14.社畜、畑を作る
大根を1本収穫すると、ダイコはもういらないのか興味を示さなくなった。
「人参もいらないのか?」
俺の言葉にダイコは頷く。
どうやらダイコは大根を食べて栄養補給しているのかもしれない。
じゃあ、俺たちに紛れてご飯やお味噌汁を飲んでいたけどあれはなんだったのか……。
「じいちゃん、こっちの畑はもう野菜は作らないの?」
俺は隣にある畑が目に入り指差す。
雑草も伸びて、畑の姿はもうない。
「あー、わしだけじゃ管理できないからな」
祖父の言い方だと畑ができないわけではないようだ。
今後生きていくことを考えると、食料は絶対に必要となる。
肉は食べられなくても、野菜があれば数ヶ月はどうにかなるだろう。
その頃には政府もしっかり対応して、ある程度は生活できるようになっている気がする。
「せっかくだから俺がやるよ! 食料も必要だしさ!」
「ここまで荒れた場所だと大変だぞ?」
祖父の言葉に俺は頷いた。
大変なだけでできないわけではない。
それに社畜だった俺からしたら、ご飯が食べられる時間と余裕があり、しっかり寝られるだけましだろう。
「道具は倉庫にある?」
「まだ使えるといいけどな」
俺は畑の近くにある倉庫に道具を取りに行く。
「小型の耕運機と鍬はあるけど使えるかな……」
「耕運機はダメかもしれんが鍬は問題ないぞ」
耕運機はガソリンで動いているため、長年放置していればガソリンを抜いて、掃除をしてから試運転することになるらしい。
小さな畑しか野菜を植えてないため、運動がてらに鍬のみ使っていたようだ。
今すぐにでも作業をするって考えると、鍬で畑を耕していくことになる。
「修平、その前に雑草を全て取らないとダメだぞ」
「あぁ……そうだね」
倉庫に置いてあった使ってない軍手をつけ、再び畑に戻っていく。
目の前に広がる伸び切った雑草に嫌気がさす。
雑草を抜くなんて何年振りだろう。
農家を継ぐ気はなかったのに、自ら雑草を抜くことになるなんてな……。
俺は雑草を手に持ち、おもいっきり引っ張る。
「んー、よいしょ!」
今まであまり出してこなかった力で雑草を抜いていく。
長年放置された畑に根が広がっているのか、中々抜くのも大変だ。
「修平、それだといつまで経っても終わらないぞ?」
祖父の声に俺も頷く。
俺でも雑草を全て抜き終わるのにかなりの時間がかかるだろう。
「抜くより刈った方がいいの?」
祖父の手には鎌を持っており、雑草を一気に刈っていた。
「ああ、刈ってから耕して雑草の根を取り除くのが基本だな」
どうやらいきなり雑草を抜く考えが自体間違えていたようだ。
ここは祖父の指示に従ってやった方が作業も早く終わるだろう。
そんな俺にダイコが葉叩いてくる。
「どうした?」
また収穫が必要になったのかと思ったが、葉はベルトに差しているネギをツンツンしていた。
「ネギで切れってこと?」
俺の言葉にダイコは頷く。
ダイコに言われるまま、俺はネギを手に持ち雑草に軽く当てる。
――バサバザハザッ!
「えっ……?」
風切り音とともに雑草が倒れていく。
数本の雑草に押し当てただけなのに、まるで見えない刃でも飛んだかのように、奥の雑草まで倒れていた。
切った感触もなく、突然落ちてくる雑草に驚いて声すらでない。
「それで一気に雑草を刈った方が早そうだな」
祖父の言う通り、鎌で雑草を刈るよりもネギでやった方が早そうだ。
ただ、本当にネギで切れたのか疑問が残る。
だってネギだぞ?
