21.社畜、覚悟を決める
「便利な人参じゃな!」
「いやいや、こんなに成長すると怖いでしょ……」
にんにくや玉ねぎを畑で育てるようになってから数日後、立派に成長した姿がそこにあった。
にんにくは下葉がすでに枯れ始め、玉ねぎの茎も倒れている。
ええ、祖父が言うにはもう収穫時期らしい。
植えてから一週間程度で収穫時期になるとは誰も思わないだろう。
「ダイコ、本当に植えるのか?」
俺の言葉にダイコは大きく頷く。
ダイコが持ってきたのは大根の種をはじめとする野菜の種だ。
異様な成長速度だったので、試しに種用に残していた近くの野菜に人参を与えたら、すぐに花が咲き種が実った。
人参があれば季節や時間は関係ないのか、それとも俺たちの時間の感覚がおかしいのかすらわからない。
空を見上げて日にちの確認はしているが、化け物が現れてから一日が短くなったのだろうか。
「種も立派だな」
「やっぱり大きいよね……」
それに種自体が普通のものより大きくなり、祖父が言うには同じアブラナ科だから大根と白菜が交雑したかもしれないと。
基本的には交雑しないようにネットを被せたり畑を分けたりするらしいが、すぐに花が咲いたから準備が間に合わなかった。
「強くなったダイコになるかもしれないな」
祖父の言葉がやけに現実味を帯びており、少し怖くも感じる。
次からは種の収穫も考えて、植える畑を変えた方がいいのかもしれない。
そして問題は――。
「玉ねぎとにんにくにどういう効果があるかだよね」
ネギと同じヒガンバナ科なら、予想通りなら攻撃的な野菜になると予想している。
収穫してダイコみたいな動くタイプだと尚更困る。
だって、攻撃的なんだぞ?
反抗期のにんにくや玉ねぎがでてきたら、俺はどうすればいいかわからない。
「おー、にんにくも玉ねぎも立派だな」
そんな俺とは反対に祖父とダイコは楽しそうに野菜の収穫をしていた。
まあ、俺が収穫するわけじゃないから、そっちの方が安心だもんね。
「ばあちゃんも反抗期の――」
俺は椅子に座っている祖母に話しかけると、何か気になるのか周囲をキョロキョロとしていた。
以前の祖母ならただソワソワしているだけかと思っていたが、ここ最近は落ち着いていることが多かった。
時折表情も変えるぐらいなのに、今日に限っては不安そうな顔をしている。
「じいちゃん、ばあちゃんがおかしいよ!」
「おかしいってばあさんは認知症……」
祖父とダイコも急いで祖母の元へ駆け寄ってきた。
だけど、明らかにここ最近とは違う行動に祖父も何か異変を感じたのだろう。
「ばあちゃん、大丈夫だよ!」
「ああ、何も怖いものはないぞ!」
まるで何かに怯えるような反応をずっとしていた。
俺が両手で顔を挟んでも、無理やり首を動かそうとしている。
頬がむにっと潰れているのも気にせず、周囲をキョロキョロと見回していた。
すると、突然祖母は顔を上げた。
「上に何か……化け物!?」
上空から俺たちを狙っているのか、鳥のような化け物が大きな口を開けて近づいてきた。
咄嗟に祖父母を引き込むように抱き寄せて倒れると、俺たちがいたところに大きな歯がギラリと見える。
すぐに化け物は羽ばたき、再び上空に戻っていく。
あのまま立っていたら、俺たちは頭から食べられていただろう。
さっきのは一体なんだったのか。
すぐに俺もネギを抜き、構えるが見たこともない生物に戸惑いを隠せない。
「じいちゃん、そのまま身を隠して畑の中に向かって!」
「ああ!」
祖父は祖母を連れて、しゃがみながら畑に移動していく。
もちろん俺も化け物を警戒しながら、ゆっくりと下がって畑に向かう。
あそこにはたくさんの野菜があるから、自衛手段はどうにかなる。
だが、あんな化け物にどうやって立ち向かえばいいのか俺にもわからない。
まるで――。
「「プテラノドンみたいだな……」」
俺と祖父の声が重なる。
さっき襲ってきた鳥のような化け物は恐竜図鑑で見たことあるプテラノドンに似ていた。
どこか鳥に似ていて、恐竜にも似ている。
そんな姿だった。
「修平、来るぞ!」
上空をクルクルと回っていた化け物は、再び狙いを定めて俺たちを襲ってくる。
俺は逃げにくいように斜めにネギを振り下ろすが、何かに気づいた化け物は体を斜めにずらした。
「避けた?」
何度もネギを振り下ろすが、化け物は体を捻って真っ二つになることなく近づいてくる。
咄嗟に俺は白菜を手に取り、葉を千切って祖父母と体を寄せ合う。
――ガチン!
