴体に飛び散ったにんにくの欠片が次々と突き刺さっていく。

 俺が思っていたよりも、にんにくは危険な野菜だった。

 化け物はその場で大きくバランスを崩す。


「倒したか……」


 俺はあまりの嬉しさに思わず拳を握る。

 しかし、それだけでは終わらなかった。

 砕けたにんにくから黄色の煙のようなものが噴き出していた。

 決して他の野菜みたいにキラキラしているわけではなく、どこか空気が重くなったように見える。


「なんだあれ……」


 風に乗ってこちらへ流れてくる。


「ぐっ!?」


 鼻に届いた瞬間、あまりの臭さに涙が滲んだ。

 とにかく臭い。

 真夏のゴミ捨て場に腐った魚を放り込み、それを排水溝の泥で煮込んだような臭いだった。

 それに目や鼻を刺激するだけではなく、体の毛穴という穴がヒリヒリするほど痛みを感じる。


「おぇっ……」


 俺は思わずその場で吐いてしまった。

 鼻の奥が痛いし、目まで染みる。

 呼吸するだけでも苦しい。


「なんだこの臭いはぁ!?」


 畑の方から祖父の悲鳴が聞こえた。

 ダイコは必死に葉でパタパタと扇いでいる。

 刺激臭がこっちばかりに向かっているのはそのせいだろう。

 そして最も苦しんでいたのは、体に直接当たった化け物だった。


『ギャアアアアア!!』


 地面で転がるようにもがいていた。

 必死に匂いを落とそうとしているのだろう。

 翼をばたつかせ、首を大きく降っても変わらない。

 その場で苦しむ姿がまるで毒ガスでも吸ったようだ。


「にんにくって最強じゃん……」


 確かににんにくって食べたら美味しいが、翌日まで臭いが残っていたり、食べすぎるとお腹を壊したりと結構厄介だったりする。

 散弾と悪臭。

 どう考えても嫌がらせ特化な野菜だ。

 だが、効果は絶大だった。

 化け物は完全に戦意を失っているのか、その場で項垂れている。

 何度も鳴きながら、翼をはばたかせると高度を上げた。

 そしてそのまま方向転換する。


「逃げ……た?」


 まさかの行動に俺は唖然とする。

 あれほど暴れていた化け物が、本当に逃げていく。

 俺はその場にへたり込んだ。

 全身から力が抜ける。

 助かった……。

 本当に助かったんだ。


「うおおおおお!」


 俺はあまりの嬉しさに声をあげる。

 そんな俺に化け物は見向きもせずに飛んでいく。

 これで問題は解決した。

 そう思った瞬間、飛び去る化け物の進行方向が目に入る。

 見覚えのある方向は軽く山を超えた場所。

 嫌な予感しかしない。


「町に向かったぞ!」


 祖父の声に俺はすぐに現実へ戻された。

 もしあの化け物が町に向かったらどうなる?

 避難できていない人がいたら?

 避難所で生活している人たちは?

 警察官の友達――拓也はどうなるのか。

 あんな化け物が町を襲ったら、警察官の拓也がいたところでどうにもならない。

 助かったはずなのに、なぜか背筋を冷たいものが走った。

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