化け物は変わった存在だから、真っ二つになったのかと思っていた。
本当にネギで雑草が切れたら、刃物よりも危ないものになる。
祖父はダイコを抱きかかえると、後ろに下がった。
「よし、いいぞー!」
祖父は呑気に俺を見ている。
畑作りに慣れた祖父が言うなら、ここはやらないわけにはいかないだろう。
せっかくならどこまで刈り取れるかも、見るべきだ。
ネギを振り回して、色々なものを壊したり、人を傷つけたりしたら大変だからな。
俺はしっかり足を広げて構える。
イメージは一気に奥の雑草を刈り取る。
「いくよ!」
そのままネギを水平に薙ぎ払う。
――ヒュン!
白い刃身にも見える長ネギが風を裂き、畑を覆う雑草へ一直線に走った。
支えを失った雑草が次々と崩れ落ちていくと、長く伸びた雑草は短時間で刈り取った。
「じいちゃん……」
「おぉー、やっぱりそのネギは便利だな。鎌どころじゃないぞ!」
祖父は大根と嬉しそうに喜んでいた。
祖父とダイコは何も思わないのだろうか。
距離としては畑1つ分だから、10m近くは見えない斬撃のようなものが飛んだことになる。
化け物も少し離れたところから真っ二つになっていたが、あそこまで届くとは思わなかった。
「このネギ危険じゃない?」
「そうか? 使い方次第では便利な道具っていくらでもあるからな」
そう言って、鍬を持って大きく腕を上げた。
「じいちゃん……!?」
そのまま鍬は俺の目の前を通り過ぎ、足元の地面に刺さる。
「鍬も人に当たれば危険だけど、畑には必要なものだ」
「そうだけど……」
「そのネギも同じだ。人に当たれば危険だけど、化け物を追い払うには必要だろ?」
祖父の言葉に俺は頷く。
結局はネギも使い方次第なんだろう。
化け物を切ることもできれば、雑草を刈ることもできる。
光がなくなれば食用にもなるからな。
「ネギって便利だな……」
まさかネギがこんなに便利な食べ物になるとは思わなかった。
その後も畑の雑草を刈っていくと、すぐにネギの光は失われた。
やっぱり予想していた通り、使えば使うほど光は失っていくようだ。
外壁に干した白菜も時間経過で元に戻るのか、それとも化け物が襲ってきたのか見比べるのに使えそうだ。
「じゃあ、次は畑を耕すぞー!」
「よし!」
祖父の言葉に俺は気合を入れ直す。
さすがに畑を耕すのはネギではできないため、体力勝負だ。
ここまで雑草が生えていたら、雑草の根を全て取るのも時間がかかるだろう。
俺と祖父が鍬に持ち変えると、ダイコは葉を絡めて手を止めた。
「ダイコも手伝いたいのか?」
祖父の言葉にダイコは頷いた。
試しに鍬を渡してみようかと思ったが、ダイコの背丈に対して鍬がかなり大きい。
鍬が飛んできたら、小さなケガでは済まない。
さっき祖父が目の前で鍬を振り下ろした時は怖かったからな。
どうしようか迷っていると、ダイコは大根の前まで歩き出す。
その場で止まると、大きく足を広げた。
『ギイャアアアアアア!』
断末魔のようなダイコの声が畑に広がる。
「「話すのか!?」」
俺と祖父の声が重なる。
口のようなものがあるから、ひょっとしたらと思っていたが、本当に声が出るとは思ってもみなかった。
ただ、それだけではなかった。
ダイコの声に反応して、大根の葉がモゾモゾと動き出した。
「まさか……」
『ギイャアアアアアア!』
再びダイコの声に反応して、大根が次々と地面から飛び出てきた。
それも脚のように分かれている大根ばかりだ。
中には脚が3本や4本あり、動物のように歩く大根もいる。
もう俺が知っている大根はこの世にないのかもしれない。
『ギイャアアアアアア!』
ダイコは葉を大きく振り、指示を送ったのか、大根たちは畑に走り出した。
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