勢いよく飛んできた化け物は何かにぶつかったのか、その場で勢いを緩めた。
そのままウサギの時みたいに死んでくれればいいものの、何度も見えない壁にキツツキのようにカツカツと音を鳴らす。
やはり見た目はプテラノドンに似ていた。
化け物は見たことあるような動物型や人型ばかりだと思っていたが、空想上のような化け物もいるとは思わなかった。
白菜を何枚もめくっても、攻撃するのをやめない。
次第に白菜から光を失い始めた。
それと同時に化け物は羽ばたき、上空に戻っていく。
「じいちゃん、すぐに逃げる準備を――」
「無理だ。わしを置いて逃げろ!」
チラッと振り返ると、足を押さえている祖父がいた。
額から冷や汗が垂れていた。
まさか足でも捻ったのかもしれない。
さっき勢いよく抱き寄せて倒れたのが原因だろう。
最悪、骨折の可能性もある。
逃げる時に祖父だけ、足を引きずっているような気がしたけど、そんなことになっているとは思わなかった。
「ダイコ、じいちゃんを守れるか?」
俺の言葉にダイコは大きく頷く。
きっとダイコなら祖父母を守ってくれるだろう。
化け物はクルクルと上空を旋回している。
視線がずっとこっちを向いているから、まだ諦めていないようだ。
白菜をいくつも剥いて、祖父母やダイコの周りの畑に刺していく。
祖父母に触れて力がなくなったら守れないからな。
「おい、修平どこにいくんだ!」
俺の様子がおかしいことに祖父は気づいたのだろう。
心配そうな顔で俺を見つめてくる。
そんな祖父に俺は微笑んだ。
「大丈夫! 今度は俺がじいちゃんとばあちゃんを守るからね!」
そう言って、俺は近くにある玉ねぎとにんにく、そして白菜を収穫して脇に抱えた。
「じゃあ、行ってくる」
俺はそのまま祖父たちを置いて離れようとした。
だが、勢いよく服が引っ張られ体が引き戻された。
すぐに顔を確認する。
「じい……ばあちゃん!?」
突然の行動に俺は戸惑った。
まさか祖母に止められるとは思わなかった。
それもどことなく顔が怒っている。
「ばあちゃん、大丈夫だよ」
声をかけるが、それでも祖母はギュッと俺の服を掴んだまま離そうとしない。
まるで俺をあの化け物のところに行かせないようにしているみたいだ。
「ばあちゃんは昔から心配性なんだからな」
「こんな時も変わらないね」
祖母はいつも俺を第一に考えてくれる優しい家族思いの優しい人だ。
だからこそ、そんな祖母や祖父を守りたいと思った。
俺は優しく祖母の手を握り、指を外していく。
祖母は小さく小刻みに震えていた。
俺が危険なことをしようと気づいているのだろう。
祖母は昔から勘がいい人だったからね。
でも今はどうにかあの化け物を遠ざけないと、誰も助からない。
「帰ってきたらばあちゃんの作る大根のお味噌汁が飲みたいな」
何か安心するようなことを言いたかったが何も出なかった。
ただ、頭の中で祖母が作る大根のお味噌汁が浮かんだ。
温かい祖母のお味噌汁。
いつも食べやすいサイズの大根が美味しかったな。
きっとそんな気持ちも祖母には伝わらないだろう。
だけど、祖母は小さく頷いた。
震える唇が何かを伝えようとするように動く。
俺は思わず足を止めた。
「気を……つけて……」
微かに発せられた声に俺は微笑む。
留守番電話で聞いたのが最後の声だった。
それから話すこともなかった祖母が小さな声で俺を送り届けてくれた。
「行ってきます!」
俺は野菜を持って、祖父母たちの元を離れた。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします(*´꒳`*)




