15.社畜、家族が増える?
目の前の光景に唖然とする。
大根の軍団は葉で土を掘り、雑草の根を取り除いていく。
まさか大根が自動耕運機になるとは思わないだろう。
「我が家が大根だらけになるぞ。楽しみだな!」
「じいちゃん、そこ!?」
「家は賑やかな方がいいからな」
祖父は大根集団を見て特に気にしていないのだろう。
家族が増えて楽しくなるぐらいに思ってそうだ。
まあ、俺もどっちかと言うと、そっちの認識でいるけどね。
ダイコだけでも、謎の存在なのにダイゴにダイゴンにダイゴーン――。
「あー、名前が思いつかないな」
俺は空を見て項垂れる。
まさかこんなに名付けをする機会があるとは思わなかった。
しばらく大根たちを見守っていると、ダイコの元へ戻ってきた。
まるで親分と子分みたいだ。
「みんなありがとう」
俺は大根たちの元へ向かいお礼を伝えた。
すると大根たちは揃って横揺れをして喜んでいる。
大根って思ったよりも感情豊かな生物……植物なんだよな。
最近は大根が可愛く見えているぐらいだし。
「ダイコも助かったよ」
指示出しをしてくれた大根を褒めると、胸を張っていた。
さすが親分って感じだ。
『ギイャアアアアアア!』
「なっ……なにっ!?」
再び叫び出したダイコに俺は驚いた。
何かやってしまったのかと思い、周囲を確認するがそんな様子はない。
叫び声に近いから、急に叫ばれるとびっくりしてしまう。
「いきなり叫ぶ……えっ、帰るのか?」
ダイコが葉を振ると、大根たちは一斉に向きを変えた。
まるでダイコの指示なのか、大根たちは何事もなかったかのように、自分が埋まっていた畑に帰って行った。
静まり返る畑で俺はそっとダイコに聞いてみる。
「俺、何かしたか?」
ダイコは葉を傾けたあと、大きく横に振った。
特に何かして帰ったわけではないようだ。
単に仕事を終えたからだろう。
畑が急に静かになるから、さっきまで大根が動いていたのが嘘みたいだ。
でも、畑はしっかり耕してあるから問題はなさそうだ。
「寂しいのう……」
祖父は小さな声で呟いた。
ここにいる大根がダイコだけになって、少し寂しそうだ。
「さすがにあれだけ大根が家にいたら大変だよ」
そんな祖父をダイコは葉でヨシヨシと慰めている。
俺がいなくなってから祖父は祖母の面倒を見て大変だったと言っていた。
だけど、祖父も一人で祖母の面倒を見ていて寂しかったのだろう。
あんなに家族が増えると喜ぶ人だとは知らなかった。
長いこと一緒に住んでいたのに、祖父の新しい一面を知ることができた。
「じゃあ、俺は種を持ってくるけど……何がいいかな?」
せっかくだから大根たちが耕してくれた畑で何かを植えることにした。
「何を買ってきたんだ?」
「あー、適当な種とにんにくの種根とか玉ねぎの苗だったかな?」
どれがいいのかわからず、ホームセンターにあるものを数個持ってきた。
種はパッケージを見ないとわからないほど覚えてないし、わかっているのはにんにくの種根と玉ねぎの苗ぐらいだ。
種じゃないってことは、植える時期が今頃だと思ったのもある。
「おー、にんにくと玉ねぎなら早くしないとダメだな!」
どうやら俺の勘は当たっていたようだ。
祖父の話では秋に植えることができる野菜らしく、植えるなら今がギリギリの時期らしい。
「なら今すぐに持ってってててて……あぶないよ!?」
俺はすぐに取りに行こうとしたら、ダイコの葉で足を止められた。
そのまま転びそうになったが、ギリギリ倒れる前に姿勢を戻した。
「どうした?」
俺の言葉にダイコは葉を緩めると、人参の方を差していた。
今度は人参を収穫して欲しいのだろうか。
「人参が欲しいのか?」
ダイコは何度も葉を頷くようにペコペコと縦に揺らす。
俺は言われた通りに人参をゆっくりと抜いてみる。
ダイコのように動き出すのかと思ったが、動くこともなく、ただ光っている。
「んー、橙色だから動かないのか?」
ネギは黄色、大根や白菜は緑色、人参は橙色と、どういう理屈で色の違いがあるのかわからない。
ただ、突然動き出すこともないため、大根が食べたいのかもしれない。
「食べるか?」
俺は大根の口がありそうなあたりに持っていくが、葉でペシペシと叩かれてしまった。
どうやら使い方が違うのだろう。
「んー、とりあえずダイコに任せるよ」
何本か欲しそうな態度をしていたため、数本抜いたらダイコに任せて、俺は一度家に帰ることした。
家が見えてくると、外壁の前に誰かが立っていた。
化け物が家の中に入ろうとしているのだろうか。
俺は警戒しながら、ネギを構えてゆっくりと近づいていく。
「化け物――」
「おお、修平くん! 元気だったか!」
人型の化け物かと思ったが、ただのおじさんだった。
見た目が酷くおかしくない限りは分かりづらいからな。
「えーっと……鶴田さん――」
「鴨田だよ!」
そう言っておじさんは足元にいる鳥を見せつけてくる。
いや、それって――。
「ははは、それは鶏だよ」
「ちゃんと覚えてるじゃないか!」
父親の代わりのようにいつもダル絡み……絡んできたのが懐かしく思う。
少し離れたところで養鶏場をやっている鴨田さんが、家の前に立っていた。
「いつ帰ってきたんだ?」
「あー、最近帰ってきたばかりだよ」
「そうか……。じいさんも認知症になったのか?」
きっと祖母が認知症だったのを知っていたのだろう。
「いや、じいちゃんは変わらないよ」
「なら……これはなんだ?」
鴨田さんの視線は外壁に干してある白菜に目が向いていた。
それに何度も俺の手に持っているネギを交互に見ている。
「あっ、これで化け物を――」
鴨田さんは俺の肩に優しく手を置いて、心配そうに俺を見つめる。
あっ、これは勘違いされているやつだぞ。
何度も同じことがあればさすがに気づく。
「都会に出ておかしくなったのか? 変な動物もいたりするし……気づかなくてすまない」
「本気で言ってたら失礼だからね?」
やはり俺がおかしくなったと思われていた。
さすがにネギを構えていたら、そういう話になるのもわからなくない。
だってネギ――。
俺の手に持っていたネギは光を失っていたのに今気づいた。
雑草を刈っていたのを忘れていた。
「ああ……そりゃーおかしいやつに見えるよな」
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